はじめての冒険④
しばらく来た道を戻るように走ると、俺の後ろにいたフォーゴットさんが、何も追ってきてないことを告げた。
それは本当に良かった。息が切れて何もしゃべれないし、しゃがんでしまったけれど立ち上がれる気がしない。
他の三人もそれぞれ楽な体勢で息を落ち着けたり、水を飲んでいた。そうだ水、俺も水飲もう。
ゆっくりと深呼吸ができるようになると、体が急に空腹を訴えてきた。そろそろ時間もいい頃合いだし、そういえばさっき休憩するはずだったことを考えると自然なことだと思った。
「お腹すきませんか?」
我ながら物凄く自然な導入。そうじゃな、と同意まで得られた。四人中二人、つまり半分が賛成しているということはほぼ全員が賛成だということだと社会の先生が言っていた。
エリーシャは背負っていたリュックから竹のような素材でできた弁当箱を取り出して開けた。
中にはパンが入っていた。手渡されたそれは、小判型のパンには縦に切り込みが入っており、その中にはジャムが入っているようだ。サンドイッチというかコッペパンだよなと思いながら有難く受け取って頂く。
うん。うまい。間違いない。ふんわりしたパンの食感と、甘さの中にも柑橘系の爽やかさが残っているジャムの味との相性が最高だ。甘みと酸味が疲れた体に沁みわたっていくようだ。
「口に合ったみたいで良かった」
「良かったのじゃ!」
顔に出ていたのだろうか。二人からそう指摘されると何だか恥ずかしいような照れくさいような気持ちになる。
「フォルはどう?」
ミラさんは木の上に登って遠くを見ているフォーゴットさんにも話しかけた。いつもこの人登ってるな、高いところが好きなのかな、周りを見てくれてるんだろうか。
「あ?何も変なとこはねーけど」
食べているものの話だとは思っていなかったらしい。複雑そうな顔をするミラさんと、そうじゃないのじゃ!とエリーシャがぷんぷんと怒っている。
「味じゃ味!」
「味ぃ?…あー、さっきのか。多分うまかった」
ようやく話が見えたようだが、食べたものの味を忘れたのか、そもそも気にしていなかったのか、曖昧な答えに更にぷんすかと音が聞こえそうな感じに拗ねている。
「全く食わせ甲斐がない奴じゃ」
まあまあとミラさんが宥めているが、納得はしてないようだ。
「フォーゴットも見張りお疲れさま。そろそろ行こっか」
気持ちを切り替えていこうというように手を叩き、休憩をやめて街に戻る支度を始める。俺も立ち上がって服についた土を払う。
ここからオガルまではそれほど距離はないが、気を引き締めていこう。
前は直接依頼人のところまで渡しに行ったが、その方が早いとか、そういう依頼でなければギルドに依頼された品を預けるらしい。
報酬はその場で支払われるときもあれば、今回の様に報酬が変わる場合は後から支払われるときもある。
「思ってたより豊作だったな」
そんな農作物みたいに言うな。エリーシャが個人的に使いたいと言っていた分以外を窓口の人に渡していく。「マンドラゴラってこんなに採れるもんなんですね」と感心したように言っていた。俺もこんなに採れるとは思いませんでした。
「ではマンドラゴラ、全部で七つで間違いありませんか?」
「あっすみません、俺も一個」
たしかあの時一個ポケットに入れたはずだ、そう思ってポケットに手を入れたが、手先の感覚にはそれらしいものが無かった。
あれ、おかしいな。別の場所のポケットだったかな、と思って後ろの方にも手を入れてみる。いや無い。
「大丈夫ですか?」という窓口の人の視線が生温かい。もう一度両サイドのポケットに手を入れてみる。やはり無い。
こういう時って案外最初探していたところに実はあるとかそういうパターンじゃないんか。
「エンヤ、お主もしや…」
勘がいいエリーシャが察したようだ。というかこの場にいる人、俺も含めて全員が何かを察しているだろう。
「お、落とした…みたいです…」
そうだよな、だと思った、という空気を肌で感じた。さよなら俺の報酬プラスアルファ。ジージさんに何か買って行くのはまだもうちょっと先になりそうです。
こうして俺の初めての冒険は、よく言えば無事に終わった。というか大きい目で見れば全然成功の部類なんだけども。
そして俺は一つ、誓いを立てたのだ。
――――絶対次までにカバン買おう。
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