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退屈な女  作者: 青山えむ
8/8

退屈

「どのような関係でしたか?」


 俺は警察にそう質問された。あの事故から一週間ほど経っていた。


「同じ会社の人間です」


 そう答えて終わると思っていた。


「特別な関係だったのでは?」


 どう答えたらいいのか。麻衣との関係は半年前に終わっている。


 麻衣は重体だった。事故当時、麻衣のカバンに日記が入っていたそうだ。その日記には俺と逢瀬を重ねた日々や俺への想いが綴られていた。半分は事実で、半分は麻衣の妄想だった。


「麻衣さんの妊娠の件ですがお相手は佐々木さんで間違いないですか?」


 まさか、麻衣と会わなくなって何ヶ月経っていると思っているんだ。


「違います。麻衣さんとは半年以上会っていません」


 俺は事実を述べた。

 警察官はうなずく。麻衣は妊娠していなかったそうだ。

 しかしこいつらは俺を試したのだと思った。腹が立ったが抑えた。

 警察官は日記のコピーに蛍光ピンクのペンで線を引いていた部分を指さした。



―佐々木さん、目まいがするほどあなたが好き。毎日あなたのことを考えています。

 朝の出勤時刻と退勤時刻、佐々木さんを見るために私はこっそり待ち伏せをしていました。新しいお仕事は大変そうですね。残業が多いみたいですね。残業帰りに女と一緒じゃないかどきどきしていました。幸いあなたは男の人と一緒でした。私はホッとしていました。けれどもいつあなたの隣に女がいるかと想像すると嫉妬でおかしくなりそうでした。

 私は安心したい。そうしたら、生理が来なくなりました。あなたの子どもです。私ったら興奮するあまり、あなたと会っていたことを忘れていたみたいです。昨日のように思いますが一ヶ月ほど前だったのでしょうか、いつものモーテルで会ったのは―



 読んでいて頭痛がしてきそうだ。


 俺の娘と一緒にいたのも計画的だ。数ヶ月前から娘と接触していたようだ。


「犬のお散歩しているお姉さんとあいさつしてた」


 麻衣が犬を飼っているのは初耳だ。恐らく娘と接触するために飼ったのだろう。

 一週間に一度か二度、娘と接触するためにわざと通学ルートを歩く。

 娘が友達と一緒にいるときも狙い怪しまれないように。

 娘と同じ年ごろの姪もいると言っていた、麻衣なら子どもにも周りにも怪しまれずに接触する方法は考えつくだろう。そういう機転は利く女だ。


 事情聴取は今後も続くだろう。

 麻衣の精神状態が正常ではなかったことが論点になりそうだが、本人は意識が戻らないのでなにも進まない。


 うんざりして帰宅すると宅配便が届いていた。差出人は部長だった。なんだろう、わざわざ日付指定をして。


 手紙が入っていた。麻衣の字だ。差出人の名前を変えるあたり、麻衣ならやりそうだ。俺の住所を突きとめたのはあとをつけられたのかもしれない。気持ち悪い。



―佐々木さんへ―


 お子様が一番大切な佐々木さん。

 その子を助けた私、どう?

 あなたは私に頭が上がらないでしょう。

 さあ、どうしてあげましょう。なんてね、うふふ。

 私は佐々木さんの子どもを助けるために死んじゃっても平気。

 私が死ぬと、もっと記憶に残るでしょ?

 ねえ、どう思う?

 あと私、佐々木さんの子どもを妊娠しているみたい。

 でも今回佐々木さんの車にぶつかる予定だから、もしかして哀しい結末を迎えるかもしれない。私の行動で新しい命を殺してしまうかもしれない。

 そうなったら一緒に背負ってくれるよね?

 私と私の子どもと、佐々木さんの娘を車でひくのは佐々木さんなんだから。


 もう一つ、気づいたことがあります。

 佐々木さんは、退屈がお嫌いなんですね。自分で気づいてました?

 いっつもスマホを見ているのは、貪欲に知識を欲しているわけではありません。

 退屈が嫌なんですよ。

 あなたが得たのは知識ではありません。薄っぺらい、その場限りのネットからのコピペです。

 私も先日、退屈な日を迎えました。そうしたら初めて動画が面白いと思えたのです。

 退屈だから、動画が面白いのです。やっと佐々木さんの気持ちと同じになれました。

 女も同じです。手に入れたらつまらなくなったでしょう?

 だから私、実行しました。刺激的でしょう? この先どうしたらいいか、たくさん考えなくてはいけないと思います。

 困難なことにぶち当たると佐々木さんは燃えるタイプですよね。

 私は生きているか死ぬかは分かりませんが、生きていたら一緒に解決策を考えましょうね。

 

 麻衣より


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