新領地の開拓
今日は新領地の視察に来た。
ここは新しく増えた領民を住ませるところが無いと大魔王様に文句を言ったらおまけに付けてくれた土地だ。…という言い方には語弊があるか。
まあご褒美の一環としてもらったものだ。
位置的にはヴェルケーロ山脈から降りて大魔王城へと向かう方向、お隣のカニエラル領の一部を大魔王様に拝領したのだ。
新領地に元々あったカエラ地区の村の民は皆礼儀正しく出迎えてくれた。
まあ言うて住民たちは大魔王領の代官が変わった程度の認識だ。
ちゃうで?
大魔王様の領地の代官じゃなくって、俺が、俺こそが領主様だ!俺が法でご主人様なのだ!
なーんて思うけどまあ実際大差ないから訂正なんてしない。
「この辺て洪水多いの?」
「洪水は滅多にありません。沢が枯れることが何十年に一度くらいあるくらいです」
「多いより無い方が困るかもな…まあ何十年に一回くらいなら何とも言えんが。」
洪水でぜーんぶ流されるのと水不足で困るのと、どっちがダメかと言えば甲乙つけがたい。
山から流れてくるんだからそれほど水が枯れたりは無いと思うが…まあいざって時は水魔法使いの方を枯死寸前まで追い込めばいいか(ド鬼畜発想
「川沿い…にしたいけどあんまり近い所じゃない方が良いか。川沿いには一応土手を作って、水路を作り、水を引こう。ロッソ、工兵隊に言ってこっちからあっちに溝掘って水を」
「ハッ」
凄くファジイな指示。
なんと言っても大体の大体である。水の流れに最も大切な高低差ですら適当。
パッと見て農地候補よりこの辺の方が高い?同じくらいだよな?って程度だ。
その農地候補はほぼ草むらだ。低木もそこそこ有るが、大きな木にならないのは何か理由があるんだろうか?水分があんまりないから?理由を聞くと雨季と乾季がはっきりしていて全体に雨が少ないとの事だ。それって稲作にはあんまり向いてないんじゃ?
まあでも川があるからまあ何とかなるか?なれよ?
川の流れについては駄目なら水車を設置すりゃいい。
そう考えるとポンプはホント楽だよな。あんなんチートやろ?
もし異世界や無人島に転移するなら電気とポンプが欲しいなあ。
まあそれどころじゃないか。
ナイフとか?いやそれよりチート魔法とかか?うーん?
地図をなんとなーくで作りながらこうやってああやって…と決めていく。
決まったら適当に木の杭を刺して、縄を張ると。
はい、水路予定地の出来上がりである。
本当なら測量して高低差も確かめて、ってしないといけないところだけどまあそう言われても。
測量なんて今の技術じゃできるわけない。まっすぐ線を引くことすら怪しい。ああ、その辺の技術も地球でちゃんと習っておけばよかった。
まあ出来ない物は出来ない。なんとなーくでいいのだ。水が流れたら低い!流れなかったら高い!
「…じゃあ、田んぼの方も縄張りをしていくか。これも大体の大体だなあ。」
正に縄張りだ。
水路と同様に木で杭を打ち、縄で長方形を作る。はい、ここが田んぼね?
あぜ道の幅を残して同じような長方形を何個か作り、そこに沿う形で水路を作る。
はい、これを何回か繰り返すと当然のように上流にある田んぼと下流にある田んぼが出来たね。
これが水争いの元だよ~?
「水が多い少ないで揉めるかもしれん。揉めた奴は年貢を増やすとはっきり明言しておく」
「はい」
「勿論、上流と下流がはじめから平等でなかった場合、収益にハッキリ差が出る場合にも問題がある。こちらは行政の問題になるから出来るだけ早急に報告するように。勿論だが意図して誰かに不利益を与えた場合、その与えた者の年貢も増やす。もしくは罰として…なんだろうな?罰則はまた考えておこう。」
「ハッ」
最後に返事したのはシュゲイムだ。
正式に家臣として仕えてくれることになったので『殿』は外した。
そのうち領地を与えたりしないといけないんだろうか?人族の褒章の与え方なんてわからない。
魔族であるマークスやロッソ達に付いては基本的に衣食住を保証して、後は適当にジジイたちの残していった武具を与えたら満足してくれる。
まあしかしその辺もちゃんとしないとな。
今迄が適当すぎたかなって感じはある。
法を定めて罰則規定を作るのと同時にどの程度の功績でどの程度褒美があるかも決めないと。
「領主様、縄を引いた後はどうするんで?」
「お、そうだな。まずは草刈りだ。鎌を使って草を…まあいいか。今日は俺がやるよ」
地面に魔力を流して草と木を引っこ抜く。
「「「おおお」」」
樹魔法はホント開拓初期には大助かりだ。
平地とは言え、人の手が入っていないところなので低木も草も、たまに大きな木もボーボーなのだ。
まあ、こういう時しか役に立たないとも言えるけどね。ハハッ…
「それでこの線に沿って全体にまっすぐに掘っていって」
「はあ。深さはどのくらいで?」
「うーんと?とりあえず30cmくらい?ああ、掘った土で畔を盛ればいいが…粘土質が上手く出ればいいがな。まあ大体まっすぐになるように、掘ってって。んでこの縄で囲まれた四角が全体に周りより低くなるように。農具はここにあるからね。粘土が上手くでなければ山から運ぶことになるなあ」
さすがに開発しまくってるうちの街の方には粘土質の土地も引っかかってきている。
あれを移植すればいいが…トラックが欲しいな。10㌧トラック何杯分かくらいは粘土が欲しい。
「へえ。こりゃいい鍬ですな」
「そうだろ。ウチの鍛冶屋の特製だ。」
鍛冶屋のゲインは最近はようやく色々な物を作らせられるようになってきたが、昔は鍬ばっかり作っていた。
牛馬に轢かせる鋤なんかも作ったが…まあ牛に曳かせるよりベロザに曳かせた方が早いし、何ならロッソにでかい鍬でザクザクさせた方が早い。異世界にきて一番驚いたのがこの辺りの常識だ。
人間じゃどうやっても出来そうにない事を魔族ならホイホイやってのける。何でこいつ等貧困に喘いでたんだろう?不思議で仕方ない。
「坊ちゃん邪魔です」
「アッハイ」
考え事をしながらのんびり俺も耕していたが、他のやつらのスピードには遥かに劣る。
終いに邪魔だって。ロッソめ、そんなにストレートに言わなくてもいいだろうに。
まあしょうがない。ロッソは既に2列奇麗にやり終えて、3列目。俺はまだ1列目の半分。おまけに幅はロッソの半分くらいである。
うん、さっき木を引っこ抜くのに魔力使ったからきっとそのせいだな。疲れたんだ。
あー、節々が痛い。
わしゃもう年じゃのう。