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アステリア エシュラリオン  作者: にゃん(紫幻回廊)
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逃走

http://xnyan.web.fc2.com/に掲載していたものです。

 ジャリ。

 閂は歯軋りのように不快な音を立てて閉まった。

 二人の官吏が行ってしまうと、フォールヴェは溜息をついて冷たい床に座り込んだ。


「さて、どうしたものかな」


 普通の扉ならば、フォールヴェにとって(しゅ)で開けることはたやすい。だが公の留置所、監獄の閂には呪を打ち消す仕掛けが施されているはずだ。それでもフォールヴェには開ける自信があったが、その時には国中に触書、手配書が回ることになるだろう。

 資産家から金を巻き上げるために、罪状をでっち上げて逮捕と言うことも往々にしてあるが、フォールヴェには目当てにされるほどの財産は無い。ここにいればおそらくは拷問が行われるはずだ。


「拷問はちょっとな……」


 そう呟いたが、夕食に嫌いなものを出された程度の嫌がり方でしかない。拷問をそれほど恐れているわけではないらしい。



 石壁に背をもたれて逡巡しているうちに、フォールヴェはのんきにもうたた寝をしていたようだ。

 ドヤドヤとせわしなく行き交う足音にフォールヴェは意識を取り戻した。


「フォール!」


 リフェーラの声に間違いない。

 やがて、銀の髪を皮ひもで結い上げたリフェーラが後ろを伺いながら入ってきた。

 牢番は行き交うたくさんの足音の仲間に入っているらしく、居合わせなかった。


「フォール! 鍵はどこ?!」

「いたぞ!」


 リフェーラを背後から照らして、兵卒が叫んだ。

 向き直ると、剣を抜いた兵が次々に駆け込んでくる。

 小さく舌打ちをしたリフェーラは飾りだけの剣の柄に手をかけた。

 兵らは一瞬たじろいだが、すぐに押し寄せた。

 その鼻先で白い光が空中を凪いだ。

 兵の足が止まった。

 白光の通ったところから、剣の先がなくなっていた。甲高い音を立てて、いくつもの剣先と二つになった閂が落ちた。

 リフェーラの手には銀色の剣があった。

 そこにあるはずのない剣を呆然と見つめるリフェーラを、鉄格子の中から出てきたフォールヴェが引っ張った。


「こっち!」


 剣の切れ味に恐れをなした兵は、悲鳴のような声を上げて道をあけた。

 腰を抜かした一人が、ようよう叫ぶ。


「逃げたぞー!」


 建物の裏側に向かうと、二階のバルコニーから矢を射掛けられた。


守壁(ガルド)!!」


 フォールヴェの唱えた(しゅ)とともに青い光の壁が現れて5本の矢が落ちた。

 だが守壁(ガルド)が消えた瞬間を狙って、再度矢が放たれた。

 フォールヴェの背に矢が刺さらんとしたその時、


聖盾(ザイン)!」


 矢の前に走り出た牢番の、左手の指輪から緑の光の輪が広がって矢を遮った。


(リーフ)!」


 フォールヴェが短く叫ぶと、強い光が出現し、兵達は目を灼かれた。

 涙を流しながら彼らが視野を取り戻したときには、リフェーラ、フォールヴェ、そして牢番の三人は姿を消していた。

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