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記憶喪失

ずっと夢を見させてあげたかった。

例え二度とその綺麗な瞳が見れなくても、例えこの先言葉を交わせなくたって、それでもいいと思ってた。

心地よく眠る寝顔を見ていられたら、それだけで十分なんだって思っていたのに。

見つめるその瞳を、聴こえるその声を、どうしようもなく求めていた。

だからただただ嬉しかったんだ。

貴女の時が動き出した事が。


 


少年はしばし言葉を失った。

そして呆然と立ちつくす彼の後ろから一人の青年が現れた。


「リオン君っ!マリアが目覚めたって聞いたけどっ!」


リオンと呼ばれた少年と同じ様に、息を乱して部屋にたどり着いた青年は、さらりと顎辺りまでくる薄茶色の髪に、線の細い体つき、中性的で柔らかいがどこか神経質そうな顔立ちだった。


「シリル先輩!」


リオンは青年の名を呼んだ。

それは彼の登場に驚いてと、この状況の助けを求めての両方だったが、そんなリオンの心境などシリルに解る筈はない。

シリルはマリアを見た。

腰窓からこちらに視線を向け、しっかりと立つマリアの姿に、自然と涙が溢れてくる。


「マリアっ!本当によかった!中々目覚めてくれないから本当に心配したんだから!!」


そう言いながらシリルはマリアの元へ駆け寄ると、がばりとその細い体を抱きしめた。

するとそんなシリルの行動にマリアは慌てふためいてしまう。

 

「ちょっ、えっ?あの、離して、離して下さいっ!」


腕の中で体を強ばらせ否定の言葉を発するマリアに、今度はシリルが戸惑った。

 

「え?マリア、どうしたの?僕だよ、シリルだよ?!ずっと寝てたから混乱してるのかな?ほら、よく見て?解らない?」


シリルはマリアの二の腕辺りを両手で掴み、自分の顔をよく見せようと、少し腰を屈めてその紫の瞳の中に映りこんだ。

しかしマリアの瞳は揺れるばかり。


「あの、ごめんなさい。悪いんですけど私多分、記憶喪失、だと思うんですよね。自分の名前も解んないし」


はははは、と、マリアは気まずさをまぎらわす為に乾いた笑いを浮かべた。

そのマリアの笑いがシリルの中のマリアとはかけ離れすぎていて、彼は瞳を丸くし固まった。

 

「…う、そ…」


余りのショックに襲われたシリルは、目眩を感じふらりと思わずよろめいた。

 

「シリル先輩っ!」


床に崩れ落ちそうになるシリルを、リオンは咄嗟に腕を伸ばしてその身を支えた。

そして嘘だ嘘だ、これは夢だと、自分の腕の中で瞳を閉じうなされるシリルを心配しつつ、リオンはもう一度マリアに強い眼差しを向けた。

 

「本当に、何も覚えてないの?俺の事も」


ゆっくりと、縋るように声を絞り出すリオン。

その彼の切なる気持ちは何も知らない解らないマリアにも十分伝わり、いたたまれなくなったがしかし、嘘をつく事は出来ない。

 

「…ごめんなさい、何も…」


申し訳なさそうに、バツが悪そうに瞳を逸らすマリアに、リオンも、そしてシリルも絶望的な表情を浮かべた。

二人からの視線が痛い、耐えらないと、そうマリアが居心地の悪さを感じていた所に


「マリアっ!目ぇ覚めたんやて!?」


快活な声で部屋に現れたのは、肩までの長い黒髪に整った顔立ち、黒縁メガネが良く似合う長身の青年だった。

そしてその青年のすぐ後に現れた青年は、くるくると癖のある柔らかそうな金に近い髪色に、ビー玉の様なまん丸の瞳がなんとも愛らしい青年で、彼はマリアを見つけるや否や、てててと彼女の方へかけていった。

 

「マリア~!おはよぉ~!」


マリアの近くで固まっているリオンとシリルになど目もくれず、青年はマリアの腰に腕をまわしぎゅっと抱きしめた。

 

「なっ、ちょっ、離して下さいっ!!」

「え?」


青年の記憶のないマリアには、彼の親密な挨拶は受け入れ難かった。

だがマリアが記憶喪失だとは知らない青年は、拒まれた事に驚き元より真ん丸な瞳を更に大きくさせた。

そして入口辺り、二人の様子を見ていたもう一人の青年も、眼鏡の中の切れ長の瞳を見開き口をぽかんと開けた。

 

「…え?なんや、どぉなってんねん?!」


素っ頓狂なその声が、少しだけこの部屋の張り詰めた空気感を和ませた。

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