第107話 『感謝してるんだ』
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ルルル先輩は結局、顔を見せることはなく。
あれよあれよという間に、卒業式当日が訪れてしまった。
式に関しては在校生も強制参加。まぁ、それは当たり前なんだろうけれど――
「わりと探し回ったんだけどなぁ……。ほんとに寮から一歩も出てないのか?」
「うーん……。流石に式には出るでしょ? ルルル先輩も、三年生なんだし」
始まる時間より少し早めに来たのが、裏目に出てたらしい。入り口に生徒がごった返していて……。先輩を探して話をしようにも、半ば強制的に席に着かされてしまった。
学年毎に列が分けられており、更にそこから学科毎にブロックが区切られている。学年の順番こそ違うが、それ以外は自分たちの入学式と同じ形だ。
――入学した頃とは違って、今では学園の様々なことを知っている。
ところどころにある、学年別の列の端に用意されている空席だってそうだ。
あの時はただの予備としか考えてなかったけれど、あれは《特待生》のための席だ。……ただ、ヴァレリア先輩もクロエも座っていない。というか一人も座っていないことから、あくまで気が向いた人だけのものなのは十分に分かった。
「本日は、優秀な魔法使いたちを数多く送り出す、素晴らしい日となりました。各々、立派な花を咲かせることはできたでしょうか――」
式が始まり、粛々と進められていき。今は卒業生一人一人に、証書の授与と魔法による契印が行われている。これが他所の大陸や国へ行った時の身分証明書代わりになるのだとか。ここら周辺はそこまで厳しくないが、そういった地域もあるらしい。
「ルルル先輩は――」
……いた。三年の、機石魔法科の列の先頭に座っている。既に学園長から証書を受け取っているのが見えた。
卒業生の席をざっと眺めてみると、ルルル先輩の近くには【黄金の夜明け】のジード先輩の姿が。少し前の列は妖精魔法科で、同じくフィーリ先輩が座っている。
最前列が定理魔法科ということは……にはるん先輩もあそこに座っているんだろう。たぶん。背が小さいせいで、耳すら見えないけど。
「そういえば、【黄金の夜明け】はどうなるんだ?」
「……え?」
隣に座っていたキリカに、小声で話しかける。
……決して、ステージの上で始まった学園長の話が退屈なわけじゃない。
「先輩たち三人が卒業したら、お前とタミルの二人だけになるだろ」
「うーん……。たぶん、テイラー先生が新入生から探して入れるんじゃない? 私達の時もそうだったし。……それに、ニハル先輩は学園に残るって言ってたよ」
「に、にはるん先輩、残るのかよ……」
このパンドラ・ガーデンでは、三年間の教育課程を終えても、《研究生》として学園に残ることができる。……ヤーン先輩も、同じような名目でずっと学園にいたんだったか。
学費という名の滞在費を払い続けていればOK。しかも、その学費も大した金額ではないし。更には学園に所属していれば、依頼が勝手に舞い込んで来るのだから、特にこれといって将来の夢や目的がなければ、これほど住みよい場所もないのだろう。
「先輩も、ちゃんと目的があって残るって言ってたけどね」
「目的ねぇ……」
あれだけ魔法を使えるんだから、これ以上勉強することもないだろうに。
……でも、一応は自分に魔法の使い方を教えてくれた先輩の一人である。師匠とまではいかないけども、いい先輩であることは間違いなくて。そのにはるん先輩が学園に残ると聞いて、嬉しくないわけでもなかった。
「――それじゃあ、式はこれで終わりだ。卒業生は後で正門から、それぞれの街に送り出す。話があるなら、それまでに済ませておけよ」
というテイラー先生の言葉により、卒業式は締め括られた。
卒業生がまたこの学園に足を運ばない限りは、ここが最後の挨拶となる。大体は世話になった先輩に、基本的に同じグループだった先輩を、後輩が送り出す形になるのだけれど――ルルル先輩はどこに行った?
在校生である自分たちが、先に退場して待っている。
なので、知らないうちに馬車が出たというのは有り得ない。
こっちには来ずに、まだ学園の中にいるのか……? 並んで退場というわけじゃなかったので、集団から抜けることもできないわけじゃないし。
「それじゃあ、バイバイ」
「フィーリ先輩も、ジード先輩も、お元気で」
「暇な時に、いつでも遊びにきていいんですからねー!」
【黄金の夜明け】の先輩たち(ただし、にはるん先輩を除く)を送り出す。フィー里先輩は故郷に戻り、ジード先輩は機石魔法がもっと盛んな国に行くらしい。
「キリカ、【黄金の夜明け】しっかりね」
「タミルも、力を使いこなせるように、修行しろヨ」
「まぁ、ボクがいれば安泰ですけどねっ! 二人共、心配は不要ですよ!」
ふんすと言わんばかりに息巻いて、腕組みをするにはるん先輩。
確かに、頼りになるには頼りになるんだけど……。
「はぁ……ちょっとみんなこっちに来てくれる?」
「――――?」
ちょいちょいと、自分を含め一年である六人がフィーリ先輩に呼ばれる。
「ニハルには定期的に釘を刺しておかないと、調子に乗っちゃうから」
本人には聞こえない様、音量を抑えて。
キリカなんて、『よろしくね』と肩まで掴まれて。
「よ、よろしくと言われましても……」
「私たちには真似できないというか……ねぇ?」
わりと辛辣な言葉をかけていた印象だけど、こちらが素の様だった。
「簡単簡単、ほら――」
そう言って、にはるん先輩の方を向いて一言。
「調子に乗んなー! ドブネズミー!!」
「なっ……!?」
いや、前言撤回だ。
絶対、好きでやっているに違いねぇ。
「シロウサギだって言っているでしょうが!!」
「――ね?」
『ね?』じゃないが。
どうすんだ、憤慨してるじゃないか。
「まったく、貴女ときたら初めて会ったときから変わりませんね!!」
「ま、そんなカッカすんなっテ。お前はこの三年で、だいぶ変わったゼ」
ピョンピョンと飛び跳ねながら全身で怒りを露わにするにはるん先輩を、ジード先輩が宥めながら門の脇の方へと連れていく。
どうやら、フィーリ先輩に話をする時間を作ってあげたらしい。
……いくら身長差があるとはいえ、小脇に抱えるのはどうかと思うけど。
「頭でっかちな奴はさ、あんまり考え込み過ぎると、悪い方向にでもどんどん進んでっちゃうから。こんぐらいが丁度いいのよ」
その声音からして、割と冗談というわけでもなく。にはるん先輩がはりきり過ぎて、たまに空回りすることを危惧してのことだった。
聞けば、正式に【黄金の夜明け】としてグループを組んだのは三年の時でも、先輩たちは一年の頃から交流があったらしい。
優秀でないときのにはるん先輩の姿を知っていることも含め、一定以上の信頼が三人の間にはあるんだろう。いわゆる『気が置けない』関係ってやつか。
「あんなのでも、『自分はまだまだなんだ』って悩むことがあるんだって。外に修行しに行って、何を見たんだろうね。だから、発破をかけてやるとさ――次の日から、どんなに苦労してでも成長しようと頑張ってるの。面白くない?」
見違えるほどに成長して帰ってきて。それで終わりかと思いきや、そこから更に上を目指していて。『いつか、先生たちぐらい凄い魔法使いになるんじゃない』と冗談とも本気とも取りにくいことを言っていた。
「……限界なんて無いんだよ。私たちと違って。『これでいいんだ』って満足しないのも、才能なんだよ、きっと」
「でも……先輩たちだって、私たちにとっては凄い魔法使いでした」
キリカがそう言うと、少し驚いた顔をしてから『ちゃんと“いい先輩”やれてたかな?』と尋ねられたので、全員でもちろんと頷いた。
学園というのは、大きく漠然とした共同体で。生徒を纏めるの役割は教師が務めるが、その中にある更に小さいコミュニティに所属すると、後輩は教師よりも先輩の背中を見ることの方が多くなる。
所詮は余所のグループである自分たちはともかく。より高い頻度で、より長い時間で。その背中を見ていた後輩達が、太鼓判を捺したのだ。それ以外の方法で証明しろと言う方が無理ってもんだろう。
「そりゃあ、あんなのが必死にやってたら、周りも無理矢理にでも頑張ろうって思えるじゃない。私も、ジードも、そうやってきたから。……そうやって少しは強くなれたから。だから、少しは“あれ”にも感謝してるんだ」
結局は持ちつ持たれつ、にはるん先輩がフィーリ先輩とジード先輩を引っ張り上げて。逆に二人が、にはるん先輩を曲がった道へ向かわぬよう支えていたという話。
どちらも互いを仲間と認めて、尊重していたからこそ。
出てきたのは、『感謝』という言葉だった。
「だからよろしくね。キリカ、タミル」
「フィーリ先輩ぃ……!」
キリカと共にフィーリ先輩に抱きしめられながら、タミルが涙ぐんでいた。
こんな世界だ。世界中に魔物がいて。どこにいても危険は付きまとう。
次に会う時はもうないかもしれない。別れを惜しむ気持ちもよく分かる。
だからこそ、自分たちは学園で魔法という力を身に付けて。
行ける場所も、やれることも、その幅を広げようとしている。
……ルルル先輩だってそうだろう。
それはまた違った形での戦う力だけども。機石魔法を学んだことは、先輩のやりたいことを確実に後押しする。そのために三年もの間、学園で学んできた。
……けれど、その為だけの学園生活じゃないだろ?
「まさか、このまま姿を晦ますわけないよな?」
最後に学園での思い出に浸っているのだろうか。そう思いたい。
……だとすると、誰にも邪魔されない場所を選ぶはず。【真実の羽根】のグループ部屋? いいや、そんな場所じゃない。ルルル先輩ならもっと……。
「――……ん?」
何気なく、中央棟の方を見た時――
その上の方で、何かがキラリと光ったような気がした。




