俺、死んだってよ
目を開けたら、たとえるなら全面に紙がバーッて貼られてるようなところにいた。
流石にたとえが下手すぎるな。他にはなんだ、ここ百年で物凄い霧と言われた去年の霧を上回るキレの悪さみたいな。
病院で目を覚ましたのかと思ったが、それにしては物も壁もない。それに人を床に直置きはしないだろう。これはどちらかというとあの世と言われた方が説明がつく。あの世何にもなさすぎ、ばあちゃんが住んでる田舎の新幹線の駅前かよ。
何もないと思われていたが、近くに文字がぎっしり書いてある紙束があった。それでもまだ田舎の駅前の方がものがあるぞ、自販機とかベンチとか。対抗意識はさておいて、その紙というか書類らしきものに目を通す。
「諏訪原燕也様が想定していた時期より早く死亡されたことへのお詫び…?」
声に出してたまるかな日本語ナンバーワン。その下にはテンプレートのような謝罪文が書かれていた。再発防止に努めます、何卒よろしくお願いします。じゃねーんだよ。よろしくされても困るんだが。でも再発防止はマジで努めたほうがいい。
つまり俺はもう死んでいて、ここはあの世みたいな場所ってことで間違いはないんだな。実感はわかないけれど、あっけない最期だったな。
二枚目には転生先希望アンケートと書かれていた。アニメとか小説でそういうの見たような気がする。いつの間にか筆記用具を握っていた俺は死んだ目でアンケートに答えた。
まあ死んでる以上どんな目でも死んだ目ってことになるかもしれないんだが。
答えた内容は転生先はそこそこ平和なところがいいです、とか凄い力とかそういうのはいいです、とかそういう無難なものになっていった。
ただ、あまり冴えない人生だったが、それでも積み上げてきた年月に未練があったらしい。新しい世界で赤ん坊からやり直すのではなく、このままの俺を送り込む形を希望した。
最後の欄は「その他希望記入欄」だった。こういうの本当に書くの苦手なんだよな。
書きなれた「特になし」の下には、回収ボックスへと書かれていた。前方にそれらしきものが置かれていた。さっきまで無かったと思ったが、筆記用具もいつの間にかあったし、そういうシステムなのかもしれない。
紙を入れると「受領しました。転生までしばらくお待ちください。」と音声が流れた。急に喋るじゃん。そんでもって急に眠くなってくるじゃん。やることもないし、そういえば今日は寝不足だったし丁度いいかもしれない。
ゆっくりと瞼が閉じていく。意識もぼんやりしてきたところで、不意にさっき書いたアンケートの最後の欄のことが頭をよぎった。
運良くしてくださいって書けばよかった。
せめて神様なのか誰か知りませんが、アンケートをご覧になる方々にこの祈りが通じますように。いや頼みます。滑り込みでもいいので。
…いや、待って、本当そこだけ書き足せませんか?あっ意識が…、駄目そう。