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ひねくれ黒猫の異世界魔法学園ライフ  作者: Win-CL
2-1-2 黒翼ノ神使編 Ⅰ 【《寵愛者》アンジール】

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第124話 『ヒトゴロシ』

毎日、朝の8時台に投稿予定

たまに大幅にずれる可能性があるので、ブクマ推奨です

「グロッグラーンに戻るぞ! こいつらは――」

「ここに拘束しておきます……!」


 ハナさんが妖精と二、三言小さく言葉を交わすと、あっという間に植物の(つた)が地面から湧き出てくる。そして何重にも野盗をぐるぐる巻きにして、身動きが取れぬよう地面にピッタリと拘束していた。


「むぐぐ……」


 ――野盗たちが、声にならない声を上げる。


 蔓が猿ぐつわの役割も果たしているいるので、大声を出して助けを呼ばれる心配もないだろう。試しに許可を得てからナイフで傷を付けてみたけども、耐久力もそれなりにあるようだった。


 亜人(デミグランデ)の爪でも、これなら抜け出すには丸一日ぐらいはかかるか。


「急ごう、このままだと住人が危ない……!」


 あの野盗の言葉を信じるならば、リーダーはグロッグラーンの村に向かっていると言っていた。自分達を迎え撃たずに、一人だけ別行動した理由は……? 残された男たちの様子から見るに、見捨てたというわけでもないらしい。


『お前らを雇った村の奴等に、落とし前を付けさせに行った』


 そのままの意味で受け取ると、自分たちの強盗生活を邪魔したことによる逆恨み。お門違いもいいところだとは思うが、同じ思考回路で考えてもキリがない。


 自分たちが捕らえるために乗り込んできたのが、この顛末の原因の一つと考えてしまうと血の気が引く思いだった。


 とにかく、被害が出る前にリーダーを捕らえるのが最優先だ。


 いくらあの村の住人がいけ好かない人たちだったとはいえ、被害に遭っても良いというワケじゃないのだから。


「ヒューゴは――」

「もう走ってるぜ!」


 いつの間にかアイツの背中が遠くに。ちゃんと地図を覚えていたのか、ヒューゴにしては方角が合ってるのが驚きだった。


「――アリエスっ!! ハナさんとロアーに!」


「分かってる! しっかり掴まっててよ、ハナちゃん!」

「はいっ!」


 アリエスとハナさんは空から、ヒューゴと自分は林の中を駆ける。野盗の拠点から村までは、それほど離れてはいない。二十分も走り続ければ到着するだろう、と予想していたのだけれど――


「ふぅ……はぁ……!」


 五、六分ぐらいしたところで、ヒューゴの表情に疲れの色が見えてきた。


「ヒューゴ! アンタ体力なさすぎよ!」

「うっせぇー! 俺も乗せろぉ!」


 そりゃあずっと飛んでるんだから、体力の消費は走るよりマシだよなぁ……。


「残念! 二人乗りですー!」

「ごめんなさい、ヒューゴさん……」


「くっそぉぉぉぉぉ!」


 走りながら喧嘩するとか、まだ余裕あるじゃねぇかこいつ。


 自分もずっと走りっぱなしだけども、まだ息切れする程じゃない。ただ、ヒューゴを置いていくわけにもいかないので、アリエスにロアーの速度を落とさせて。そうして走り続けること十数分――


「はぁ……走りきってやったぞオラァ!」


 ヒューゴが倒れる前に、グロッグラーンの村になんとか辿り着いた。

 ――いや、辿り着いてしまった。()()()()()()()()()()


「キャアアアアア――――!!」

「――っ!!」


 甲高い悲鳴が響く。どこから、なんて考える必要もない。

 芳しくない状態に、内心で舌打ちをした。


「もう村の中に入ってるぞ!!」

「急ぎましょう!」





「う、うう……」

「――っ! 誰か倒れてるぞ!」


 村の正門から少し入ったところで、村の男達が倒れているのが見えた。何人かは腹や腕から血を流しており、野盗のリーダーにやられたのは明白だった。


「外から来た男が……急に斬りかかってきて――」

「ひどい……」


「ハナさん、魔法で治療できるか?」

「はい……任せてください」


 そう答えて治療に集中するハナさんに、一応の用心としてアリエスについてもらう。ヒューゴと村の中へと入っていくと――男の怒声が響いてきた。


「俺たちを始末しようたぁ、なかなか肝が据わってんなぁ、神父さんよォ! えぇ? 大人しくしてりゃあ、自分の命だけは守れたってのになぁ――!!」


 短剣を持っている亜人(デミグランデ)――耳は丸く、灰色の毛が全身を覆っている。あれは……ハイエナか? 偏見かもしれないけども、野盗の親玉には相応しい気がしないでもない。


「神父さまはそんな卑怯なことは決してなさいません! 悪は悪と、正義の心をもって立ち向かってくださるお方です!」


「アリューゼ……」


 野盗と激しく剣を打ち合っているのは、なんとアリューゼさんだった。その後ろの地面には、血を流しながら右手を抑えているラフール神父がいた。


 自分たちが村に着く前から戦闘が始まっていたのだろうか。アリューゼさんの息は途切れ途切れで、肩を大きく上下に揺らしていて――


「――ふぅっ!」


 亜人(デミグランデ)としての身体能力にアドバンテージがあるのか、鋭く突き出されたアリューゼさんの剣を、野盗の短剣が激しく打ち払う。


「もらったァ!」

「マズいっ!!」


 まだ間に割り込むには距離が足りない。必死に走るも、既に野盗の剣は追撃のために振り下ろされる直前で。このままではアリューゼさんが、と思った次の瞬間――


「ぐぅっ……!!」


 なんと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 教会から支給されたのであろう厚手の祭服が、激しく切り裂かれた。背中を大きく袈裟斬りにされ、痛みを押し殺したような声が漏れる。


「っ――! あ゛ああぁぁ!!」


 ――その瞬間は、ひどくあっさりとしたものだった。自分の動体視力もあってか、妙に静かに、ゆっくりに、そして鮮明に映った。アリューゼさんが突き出した長剣が、野盗の身体を真っ直ぐに貫いた、その瞬間が。


 ここからでも確認できる。

 相手を絶命に導く、致死の一撃。


 善と悪。襲う側と守る側。

 真剣な、命のやり取り。殺し合い。


 野盗は殺されても仕方のないことをしたのだろう。

 それでも――人を殺す瞬間を見て、ドキリとしないわけじゃない。


 ……俺は“それ”が嫌で嫌で、家を飛び出したのだから。


「――神父さまっ!? ……っ。いま治療します……!」


 死体から剣を抜くことすらせず、大怪我を負った神父の前に跪くアリューゼさん。彼女が手を組んで祈ると、その身体から服の布地を越えて魔法光が湧き上がる。それは――魔法陣とは少し違う、紋様のようなものが、全身に広がっているようにも見えた。


「……これが神告魔法か……?」


 それは淡く薄緑色の光を放つと、神父を中心にしてドーム状の空間を作り出した。みるみるうちに、背中にあった傷が小さくなっていく。ハナさんの妖精魔法でも傷を治療する様子は見ていたけども、それとは数倍は速度が違う。


 魔法陣は身体の紋様がその役割を果たしているのだろうか。詠唱はいらない、祈るだけで魔法が発動していた。どういう仕組なのかは理解が追い付かないが、確かに特別な者にしか扱えない、ということだけは分かる。


「これでなんとか……っ」


 魔法の行使による光が収まっていく。ラフール神父の治療を終え、大きく息を吐いて立ち上がろうとしたアリューゼさんが、ぐらりと蹌踉(よろ)めいた。


「アリューゼさん……っ!」

「大丈夫ですか!?」


「え、えぇ……神父さまも、一命を取り留めることができましたので」

「それじゃあ、早く神父さまを教会のベッドへ――……」


 アリューゼさんに駆け寄り、無事を確認したところでアリエスが言葉に詰まった。


「えっと……なんなんだろ、この嫌な感じの空気……」


 その視線の先にいたのは――野盗の被害に遭わぬよう、家の中に退避して傍観していた村の住人たちだった。彼らの視線は、全て死体から剣を抜くアリューゼさんに向けられたもので。嫌悪と畏怖の感情が顕わになっていた。


 彼女が少し身動きするだけでも怯え、悲鳴を上げる。それは――同じ村で生活している住人ではない。外から入ってきた“敵”に対して行うような反応だった。


「わ、私は……」


 彼女が一歩踏み出すと、ざざっと住人が距離を離す。

 その中には、塀の外で彼女に助けられたメアリもいた。


『ひっ』と声を上げるメアリ。その視線は、花を渡していた時の面影などは欠片ほども残っておらず、怯えた色を見せている。


「あ――」


 メアリが母親の影に隠れたのと同時に――ヒトゴロシ、と。誰かが小さく呟いたのが聞こえた。


「――――っ!」


 ……違うだろうが。それは違う。


 彼女は守るために戦っただけだ。

 ラフール神父を。この村を。


「誰のために彼女が戦ったと――」


 他の誰もが動かないから、自らが剣を取るしかなかった。

 そこに――責められる()われはないはずだろう。


『ありがとう』と感謝の言葉を口にしないどころか、『人殺し』と罵るだなんて。

 本当にどうなっているのか。そこまで嫌っているのか。


「――っ」


 唇を噛み締め、今にも泣きそうな表情になって、彼女は翼を広げ飛び上がってしまう。羽ばたき向かった方向からして、塀の外の小屋に帰るようで。それをいち早く察したのか、珍しくハナさんが村の入口へといの一番に走り出した。


「アリューゼさんっ!!」

「ハナちゃんも!?」


 ――どうする。あとを追うか?

 教会の方からは、シスターが二人、急ぎ足でこちらへと来るのが見える。


――――――――――――

 アリューゼさんのあとを――


▷追う。ハナさんも、アリューゼさんも放ってはおけない。

 追わない。アリエスたちに任せて、まずは神父を教会に運ぼう。

――――――――――――


「すみません。あとは私達にお任せください。――みなさん! 傷の治療は済んでいますが、揺らさないようにお願いします!」


 片方は神父からサフィアと呼ばれていたか。もう片方の名前は分からないが――その二人が神父に駆け寄り、住民たちへ搬送の指示をする。


 流石に教会の関係者に言われたことならばと、住民たちが動いたのを確認して、自分たちはハナさんとアリューゼさんを追うため走り出した。

挿絵(By みてみん)


ここまで読んで頂き大変感謝です。もしよろしければ、下部の☆欄にて現段階の期待度等の気持ちを表して頂けますと今後の励みとなります。沢山の人に読んでいただけるよう、皆さんの声や応援をどうかよろしくお願いします。

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