表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カムイユカラ KAMUY YUKAR 屠竜の剣 Tales of The Dragon Slayer  作者: 伊福部ゴラス
第一章 アシハラの厄災
2/4

第1話 少年カムイ

 小高い丘の上で少年が黙々と木剣を振るっている。少年が木剣で空気を斬るたびに「ボッ」と破裂音が鳴った。


 丘から見下ろしたところに集落があった。アシハラの城下町だ。昼の支度をしているのか、カマドから上がる煙が幾すじもみえる。


 丘の上には少年のほかにボガンボ(牛とカバをかけあわせたような鈍重な家畜。さまざまな用途につかわれる)の群れが放牧されていたが、少年の存在に馴れているのか、鋭い剣さばきにおどろくようすもなく、無防備に草をんでいた。


 少年とくらべるとボガンボたちが相当大きな動物にみえるが、実際には少年が小柄なのだ。


 少年はコビット族とよばれるヒト(知性をもつ直立歩行生物)の一族で、その特徴として〝小柄な身体〟と〝大きく尖った耳〟というものがあった。コビット族で体の大きい者でも身長が三キュビト(一キュビト=五〇センチメートル弱。三キュビト≒一五〇センチメートル)ほどしかないが、少年はコビット族のなかでもさらに小柄なほうだった。


 少年は剣を青眼に構え、ゆっくりと息を吐く。虚空を睨むその目には敵の姿が映っているようだ。少年は、仮想の敵の上段からの攻撃に反応してたいをさばくと横一文字に木剣を払った。


「カムイー!」


 丘の中腹から声がきこえた。その声に少年は緊張を解く。みると少年と同じコビット族の少女が丘を登ってきていた。


〈カムイ〉と呼ばれた少年は木剣をおさめると少女のほうへ小走りで駆けよった。カムイと少女がならんで立つと、少女のほうがすこしだけ背が高かった。


 少女はカムイにむかって微笑みかけた。


「カムイ、お昼だよ。みんなと一緒にごはん食べよ」


「……」


 カムイは無言でうなずくと、少女といっしょに丘を下りた。




 丘の下には田園がひろがっており、その先には石造りの城壁がみえる。


〈アシハラ王国〉──古くから中つ国北部にあるアシハラ平原一帯をおさめてきた小国だ。そして現在、かつて〈七勇者しちゆうしゃ〉と呼ばれた英雄の一人がアシハラ王国を治めていた。


 カムイと少女は城門をくぐり、アシハラの城下町に入った。城下町といってもあるのは小さな市場と民たちの質素な家屋だけだ。


 少女が城下町の通りを歩くと、小さな子供たちが、


「アイネさま!」


 といってよってきては少女と手をつなぎたがった。


 少女は名を〈アイネ〉といい、アシハラ王の娘──つまりこの国の姫様だった。


 子供たちと数珠つなぎで手をつなぎながら通りを歩くアイネの数歩うしろを、カムイはついていった。


 一人であるくカムイを憐れにおもったのか、


「カムイはわたしが手をつないであげる」


 といってまだ幼い女の子がカムイの手をにぎった。


「……」


 カムイは《《声をもっていなかった》》。言葉を聞き理解することはできたが、言葉を発することができなかった。だからカムイは手をにぎってくれた女の子にお礼の言葉のかわりに微笑みを返した。


 この子供たちのうち半分は、十年前中つ国全土を恐怖に陥れた〈竜王襲来〉のときに親を亡くした孤児であり、カムイもその一人だった。


 カムイとアイネと孤児たちはアシハラ王が建てた孤児院に入っていった。アシハラ王は孤児たちを全員ひきとって〝国の子供〟として育てており、アイネは姫という立場にありながらも孤児院の世話役を買ってでていた。


 カムイとアイネと孤児たちは、ともに昼食をとった。それは、いつも通りのなんでもないおだやかな昼下がりだった。




 ──しかし同時刻、アシハラ王国の西では異変が起こっていた。


 西の見張り台は粉々に破壊され、そこに駐屯していた兵士たちは伝令に走らせた一人以外は全員殺されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ