『普通』を求める少女は魔学院に降り立つ
圧制、殺人、差別、窃盗。世界には数多くの罪がある。
その中でも最も重い罪が七つ。それを七つの大罪と呼ぶ。
そしてこれは七つの大罪を背負いし少女が『普通』のなかで罪と戦う物語である。
桜舞う春の空、長く続く坂道を若者たちが期待や不安、希望を胸に歩む。ここは【アステルト魔学院】国内トップクラスの魔導学院。そして私は『ディアベルド・ルージュ』今日からこの学院に入学することになった。『普通』を求めて…
「ねぇ、あの娘…なんで?」
「やめとけ。ああいうのにはかかわらない方がいい。」
周りの生徒たちは私を見てざわついている。なぜだろう…?
「今日この場に!貴殿らの入学を祝福する!」
講堂にて教師による演説が行われている。そして壇上に一人の女性が上がる。女性は教師とは思えない姿で周りの生徒たちも困惑していた。そう、その女性はとても幼かった。
「はいはーい!みなさーん!私がアステルト魔学院学園長。『アスタリオ・フラム』です!こんな見た目ですがれっきとした大人ですよぉ!ざっと数百年以上は生きてますからねぇ!」
彼女、アスタリオ・フラムは古の大戦を生き抜き人族と魔族と橋渡しとして活躍した伝説の魔神。
「この学園では種族の垣根なくみんな仲良く過ごしましょう!では長ったらしいのは嫌いですので!私からは以上です!それじゃ!」
演説が終わり、私たちはそれぞれの教室へ移った。私が席に着くと隣の席から声をかけられた。
「よ!お隣さん。これからよろしくな!」
赤毛のツンツン頭の男は手を差し伸べつつ話しかけてきた。私は少し動揺はしたがこれが『普通』なのだと思うことにし、握手を交わした。
「…私はディアベルド・ルージュ。よろしく。」
周りの生徒たちは私たちの握手を訝しげに見ていた。『普通』じゃなかったのか?
「俺は『ランドハイド・ライヒハルト』!ハイドでもハルトでも好きなように呼んでくれ!」
ライヒハルトは握手を返されたことがよほどうれしかったのか満面の笑みで自己紹介をしてきた。昔街で見た大型の犬を彷彿とさせるその表情に私は無性になで繰り回したくなる気持ちを抑えた。
「私も、ディアでいい。ハイド」
「自己紹介は程々にしてくださぁ〜い♪」
教室に"いつの間に"かいた男が教壇から喋っている。学生服では無いので教師なのだろう。
「ではぁ!僕の自己紹介をしよぉう♪僕は『マルクス・ホークゲイン』教諭♪気軽にマルク教諭と読んでくれ♪」
おちゃらけた様子の教諭はにこやかに生徒たちを見ている。
「うんうん♪今年の新入生たちはかなりの優良株らしぃ♪さて!まずは君たちはこの栄誉あるアステルト魔学院に入学出来たことを大いに祝福しましょう♪そしてぇ♪ここ1-Aクラスに振り分けられた君たちは!栄誉ある!極・悪・人・どもでぇす♪」
狂気じみた笑みを浮かべた教諭の言葉に教室は騒然とし始めた。それもそのはずだ私も含めここには『普通』になるために来たはずなのに…
「【大義】【名誉】【理想】【使命】【生きる為】【死ぬ為】、君たちは各々違った思想を抱き悪の道を歩んできたぁ♪そんな君たちをぉ♪我々がスカウトしたぁ♪」
教諭は私たち一人一人を嘗め回すかのように見渡しながら恐々と話を続ける。その様はまるで狂気の物語を歌にして語る吟遊詩人のようだ。そんな中、教諭と目が合ってしまった。教諭は言葉を止め、にっこりと笑うと楽しそうに話し始めた。
「Hey♪ミス・ディアベルド!君に問おう!君はこう言われたのではないのかね!『私に従うのであれば貴様の望む生活をやろう!』とぉ♪」
その言葉を聞いた時私は少し驚いた。教諭がその言葉を知っている事にじゃない。教諭の言葉に教室内の生徒全員がどよめき始めたことに…だ。
「そぉ♪このクラスはそんな『望む生活』を求めた20名を集めた極悪人だけの教室ぅ♪それが1-Aクラスぅ♪」
『極悪人』その言葉が発せられるたびに教室内が徐々に殺気立っていく。
「…このままじゃまずいな…」
ハイドがボソッとつぶやいている。ハイドが何かをしようとしているみたいだった
(その行為の方がこの状況では危険だろう。ハイドが動いたら動くか…)
その考えは杞憂に終わった。なぜなら先に教諭が動いたからだ。
「だがぁ!悲観することはないぞ少年しょぉ~じょたちぃ♪我々は決して契約にうそはぁつかなぁい♪なぜぇならばぁ♪」
そう言うと教諭は指を鳴らした。その瞬間教室を強烈なオーラが包んだ。そのオーラに充てられ数人は怯えを露わにした。このオーラは…
「なるほど♪なるほど♪平気そうなのが5人、耐えているのが8人、ダメそうなのが5人。おやぁ♪素晴らしぃ!ミス・ディアベルド♪ミス・キシリカ♪あなたたちはこのオーラが何でどのくらいのものなのかも理解しているみたいですねぇ♪さぁミス・キシリカ!このオーラの説明を!」
名を充てられた女生徒が立ち上がった。
「マルクス・ホークゲイン。あなたは魔人。それもただの魔人ではありません。あなたは魔神…ですね」
魔族には大きく分けて3つの区分がある。一般的な魔族は知性を持たないものが多く、群れで生活をし、動物に近いもの。魔人は高い知性と強い魔力を持つ。個々の力も強く、単独で冒険者のパーティを壊滅させた事例もある。そして魔神、魔族の中でも極少数しかいないにもかかわらず圧倒的な魔力を保持し、さらに同じ魔神でも魔力量が多い方が言葉だけで一方的に服従させる『ヴォイス』という魔法を使えるという。
「大ッ正解♪改めて自己紹介をしよぉう♪私は魔神アスタリオ・フラム様に忠誠を誓う6臣が一人『狂気の道化』マルクス・ホークゲインだぁ!」
これで説明がついた。魔人は契約を重んじる習慣がある。契約が確定すると魔人は『何をしてでも』契約を遂行する。契約を結ぶ側に不手際がない限りは…。それも相手が魔神ともあれば。あの時の言葉を契約とするならば彼らは必ず守るだろう。契約”には”嘘はつかないだろうな…
「というわけでぇ♪私の自己紹介はこ・こ・ま・で・だぁ♪では私は舞台から降りるのでぇ♪君たちが自己紹介をしたまえ♪これから数年一緒に生活を共にするんだ♪まぁでもぉ、どこまで隠すかは君たち次第だけどねぇ♪さぁ、我先にというものから順にはじめてくれ。誰もいない場合は私が指名する♪」
教諭は教壇から離れ、どこからともなく取り出した椅子に座った。教室はすこしのざわつきを残していると
「では俺から行かせてくれ!」
勢いよくハイドが立ち上がった
「俺の名はランドハイド・ライヒハルト。俺は家族を守るため戦ってきた!だが!自分がやってることが正しいと思えなくなったとき、この学院への入学が決まった!俺はこれから自分の正しさを、正義を貫いていくつもりだ!よろしく!」
ハイドが座ると数人が拍手をした、その後次々と生徒たちが名乗りを上げ自己紹介が進んでいく。
「私は『キシリカ・アンドラス』。私は生きる為にここに来た。私の邪魔をするな以上。」
「僕は『ミハイル・リンド』僕は魔族とのハーフだ。僕は魔族差別をなくす。そのためならなんだってする。」
「『エリアル・ミスト』。別に何も言うことはないわ。」
次々と自己紹介は進んでいく、思想を言うもの、意気込みを言うもの、教諭のオーラからまだ起きれないもの、そして気が付くと残っていたのは私だけだった。
「え、あぁと…。はい、ディアベルド・ルージュ。私は…普通…になるためにここに来た。」
私が自己紹介を終えると教諭はにこやかに笑い教壇に戻った。
「はぁい♪それでは明日よりしっかりとぉ勉学に励みましょぉう♪」
こうして入学式は終わりを告げた。
初めまして、鬼灯サクラです。初めての投稿になります。文章に至らない点や矛盾等も出てくるかもしれませんが、初心者ながら頑張っていい作品に仕上げたいと思っています。矛盾や至らない点がありましたら是非是非コメントください!