佐々木
麻衣はだんだん化粧が濃くなっていった。最初はほぼノーメイクかと思うほどにあか抜けない雰囲気だった。
しかし顔立ちが綺麗だった。化粧映えする顔だろう。分かる奴には分かる美しさだった。俺には分かった。
自分の魅力に気づいていない麻衣がもったいなかった。けれども俺だけが気づいている優越感もあった。
麻衣とは趣味の話題も盛り上がるが、一番食いついてきたのは恋愛話だった。
麻衣だって女だ。清純そうに見えても興味があるに違いない。俺は自分の過去の話をすると同時に、麻衣の男の歴史も聞いてきた。
「麻衣さんもったいないよ、せっかく綺麗な顔立ちしてるのに」
麻衣が開花すればと思い、俺はそう言った。
次の日から麻衣は化粧が濃くなっていった。助言を受け入れてくれたのは嬉しいけれどあまりに極端でびびったのも本音だ。
麻衣は髪の毛をカールさせてくるようになった。ファッションも流行のニットやスカートになっていった。量産型女なんておもしろくない。以前の、ふわふわしたワンピースを着た麻衣のほうがよかった。似合う服を選ぶ女でいてほしかった。
麻衣との会話もつまらなくなっていった。以前の麻衣は俺と違う考えを持っていて、それを二人で議論するのが楽しかった。
だんだんと麻衣は、俺の意見を「うんうん」と聞いているだけになった。
俺と違う考えを述べて、俺に嫌われると思っているのではないかと思った。うんざりしてきた。
ちょどその頃、若い女子社員と接する機会が増えていた。当初彼女は反抗的でいちいちつっかかる言い方が気に食わなかったが、今ならそのほうがいいと思っていた。従順な女より、軽い女のほうが楽だ。
麻衣は珍しいタイプだった。清純系で黒髪で控えめで知的で、今までつき合ったことのない女だった。新鮮だと思ったが、最後は重い女になっただけだ。
異動が決まってさっぱりとした。これを機に麻衣とは自然消滅ができる。俺は異動前の最終日、麻衣とは目を合わせなかった。