第96話 『これにて閉幕です!』
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「あー、楽にしていいぞ。……まずは参加者一同、お疲れ様」
波乱のレースも終わり、参加者、観客共に並んで閉会式。前回と同じように、学園長ではなくテイラー先生が、前に立って総評を述べていた。
「無事、最後まで飛び続けることができた奴。途中で命を落としかけた奴。それぞれいることだろう――」
第二ブロックの湖エリアで魚に食われた生徒は、丸呑みされていたので死ぬ前に助けられたらしい。どういった魔法なのかは分からないが、ウィルベル先生が引っ張り出したとのことだった。
「考えが甘いとは言わない。だがこの先、学園を卒業して――あー……なんだ。命を狙われながらも、目的地に向かわなければならない。そんな事態に遭うことだって、一度や二度あるかもしれない」
『あってたまるか』と、何人が心の中で呟いたのだろうか。
少なくとも、自分はそんなのお断りである。……ないよな?
「まぁ、なんにせよ、だ。この先もいろいろ催されるだろうが、実戦のつもりで真剣に取り組んで欲しい。そのためには――今一度、己の能力をしっかりと把握するように。何ができるのか、何ができないのかを分かっていないと――」
……長くなりそうなので、チラリと隣の列を見る。
試合中は騒がしかったウェルミ先輩も、流石に黙ってテイラー先生の話に耳を傾けていた。その後ろにはルルル先輩もいて――……?
「ヤーン先輩はどうしたんですか?」
「私はずっと“コレ”にかかりっきりだったから、見てないんだけど……」
カメラ担当のルルル先輩は、全体のリガートからの映像のチェックで忙しかったらしい。それに加えてレースの最後の方では、ゴールする選手をしっかりと写真に収めなければならないと、最前列に陣取っていたし。
実況室の方で、ウェルミ先輩の隣に座っていたのは、たまに確認したけれど――大会が終わる頃には姿が見えなかったような気がする。
「コースに配置した、機石装置の回収を手伝っているみたい」
大会中に流れた映像を見ていた限りでは、相当な数があったと思うのだけれど。
「開会式にも出ずに一人で……」
「苦労してますのね……」
『あぁ、貧乏くじを引かされたんだな』という憐みムードに、ルルル先輩も苦笑していた。一応、運営の面子では教師を除いて一番年齢が上だろうに。人が良いというか、損な性格をしているというか。
「私も手伝いたかったんだけど、まだ仕事が残ってるからね……」
と、こっそり話をしている間にも、総評は進んでいて。
前の方に視線を戻すと、ようやく締めのあたりに入っている様だった。
「――俺は短所を補うよりも、長所を伸ばす派だ。限界まで伸ばした長所は、時に予想もしない形で化けることもあるからな。……と、長くなった。今回はここまでにしておこう。最後にもう一度、お疲れ様。いい酒の肴になった」
「おいっ」飲んでたんかい。
というツッコミはさておき、次はいよいよ表彰式。
レースの上位三人が、前に出て表彰台へと上がるよう指示される。
「それじゃあ、行ってくるね」と列を抜けたアリエスと、気乗りのしなさそうな目つきでいるトト先輩が前に出て、それぞれ一位と二位の場所へと乗った。三位の場所には、遠慮がちにタミルが上がっていた。
……まぁ、その気持ちは分からないでもない。ココさんは特別ゲストということで、順位には入れないと事前に決めてあったから、四位からの繰り上げなんだし。
ココさんとトト先輩の順位は、ゴール直後のドタバタもあって把握していない。結局どちらが勝ったんだろうか?
ルルル先輩なら、ばっちり見ていただろうから、聞こうと思ったのだけれど……既に写真を撮るために前に出ていた。いつの間に移動したんだ。
「繰り上げ三着おめでとう、タミル・チュール君。己の能力の多様さを、上手く利用していたと思います。幅を広げていくも良し。土台を固めるも良し。この先の学園生活で更に使い熟していけるよう、学園の教師一同、応援するよ」
盛大な拍手を受けながら、学園長から賞状を受け取るタミル。
そういえば、学生大会の時は三位決定戦をやらなかったから、表彰はキリカのみだったんだっけか。……負けたリーオは、二位でもそういうのを受け取るタイプじゃなさそうだったしなぁ。
拍手が収まるのを待って、今度は二位であるトト先輩の前へ。
「おめでとう、トト・ヴェルデ君」
アリエスは自分と同じぐらいだし、タミルはもう少し高いから、トト先輩の身長の低さが際立って見える。それを感じ取っているのか、普段よりも更に機嫌が悪そうな表情をしていた。
「――惜しくも一位の座は逃してしまったが、君の実力ならば、きっと次の大会で優勝できるだろう。非凡の才と血筋がたまに重なって見えて、疎ましく感じることもあるだろうが――君を形作っているものはそれだけじゃない。底の無い探究心と実行力は、君自身の意思で培い、積み上げてきたものだ。もっと誇りに思っても、いいんじゃないかな」
学園長だろうと関係なく、睨みあげるよう目つきのまま賞状を受け取る先輩。その視線は『そんなことは分かっている』と言っているようにも見えた。
そうして――最大の目玉である第一位。
学園長が、賞状を持ってアリエスの前へと移動する。
「優勝おめでとう、アリエス・レネイト君。よく大会までに修理を間に合わせたね。レース中の機転と、類希な集中力。そしてその身にしっかりと根付いている技術。このパンドラ・ガーデンで、それを疑うような者はもう一人もいないだろう。……この後はロアーの修理で忙しいだろうが、君の腕なら心配もいらないようだ。優秀な機石魔法師はどこでも重宝されている。これからも、君の活躍を期待しています」
最後に、一際大きな拍手が会場を包む。流石に一位ともなると、名前も顔もばっちり覚えられるだろう。学生大会を終えた後のキリカも、知らない生徒からも声をかけられることが多くなったって言っていたし。
「それでは、このまま優勝賞品に移ってもよろしいかな?」
「来た……!」
待ちに待った優勝賞品。学園長のコレクション。
これの為に、一同心を一つにして頑張ってきたんだ。
「えっと……倉庫の中にあればいいんですけど……宝石をですね……」
流石に気が引けるのか、恐る恐る要求を口にしていた。
実物が一つあるのだし、存在すらしない物なわけではない。いくら学園長でも『そんなものあるわけないだろ!』と怒鳴るようなことはないだろうけど……それでも常識外れの要求をしていることには変わりない。
大きさ! 大きさを言わないと!
「装飾品としてのものかな? それとも――換金するとなると、加工の凝ったものの方がいいだろうか。ふむ……少し待っているといい」
「い、いえ!」
倉庫へと入っていこうとする学園長を、慌てて止めるアリエス。
「……?」
装飾品としてのものだとか、加工の凝ったものだとか――こちらが欲しているのは、そんなチャチなものじゃない。だからこそ、学園長のコレクションが便りなのだけれど……。
「ほ、欲しいのは……これぐらいの大きさで――」
「…………」
『これぐらい……』とジェスチャーで示すのは、明らかに宝石の粋を超えている。キリカの時以上のぶっ飛んだ要求に、『えぇぇ……?』とウェルミ先輩でさえもが軽く引いていた。
「実は既に一つあるんですけど、同じぐらいのものがもう一つ必要で……」
もうごにょごにょ言ってて、半分以上の人が聞き取れてねぇぞ!
耳の良い何人かと、直接聞いているタミル・トト先輩・学園長ぐらいだろう。
学園長が『ふむ……』と考え込むように唇に手を当てる。
宝石を要求されるぐらいなら予想はできても、そこまでの大きさのものを要求されるとは露程も思わなかっただろう。……さぁ、どうする学園長?
「……既に一つある、と。それと同じ大きさ、同じ色?」
「……えぇ。お願いできますか?」
…………。
――沈黙。あたりに緊張が走る。
直ぐに動かないということは、倉庫の中に該当するようなものは無いのか。
倉庫の中の欲しい物一つ、という話で賞品が設定されていたのだから『そんなものはない』と一蹴されても仕方のないこと。だけれど『学園長の倉庫ならきっと――』と殆どの学生が期待しているのも事実である。
いったいどうなってしまうのか。
生徒全員が見守る中で、学園長がすっと手を挙げた。
「――任せたまえ!」
学園長のその言葉に、一同がわっと湧く。歓声が上がる。
被っていた帽子を天高く投げる者も、抱き合って喜びを分かちあう者もいた。
……なんだこの一体感。ノリが良すぎるだろう。
「ただ、そう直ぐには出すことはできない。あとでその宝石を持って、私の部屋に来てくれるかな?」
「はい!」
というわけで賞品授与は行われなかったものの、特にこれ以上問題が起こることもなく閉会式は終わりを迎える。最後はこれまたいつの間にか前に出ていたウェルミ先輩の宣言によるものだった。
「――それでは! パンドラ・ガーデン・スカイレース、これにて閉幕です!」
「もう行っても大丈夫なのかよ」
「どこかから取って来るにしても、とても早いですね」
「どちらにせよ、またあの倉庫が見られるのが楽しみね!」
「あぁ……先輩は中に入ったことがあるんでしたっけ」
『後で』というのは閉会のすぐ後で、ということらしく。宝石を取りに戻ってから、授与の瞬間の写真を撮るらしいルルル先輩と共に学園長室へと向かっていた。
「――失礼します」
ノックしてから扉を開けると、いつものようにカップ片手に立つ学園長の姿が。
普段と変わらない学園長室。ただ一つ違う点があるとすれば、既に倉庫への入り口が開かれていることだろうか。
「いらっしゃい、皆で来てくれたようだね。待ちわびていたよ。賞品を渡すためには、君たちの宝石が必要だからね」
「…………?」
自分たちの宝石が必要というのは、いったいどういうことだろう?
その言葉に自分たちが顔を見合わせ首を傾げていると、学園長は倉庫の中に上半身だけ入れてなにやらゴソゴソとしていた。そうして、中から取り出してきたのは――
「さて、それではお見せしよう。これが――」
一見すると何の変哲もない一枚の鏡と、二脚の小さな机だった。
「君へ最高の賞品をもたらしてくれる、世にも不思議な魔道具だ」




