買った装備が呪われている④
「じゃあちょっと準備するから、その辺で楽にしといてよ」
三人を見送った後、階段を上がって二階へと移動した。窓が無いというのもあって、昼間なのに薄暗くて、いかにも何かそういう儀式にうってつけな雰囲気を漂わせていた。
部屋の棚には草を乾燥させたようなもの、絶対に飲む気が失せる色の液体、渇いたカエルっぽいものがあった気がしたがそれは流石に見たくなくて目を背けた。
あれが使われないことを祈るしかない。でもそういう時に限って使うことになるような気がするんですよね俺。
「俺は何をしてればいいんですか?」
「う~ん、特にないかな。こっちが色々してる間は椅子に座って、あんまり動かないで貰えればそれでいいし」
部屋の真ん中には四足の背もたれの無い椅子が置いてあり、それを中心に白い塗料で書かれた魔法陣のようなものがある。
「ずっと座ってるのも退屈かもしれないけど、世間話になら付き合えるから全然話しかけてくれてもいいよ。むしろ歓迎だし。あとは今のうちトイレに行っておくぐらいかな」
「…トイレ?」
言われるまでその存在を忘れていた。
鎧は全身を覆っていて、鎧が外れないということは服もまたそういうことで…。待って言われたら急に尿意が。終わるまで何時間って言ったっけ。待て待て。
こちらの反応で何か気づいたような顔をした。
「もし漏れても呪い自体には全然影響ないから、心配しなくていいよ」
違う全然違うそうじゃない。心配させてくれ。尊厳という言葉が無いんか。
呪いを解く儀式は順調に進んでいるようだった。かと言って今進捗が何パーセントかと問われても全く分からないし、これが早いのか遅いのかも何一つ判らないが。
何をしているのか興味がないわけではないが、時折尿意の波が激しくやってくるのを耐えること以外に意識を向けることができなかった。
「ステラさん…あの…、今いいですか」
「ステラでいいよ~。あたしもエンヤって呼んでいい?そういえばエンヤ何だっけ来訪者?とにかく別の世界から来たんでしょ?めっちゃレアじゃん」
気を紛らわしたくなった俺はステラに話しかける。利用するようで心苦しさもあるが、とにかくマシンガンの様に話してくるので退屈だとは思わなかった。
「一緒に来てた子も魔法が使えるっぽい雰囲気あったし、レア祭りだね」
「魔法を使えるのってそんなに珍しいんですか?」
エリーシャのことだろうか。最初の日に使えるような発言をして以来、確かに魔法を使ったところは見たことが無い。
異世界だから使える人がいて当然だとどこか思っていた。言われてみればミラさんもフォーゴットさんもどちらかというと物理攻撃って感じだし、道行く人も魔法使いっぽい恰好をしている人は全然見なかった。
「ん~、人間だったらかなり珍しいかも。エルフとかは結構使えたりするみたいだけど」
ファンタジーでは有名なエルフってこの世界にもやっぱりいるんだ。
「でも、ステラさ…ステラは呪いを解けるんですよね」
「魔法と呪術は大分違うからね」
両方馴染みが無くてなんとなく一緒にしていたが、どうやらはっきりと断言するほど違うようだ。へえ、と相槌を打つとステラはそのまま続ける。
「呪術、あとなんだろ、魔術とか錬金術かな。その辺は知識があれば簡単なのは誰でも出来るんだよね。でも魔法はもっと違うって言うか」
なんていうんだろうな、と頭を悩ませているようだ。
「生まれつきの才能っていうのかな、そういうのが必要なんだよね~…あっ!!」
「!?大丈夫ですか?」
作業途中のその声は結構ヤバい奴だぞ。新人の美容師が発していたらシャレにならない言葉だ。
不自然に短い部分ができる奴だ。現代でやったというかやられたことがあるぞ!
「いや~ちょっと重要な材料一個忘れてて」
「大丈夫じゃない奴じゃないですかそれ」
「足せば問題ないんだけど~、あっでもどうだろ…」
きっと大丈夫!と俺に言ってるのか、自分に言い聞かせているのかわからないが、少し困ったように笑いながら椅子に座っている俺に片手を差し出してきた。
「髪の毛一本、欲しいな」
それぐらいお安い御用、当事者?の髪の毛ってなんか必要そうだしな、と頭に手をやると金属同士がぶつかる乾いた音が聞こえた。
「…だよねえ~!」
そうだったんだよね~!ワンチャン今すぐどこかの隙間に髪の毛引っかかったりしないか?それでよくないか?
一本だけ急に抜けてうまいこと鎧の外に出てくれ、頼む。何でこんなピンポイントな願いをかけなきゃいけないんだ。




