はじめての冒険②
翌朝俺を迎えたのは前夜に立てたフラグ回収、ではなく少し予想外の方向から飛んできたものだった。
「雨、やばくないですか?」
ざあざあと見なくてもわかるほどの音で主張してくる。思い返せば遠足の日や、ここぞという時の雨率結構高かったな俺。そういえば最初の日もこんな雨降っていたなと感慨にふけっている場合では無い。
「まあこういうのはすぐ止むだろ」
急に降ってきた雨から逃げるように建物の中に入ると、俺よりも先に到着していたフォーゴットさんは窓の外を眺めて、問題なさげに言う。ミラさんとエリーシャはまだ来ていないらしい。
叩き付けるような雨音だが、屋根があるところにいる余裕からか眠気を誘われる。
その内に雨の音が少しずつ弱くなり、なんなら太陽の光が差し込んでくるのとほぼ同時にミラさんとエリーシャが現れた。
「ごめんね~。遅くなっちゃった」
「雨にも少し当たったのじゃ~」
さっきの雨の勢いを知っている俺からすると、ちょっとで済んだのか?と首をかしげたくなるが、実際二人はずぶ濡れになっているわけでもなく、申し訳程度に服の裾が少し濡れている程度だった。マジか。
もしかして四人いてまともに雨を食らったのって俺だけか?俺の運が悪いにしてもこんなに差がでることってあるんですか?
「で、今日って何すんだ?」
「昨日その話はしたはずじゃが…、まあ仕方ないの」
待ち疲れたのか、雨のBGMですっかり眠くなったのか、退屈そうに尋ねてくるフォーゴットさんをエリーシャは一蹴した。
それでも本気で怒っているとかそういうわけではなく、まあ口ぶりから察するにいつものことなのだろう。
「あの、俺も簡単な依頼としか聞いてないんだけど…」
聞けるんならここで聞いておきたい。決して忘れているわけではないはずだが、確かそういう、ふわっとした感じでしか聞いていない。
三人はジージさんの家に来るまでに事前に色々話し合っていたのだろうが、俺が聞いた中では具体的になになにを集めるとかそういう話は無かったと思う。
「そういえばエンヤくんには具体的に言ってなかったわね」
「今日、我々が探しに行くのはこれなのじゃ!」
じゃーんと能天気そうな効果音をつけて、依頼のメモを俺とフォーゴットさんの方向に見せつけてきた。いやちょっと字が小さくて見えないんだけど。
「マンドラゴラを取りに行くのじゃ!!!」
マンドラゴラ。俺でも少しは聞いたことがある。といっても知識はあくまでフィクションの中のものだが。引き抜くと凄い音だか声だかがする植物だったはずだ。
思ってたよりもヤバいもの取りに行くな、いやでも簡単って言っていたしもしかしたらこの世界のマンドラゴラは引き抜いてもそんなに音がしないのかもしれない。同姓同名の別人的な。
そんな俺の淡い期待を裏切るかのように、ミラさんが耳栓を渡してきた。
「一応これ、見つけてからでもいいからつけておいてね」
やっぱあのマンドラゴラやないかい。そんな初心者にも安心して採集していただけますとかいう仕様でもないんかい。
簡単な依頼って何が簡単なんだろうか。もしかしてマンドラゴラって雑草みたいにその辺によく生えていたりするんですか?それはそれでこの世界ヤバいな。
「あの、簡単な依頼って言ってましたけど、マンドラゴラってよくい…生え…あるもんなんですか?」
そもそも区分って植物なのか生物なのか、途中で別の疑問が出て来て歯切れの悪い俺の質問に「う~ん」と、軽く考え込むようにしてミラさんは答えた。
「一度見たことがあるぐらいだけど、多分大丈夫よ」
「一度…ですか」
大丈夫の何の根拠にもなってないんだが。
そんな俺の不安をよそに自信満々といった感じで歩みを進める。しかも話によると三つ見つけて来いということらしい。山の中で一度見たぐらいの草…まあ上の部分は多分草だよな…草を探し出すのは簡単とは言いきっていいんですか?
そんな思いが顔に出ていたのかもしれない。やり取りを聞いていたエリーシャが「わかるぞ」というように頷いていた。
ミラさんで一度ならエリーシャは見たことがないかもしれないし、簡単だと言ってはいるものの心配なのかもしれない。
「そもそもマンドラゴラの悲鳴は耳栓で耐えうるのかの」
そうだけど、それもそうだけどそうじゃない。この人たち何で見つかること大前提で話を進めてくるんだ。その根拠というか自信はどこから出てくるんだ怖い。




