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公式企画

トンネルラジオ

作者: 夏月七葉

 男の通勤の足は、車だった。毎朝車に乗り込んで会社へ向かい、退勤後も同じ車で帰宅する。

 自宅と会社を結ぶ道の丁度真ん中辺りには、トンネルがあった。山をくり貫いたトンネルは少し長く、通り抜けるのに少々時間を要する。

 夜の差し迫る暗んだ周囲に溶け込むように、ぽっかりと黒い穴が口を開けている。今日もいつもと変わらず一日の仕事を終えた男は家路に就き、普段通りにその穴へと入っていった。

 車内ではいつも備え付けのラジオを垂れ流しているのだが、トンネルに入ると電波が届かなくなって途切れてしまう。前にも後ろにも車はなく、自身の車の走行音だけが響く。

 トンネルに入って間もなく、ラジオからノイズのようなものが聞こえるようになった。いつもはそんなことはないのに、と不思議に思いながらも男は運転を続けた。

 しかし最初は電子音のような意味のないノイズであった音は、次第にはっきりと言葉として耳に届くようになった。

『――苦シイ』

『タ、助ケテ』

『痛イヨォ……』

 そういった言葉が少女の高い声で繰り返され、徐々に早口になっていく。男は恐怖に駆られ、頭の中がその声で埋め尽くされていく感覚に陥った。ラジオに手を伸ばしてスイッチを押しても、声は止まない。

 繰り返される声に溺れるように苦しくなり、気がおかしくなりそうになったその時――

『さて、次のニュースは――』

 聞き慣れたアナウンサーの声が聞こえて、男ははっと我に返った。

 車はもう、トンネルを抜けていた。ラジオからも、正常の放送が流れ出ている。

 バックミラー越しに確認したトンネルは、いつも見るのと同じようにぽっかりと黒い穴を空けていた。


 後で知った話だが、そのトンネルは、数年前に事件現場になっていたらしい。

 一人の教師が中学の教え子である少女を拉致してトンネルに連れ込み、暴力を働いた末に首を絞めて殺してしまった。

 あのトンネルでは、その時の少女の霊が未だに助けを求めているのかもしれない――。

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