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てつのくわ

ステータスを上げるのはちょっと保留して、いわゆる固有スキルである『ギフト』の方から強化できないか試してみようと思う。

俺のギフトは『富国強兵』。

内政で国を富ませれば俺も、率いる兵も強くなる…というモノだ。

もしかするとゲームとは少し違うかもしれないが、内容は恐らく似たようなものだろう。



って事でまずは家の裏庭で畑を作ってみる。

内政の基本は農業。

食事こそは全ての基本である。


季節もこれから春に向かうところ。

丁度良いだろう。




家の庭で畑。

まさに家庭菜園と言いたいところだが、領主の家って庭すげーのな。

庭だけでそこらの田んぼよりも遥かにデカい。

野球場くらいあるんじゃないかってくらい大きいのだ。


畑を作るためには地面を耕して畝を作らなければならない。

俺だってそのくらいのことは知ってる。

日本にいた頃は爺ちゃん家の畑を手伝わされたこともあるのだ。


まずは庭師のパリスにお願いして鍬を借りた。

びっくりすることに持ち手も刃の部分も木だった。

こんなモンで荒れた土を触るとあっと言う間に木が割れちゃうじゃん。


と思ったけど、そう言えばマイ○ラでも最初は木の鍬だったし、大昔はこういうの使ってたって聞いたことある。

よっしゃいっちょやってみっか!



……結論から言うとダメだった。


パリスがこの辺使っていいぞって言って指定したところを鍬でブッ叩いた。

そんなに荒れてない土だったんだけど…鍬を全力でふるってたらあっと言う間に壊れた。

俺まだ9歳だよ。

9歳の力で壊れる鍬って…たぶん不良品だったんだ。そうだ、そうに違いない。


しょうがないから樹魔法を使ってその辺の木をスパッと切り取って鍬に変えた。

なんだ、初めからこうすりゃよかったじゃねえか。


俺の作ったその辺の木の鍬はなかなかいい。

さっきまでの鍬とは段違いに頑丈で、石にあたっても割れない。

何回かやってると先っちょがヘタってくるが、魔力を注げば直る。と言うか研ぎなおせる。


畝を一つ分作ったところで体力の限界が来たが、なんと言う事はない。

毎日暇なのだ。


はじ〇の一歩で薪割りをして背筋を鍛えてパンチ力を上げるってやってたし、鍬だって似たようなもんだろ。よしよし、これから毎日がんばろーっと。








アーク歴1493年 参の月

リヒタール領



俺は毎日畑に向かった。

レベルが上がった体と言っても所詮は1年生程度の体だ。

1時間も頑張ればもうヘロヘロの限界で眠くて辛くて仕方ない。

そんな中、領内の見回りから帰ってきた親父に血相を変えて呼び出された。


「外に出て遊べと言ったが、畑仕事をしろとは言っていないぞ?おまけに大事なマールの木を切ったらしいな」

「マールの木…ですか?」

「お前が伐った木だ。あれは頂き物だったのだ。お前のお祖父様からのな」

「ああ…そうだったのですか。あの木はちゃんと鍬になって大活躍しております。頑丈で素晴らしい木ですね!」

「鍬か…。儂はあれを用いてお前の武具を作ろうかと思っていたのだ」

「そうですか…申し訳ありません」


俺が鍬にするために適当に切った木はどうも大事な木だったらしい。

親父がお祖父様って言う相手は母方の爺ちゃんだな?一回だけ見たが、カッコいいエルフだった。ちょっと老けてきてる感は出てたが、それでもカッコいい。


かーちゃんは覚えていないが、叔母さんは美人でスタイル抜群のダークエルフちゃんだ。

ボクも、将来ああいう美人の奥さんが欲しい。です!


それはそうと、武具にする予定で爺さんが送ってくれた木か。

木でどう武具を作るか知らんが、良い弓にでもなるのだろう。そう考えるとしくじったな…。


「わかりました。私が責任を持って治します」

「そうだ。治せ。…治す?木をか?」

「いかにも。恐らくですが頑張れば何とかなるでしょう」


切った木を相手に頑張ってもどうにもならんだろうという顔の父を尻目に、俺は部屋を出て畑の前へ。

よし、今日も一日頑張って畑を…じゃねえ。つい、いつもの癖で鍬を手に取ったがそうじゃないんだ。


畑の横の元マールの木の前へ。

かわいそうに、あんな元気な木だったのに切り株だけになっている。

酷いことをする奴がいたもんだ。


直径が5cmくらいの切り株にむけて全力で魔力を放出する。

樹魔法なのだ。良く分からない性能の矢を打ったりすることだけが能ではないはず。


「ぐぬぬぬ!なおれなおれ!」


魔力を大量に送っている感覚はある。

そして木が受け取っている感覚もある。これはもっと送ればきっと直る。


「ふぬぬぬ!いいぞ!いいかんじだぞ!」


褒めて伸ばすという教え方がある。

子供なんかは褒めないとダメらしい。って子育てしてる友達に聞いた。

俺?子育て?…お察しください。


「そうだ!お前はやればできる子だ!」


庭師のパリスが『坊ちゃん大丈夫かな?』って目で見てる。

俺だっておかしな事やってるてことくらい自覚してるよ!


「ふんぬぬぬぬ!せいやあああっ!」


限界を超えるところまで魔力を出した。あとはもう寝るだけだぜ。

昨日耕したばかりのフカフカの土に俺は倒れこみ、パリスが慌てて起こしに来た。


「坊ちゃん!大丈夫なんで!?」

「大丈夫だ。パリス、芽は出たか?」

「目?坊ちゃんの目は見えてないんで!?」

「いやそーじゃなくて…切った木の方だよ。新芽出てるか?」


俺の目は見えてるっつーの。

パリスは切り株をじっくり見て、こう言った。


「出てまさぁ!かわいい葉も出てます!いやあ、坊ちゃんがよりによって一番高い木を切ったときはおいらは御屋形様にどうやって謝ればいいかと…」

「おう…。今度からは先にどれが高いやつかとか教えといてくれ…」


よく考えたらこいつが先に注意しといてくれりゃ良かったんじゃないか。

そもそも木の鍬なんて訳わかんねーもん渡すからこうなったんじゃないのか。


…つーか、なんかフラフラしてきた。

沈みゆく意識の中、パリスがちゃっかり持ってた『鉄の鍬』は俺の視線をとらえて離さなかったのだった。



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