牛馬
昨日はみんなに揶揄われて散々な目に合った。
結局あの後夜這いに…なんて展開にはならなくてほっとした。
いや、まあ正直ちょっと残念ではあるが…ダメダメ!えっちなのはいけないと思いますっ!
うちの世継ぎについては全く先が見えてないが、領民は絶好調だ。
みんな景気が良くなって未来に希望が見えると子供が増えるのだろうか?
そう聞いてみたけどどこの家も昔っから出産妊娠の繰り返しだったみたい。
ただ、栄養状態が悪くて育たなかった子供が多かったんだと。
まあ俺自身はこの世界でも日本でもそれほど食に困ったことがない。
これは現代人ならほとんど誰でもどこの家庭でもそうだろうが、普通に仕事をしていれば最低限の食事に困るほど日本は困窮していない。これからは知らんけど。
衣食住は上を求めるとキリがないが、そこそこの物をスーパーで買って家で調理して食うと食費はかなり抑えられる。水道もガスも電気もまあいくらかは要るが、そんなに困るほどじゃない。
困って仕方ないとすれば収入が少なすぎるか、今の生活を見直す必要がある…というわけで、困ったら親の脛でも友人の脛でもかじろう。無くなるまでカジればいいさ。
まあ冗談で言ってられるくらい日本の生活は真面目で健康な人には優しい。
だがこっちは全くそれどころじゃないのだ。
試しに俺が全く関与せずに畑を作ってみたが、そもそも寒くて種からなかなか芽が出ない。
芽が出ないから成長は遅れる。うーむ。
でもまあいい。
俺が芽を出すところまで育てた野菜は順調なのだ。
頑張って芽さえ出してしまえば、後は放っておいても皆が世話をしてくれる。
一番嫌な堆肥作りも領民がやってくれるから無事に進み始めたことだし。
兎に角増えまくった収穫のおかげでガリガリだった奥様方もふっくらと肉が付き、旦那方はそれにつられてホイホイ頑張って…はい、おめでとう。ってな感じで今工場に来ているメンバーはお腹の大きくなった奥様方がメインになっている。
それと産まれたばっかりの赤子を抱いたお母ちゃんたちは子供をあやしながら新人の指導中だ。
新人と言えば魔王様から牛と馬が来た。
ミノタウロスとケンタウロスだ。
老若男女合わせて200名ほど。
お手紙と彼らの住居に使うようにとお金も一緒に持って、師匠に引率されて来たのだ。
…ちーがーうーだーろー!ちがうだろー!
牛馬だと聞いていたから牛舎や馬房を用意していたのに!
牛馬だって言ってもミノタウロスとケンタウロスだぞ!誰がこのオチを予想するんだ!
豚も欲しいって言えばオークが来るのか!チックショー!
でも話を聞くと。
彼らは人間の国で暮らしていたけど、人間同士の戦争で焼け出されたり魔族という事で差別されたり、盗賊に襲われて村が壊滅したり…と言う経歴で追い出すわけにもいかない。
なので心の中で大魔王のクソジジイ…と思いながらも笑顔で住民を受け入れた。
なんだかんだ言ってまだまだ人は欲しいし、2種族ともみんな力持ちだしな。
くそう。あの野郎はどうせなし崩し的に俺が受け入れると思ってたに違いない。
でも思惑通りに受け入れちゃう。くやしい!ビクンビクン!
痙攣が治ったところで。
ミノタウロスは牛の頭に人の体だ。
やや体の大きいゴツイのが多く、建物に高さも横幅も通常より必要になるが、そこは巨人族なんかもたくさん暮らしているこの集落ではどうという事はない。
暫く開いてる家に間借りしてもらって、その間に大きめの家を作ればいいのだ。
だがケンタウロスはまず体の作りから全然違う。
馬の首部分に人間の上半身がくっ付いているのだ。
魔族なんだから何でもアリだろ?って言われりゃそれまでだけど、普通に考えると馬の前足は人間でいうと腕に当たる。でも首部分から生えている上半身には胸もあれば腕もある。うーむ。
つまり腕と言うか足と言うか、四肢ではなく六肢あるわけだ。これはでは昆虫みたいじゃないか。
これは哺乳類の枠に入れていいのか?
ゲームなんだから何でもいいんだよ!って声がどこかから聞こえてきた。
…まあいいか。
ちなみに女性のケンタウロスの上半身には大きな胸があるが、馬の胴の方にもオッパイはあるのだろうか?気になるけどさすがに聞きづらい。うむむむ。
「…ってなことを考えていたんですが、どうなのですか?」
「私だって知らん!」
師匠も知らないみたいだ。
残念。
「でもですね、僕は大魔王様に牛馬をくださいと言ったんですよ」
「概ね牛と馬ではないか」
「いや…牛は農業に使ったり、乳を搾ったりできるじゃないですか。馬だって乗り物にしたり農業に使ったり…色々運んだり?それに馬乳もひそかに期待してたんです。馬乳酒と言うのもありますしね」
「ふむ」
「ケンタウロスさんにおっぱいくださいって言えないじゃないですか。さっきの話はここにつながるんですよ…」
さらに言えば、牛馬は食用にもできる。
と言うかその用途の割合がかなり大きいのだ。
ミノタウロスにケンタウロスは食えないだろとはさすがに師匠の前では言えないけど。
「…その分お金も貰ったじゃないか」
「アレは牛馬の購入資金というよりは彼らの衣食住を整えるためのお金でしょう?」
「わかったわかった。お前は口を開けば金だ。金かねカネ!わかったわかった!私がダンジョンでひと稼ぎしてきてやる!それでいいだろ!」
「あ、はい。それでいいです」
師匠がプリプリ怒り出したのでこの話はおしまいになった。
ほあ。