買った装備が呪われている➄
そこから苦心すること数分、どうにか隙間に引っかかった髪を抜いてもらうことに成功した。髪が抜けて良かったと思うことって後にも先にもこれだけだと思う。というかそうだといいな。
「よ~し、大体終わったかな。あとはこの蝋燭の火が消えれば動いていいよ」
そう言って風よけのついた小さい蝋燭が前方に置かれる。
どうやら儀式は最終段階に入ったらしい。あの蝋燭の火が消えたら鎧も外れると思うし、トイレにも行ける。
そう、トイレ。軽率に思い出すんじゃなかったな。今それを思い出したら一分一秒がとても長く感じるに決まってるじゃないか。
「ス、ステラ…何でもいいので、何か話してくれませんか…」
スマホに搭載されてるAIにだってこんな無茶振りしたことないぞ。あれ案外声出して聞くのって恥ずかしいし、そもそもそんなに使ったこと無いんだけど。
「う~ん、何でもって言われるとな~。そうだ、エンヤは好きな人いるの?」
何でもいいって言っといて何だけど、結構苦手な分野の剛速球が飛んできたな。
「好きな人ぉ??」
いやしかしこのピンチは逆にトイレに行きたいことを忘れられるチャンスなのでは?
好きな人…、こちらに来てからはまだ日が浅い。現代ではどうだったかクラスメイトや同じ部活の人の顔を思い出そうとする。
高校はそんな感じでもなかったような…。そういえば中学で同じ委員会だったあの子可愛かったよな。彼氏がいたけど。
「今はいなくて、中学の…いや何て言うんだ委員会って」
「え~いないんだ~」
やばい会話が全然続かない。この後本当はいるんでしょとか言われて無理やり他の人の名前を言うまで返してもらえないパターンか?修学旅行ゼミでやったところだぞ。
仮にいうとしたらミラさんかエリーシャしかいないんだけど、嘘だとしても普段お世話になってる二人をそう思われるの結構嫌だよな。
ステラは「そっか~、そうなんだ」と言って何となく機嫌が良さそうにニコニコしている。いやそれはどういう感情なんだ。
「あっ、てかあたしが喋んなきゃだったっけ。どうしようか、呪術に興味ある?」
物分かりがいい子で本当に良かった。良かったけど、話題の変わり方凄いな。急すぎて勧誘でよくありそうな文句なのに全然誘われてる感じがしない。
「ないわけじゃ…。そういえば知識があれば誰でもって言ってましたけど、俺でもできるんですか?」
「出来るけど~、おすすめはしないかな」
もう少しグイグイ押し付けてくるかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。結構意外だな。
「中途半端な知識でやっちゃうとどうしてもね、反動とか凄いし。だからウチに頼みに来る人は呪いを解いてほしいって言う人が多いんだよね」
「なるほど」
呪術師という肩書にしては、随分と根が明るいと思っていたが、そういうことなら納得できる気がする。まあそもそも呪術師が根暗というのは俺の偏見なんだけど。
「だからエンヤも、もしムカついたことがあったらあたしに頼んでね!その方が安心確実だし。呪いの程度にも色々あって―」
そう言うとステラはいつの間に持っていたのか、秘蔵の呪いのアイテムコレクションを次々説明しだす。こうなると説明が止まらないタイプのアレだ。
飲ませるとしばらくニャーとしか言えなくなる薬と、足の小指をぶつけて亡くなった男性の怨念が籠った服、外に撒くとカラスの大群が押し寄せてくる豆などバラエティに富んだ呪いグッズを並べていく。
想定していた呪いと違うが、軽い奴だけを見せてるだけなんだろうか。尿意を止める便利グッズみたいなのはないんだろうか。いやこの並べられた品は全部呪いの品物であっておもしろ便利グッズじゃないんだ。
自分に言い聞かせながら、ステラの説明に耳を傾ける。呪いって言っても本当に様々だな。そう思ってふと蝋燭の火を見てみると、いつの間にか消えていた。
ステラもそれに気づいたらしい、お疲れさま~と気が抜けた声で労わってくれた。本当にありがとう。でもそれよりも一刻も早くトイレに行きたい。
「呪いの気配は大体消えたんだけど、ところで鎧ってどう脱がすの?」
「どう…やって…?」
完全に失念していた。
呪いが解かれたからと言っていきなり体から剥がれ落ちるわけでもないよな。そりゃそうじゃ。
いや落ち着けエンヤ、きっと方法はあるはずだ。大丈夫俺ならできる。我慢してる時ってなんか謎に頭の回転早くなったりするあの現象を信じろ。
そうそうたしか着けられた時、この辺を何かやっていたような気がする、いける。
そう自己暗示をしながらどうにか無事に鎧を脱いだ俺は、駆け足でトイレへと向かった。
用を足している時に安心感からちょっと泣きそうになった。っていうか泣いた。




