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アステリア エシュラリオン  作者: にゃん(紫幻回廊)
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冤罪

http://xnyan.web.fc2.com/に掲載していたものです。

「おまえか、いかがわしい占いで村民から金品を巻き上げていると言うのは」


 ノックもせず、扉を蹴破るかのように入ってきた男がそう言った。


「失礼ですがどちらさまでしょう」


 フォールヴェはつとめて冷静を装い、精一杯笑顔で応じた。

 この辺境の村では、見かけない連中だ。のどかな空気にそぐわない事夥しい風体である。

 二人組は威嚇のつもりなのか、ことさら横柄な態度で部屋の中を歩き回る。さして堅牢でないつくりの床がきしみ、耳障りな音を立てる。


「おいおい、占い師のくせに俺達が誰かわからないのか? ここの占いが信用できないってのは本当だな」


 この二人が誰かは良くわからなかったが、フォールヴェに人気と顧客を取られた公的な占者ニールからの嫌がらせであることは、占いができなくてもわかる。


「こりゃあ間違いなくインチキだなあ。留置所へご招待だよな」

「じゃあ、来てもらおうか」


 二人に両側からはさむように腕をつかまれると、小柄なフォールヴェのつま先は床から浮いた。

 最初からそのつもりで来ていたのだろう、フォールヴェの小さな家の前には囚人用の護送車が止まっており、フォールヴェはそこに押し込められた。ちょうどそこへ戻ってきたリフェーラが飛び出そうとしたが、隠れて見守っていた近所の住民に押しとどめられた。護送車に入る直前、フォールヴェはリフェーラに気付き、騒がないよう目で合図を送ったので、リフェーラもそこにとどまったのだった。


「……フォールは何であんな馬車に乗せられたの?」


 リフェーラは赤い唇が白くなるほど噛んで、怒りに肩を震わせながら低い声で聞いた。

 皆は無言だったが、本当はリフェーラにもわかっていたのだ。


「こんな理不尽が通るなんて」


 心配そうに見つめている人々に無言で頭を下げると家に入り、川で洗った野菜をテーブルに置いて、リフェーラは着替えを始めた。

 猟に行く時の服と靴をつけ、革のベルトを巻くと、壁に掛けられた一振りの剣を見上げた。

 銀色の鞘と柄を持つそれは、ただの飾りだ。

 軽さは銀のものだが、銀無垢ではありえない硬さだ。メッキだとするなら剣の部分がないのだろう。だが脅しの役には立つかもしれない。

 そう思い、リフェーラは壁から剣を外し、ベルトの左腰に下げた。

 剣のことを知らなければ、腕の立つ女剣士に見える。

 赤い皮ひもでまとめた銀色の長い髪と合わせて、鞘を誂えさせたようにすら見えた。


「リフェーラ、短気を起こさずに待っておいで」

「一人で恐かったら、フォールヴェさんが帰ってくるまでうちに来ていてもいいんだよ」

「別に間違ったことはしてないんだから、フォールはすぐに帰れるよ」


 扉の外でみんなが口々に声を掛けてくれた。


「ありがとう」


 リフェーラは、扉越しに礼を言った。


「おばさん胡桃のケーキを焼くから、少し休んだら食べにおいで」

「俺、昨日、すごい鹿を獲ってきたんだ。夕飯食いに来いよ」


 声が届いているとわかって、更にみんなが言う。


「ありがとう。おばさんのケーキおいしいもんね。鹿はシチューがいいな」


 努めて明るい声で返事をすると、ようやくみんな安心したらしい。


「よし、シチューだな! おふくろ、俺人参とって来るからさ」

「ケーキ焼けたら呼ぶからね、待ってるよ」


 慰めの言葉と足音が遠ざかり、人の気配のなくなったのを見計らって、リフェーラはそっと家を出た。

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