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ご褒美タイム


「さて、再出発としよう。…馬車はずいぶん血塗れだが、とりあえず洗えば大丈夫か?」

「カイト様、車輪と車軸の交換も必要になります。王妃様には申し訳ありませんがこの馬車は廃棄して、他の馬車か荷車に移っていただきたく。」

「あー、まあそうか」


トルネル隊長の見たてではだいぶこの馬車はダメらしい。まあそうか。

投げ槍の集中攻撃を喰らって車輪も穴が開いてるし、人が乗る部分も大きな穴があるし。

『それでは不敬ではないか』との声も上がるが、さすがにしょうがないだろ。

油断すればまだまだ追撃が来るかもしれん状況だ。


「でもまあ追撃が来たら師匠がやっつけてくれるんでしょ?」

「『避難民に襲い掛かる非道な盗賊』なら我々はいくらでも倒せるがな。退却中の○○軍を追撃する××軍という形になると我らはどうしようもない。まあ出来ることなら早く大魔王領に入ってくれ。そうすれば我が領地を侵略しようとする××軍と解釈できるから何とでもなる」


物は言いようだな。

そこを上手く相手に言われると逆に厳しい訳で。


「…だそうです。急ぎましょう」

「王妃様と姫は無事だ!先を急ぐぞ!」

「「「はい!」」」


必死に急いだおかげか。

その後は特に襲撃されることなくトンネルへたどり着き。

トンネルに入ったら内側から土魔法と樹魔法とでエルトリッヒ側の入り口から順番に埋めて……

無事ゴールであるヴェルケーロ領にたどり着いた。








アーク歴1498年 什の月


大魔王城



「ご苦労だった。此度のカイト・リヒタールの働き見事である。よくぞ避難民を援け、虐殺を防いだ。其方の様な若者にどんどん出てきてほしいものだ」

「有難う御座います。今後も一層励みます」

「飛竜隊の皆も急な出動にも拘らず良く励んだ。貴君らがおればこの大魔王領は安泰である。」

「ハッ!有り難き幸せに御座ります!」

「うむ。褒美は追って言い渡す。今日の所は体を休めると良い」

「「ハッ」」


大魔王城、謁見の間。

久々にここに来た。大魔王様に会う時はほとんど裏口から入って執務室に直行って感じだからな。

今日は救援のご褒美をいただけると聞いてずしゃー!っと来たわけだが、ご褒美はまた後でって言われちゃった。


師匠たち飛竜部隊はあの後トンネル周囲を空から見張り、一度はエルトリッヒ公国の王城も見に行ったらしい。お城の方は火は消し止められていたが、静かでどんよりした空気だったと。

公国の旗は降ろされていたので城が落ちていることは間違いないという事だが…これ以上の情報は地上からじゃないと分からないと言われた。またマリア達に偵察に行ってもらおう。


「カイト様、大魔王様がお呼びです。執務室の方へお願いします」

「あいよー」


謁見の間から出たら、前に暫く閉じ込められてた部屋へと案内され、それからすぐに呼び出しが入った。この部屋苦手なんだよな。

呼びに来てくれたのは顔なじみのメイドさん。

このメイドさんも美人さんだわ。つーかみんな美人。

オバサンのメイドさんとか見たことないんですけど?


「ふむ、ご苦労だったな。」

「いえ、思ったほどではありませんでした。王妃と姫は体調が戻り次第大魔王様にお目通り願いたいと言っておりますが」

「しばらく療養しろと伝えろ。会ってもどのみち国の奪還などは出来んとな。」

「はい」


トンネルから出て大魔王領に入り、そのままヴェルケーロへと避難民を連れて行った。

途中で師匠に伝令役をやって貰って受け入れ準備を進めたが、3日ほどしか時間が無かったので出来ることはたかが知れている。


なにせ5000人もいるので受け入れる場所が無い。

何十軒かの長屋は突貫で作り、1000人くらいは受け入れられるように体制を整えた。

食料の生産も増やした。だがそこまでだ。

いやあ、精々何百人程度なんじゃないかと思ったが見通しが甘かったわ。


この避難民たちがとりあえず住むことのできる仮設住宅を作らねばならない。

山を切り拓き木を伐採して大量生産の家、家具を作る。

前世で似たような事をたくさん見ていた。

とにかく規格を作ってそれに当てはまる寸法の材料をいっぱい作る。

そして後はひたすら組み立てる。そうするとほとんど同じ家がいっぱいできるのだ。


全く個性のない家が何十軒とできた。

そして今なお続々と量産中だ。


自分の家に帰ろうとして迷子になること間違いなし。

俺はこんな所で郵便配達なんて絶対したくない。

…まあ仮設だし文句を言うな。



「避難民たちの振り分けはどうなりましょうか?」

「大魔王領で受け入れようとは思うがな。どこにするか…ああ、そう言えば最近急に発展しているところがあったな。恐らくはそこならば移民を受け入れる余裕くらいはありそうだ」

「へー。そんな所があったんですね。そこで良いんじゃないんですか?」

「そうだな。では宜しく頼んだ」

「はあ…はぁ!?」

「了解してもらえて助かった。人族を5000も急に、と言えばなかなか難しいのだ。お前の所なら問題あるまい。まだまだ開拓の余地は残っていようしな」


何言っちゃってんのこのジジイ?

そりゃヴェルケーロは未開の地、逆に言えば拓く土地はいっぱいある。


でも大体山だし山をそんなにゴリゴリ削ったら生態系もぶっ壊れるし。

拓いた土地だと言っても土地が馴染む前に家を作れば山崩れや洪水の危険性が高いし、畑として使える土になるのにはしばらく時間がかかる。

つまりそんな、『すぐにどうにか出来るような空き地』は限られているのだ。


「うむうむ、お前の言う事も分かる。だから少しだけ領地を増やしてやろう」

「それは…うれしいです」

「そうだろう。お前の『ギフト』を考えた上でのことだ。領民に領地。有って悪いものではあるまいて」

「うーん」

「イランと言っても渡そう。今回の事は褒美をやるべき事だ。ありがたく受け取れ」


そうだ。

頑張った人が褒美をもらわないと誰もご褒美にありつけない。

信賞必罰は上司として一番大切なお仕事である。

頑張ったのに手柄を他人に盗られて面白いやつがいるだろうか?居るワケねえよな。


「御意に。大魔王様のご配慮、まことにありがたき幸せでございます」

「うむ。これからも頼むぞ」


こうしてヴェルケーロ領は少し広がった。

でも広がった所を治めていたのはワニさん領主・ウルグエアルさん。

そのウルグエアルさんの治めるカニエラル領、大魔王領からヴェルケーロ領に通るところなので俺の中で『道路』と呼んでいる領地である。

そのヴェルケーロ側の一部、カエラ町の周囲からヴェルケーロまでの土地を受け取ることになった。


大体俺の領地のすぐ横くらい、ほぼ平地5km四方くらいを貰ったことになる。

このスペースに5000人を押し込んで大丈夫なのだろうか。うーむ。







感想などで色々と指摘をいただいていますが、カイトはまだ甘ちゃんです。

人を殺傷することにまだまだためらいはあります。


本気で殺る気マンマンならもっと武器開発にカネを投資するし火薬も量産しまくってます。

今回だって弓矢を作っただけ。それも矢羽がないのはもういいかで、矢尻はその辺の石ですね。

作ろうと思えば木材を加工してクロスボウでも投石器でもバリスタでも、もっと殺傷力の高い武器や罠を作れます。でも作らない。作れない。


そういう前提をイチイチ書いてはいないのですが普通に考えて現代人が異世界に行ってもどこかでブレーキがかかります。こうすればもっとたくさん人を殺せるって分かってても出来ない事はあります。そういうブレーキの壊れ方をしている描写もまだしてないはずです。


今回、医療系の講習を受けている描写がありますがそっち系の学生だった、と思ってください。

そこらは実際決めかねている所もあってぼやかしていますが。


で、「人の命を大事にしましょう。」だとか、「やられたらいやな事は人にやらないようにしましょう。」だとか。そういう風に教育を受けている子供が高校生や大学生、あるいは社会人になって、異世界いったら「よーし、殺しまくろっと。」ってなるか?…って話です。


大抵の作品はそこに至るまでに挫折だとか苦しめられた描写だとかを書いてあって、「そうして主人公は童貞を喪った」って感じですよね?最初からぶっ壊れて人殺しまくるってあんまりないと思います。

もちろん、大戦中の兵士やら、戦国時代や鎌倉時代から転生や転移しただとか。

そういう例外があるのは分かっています。その辺は教育というか文化の違いがありますので。


今回もカイトは直接殺しては無いんですよね。間接的に人が死ぬことはたくさんしていますが。

というわけでまだまだ甘ちゃんのままです。

出来るだけ敵にも損害が出ないように、なんて考えをしています。『盟約』を言い訳にして。


そしてそんな甘い所を大魔王や師匠は気に入っているというところですね。

後書きじゃなく作中でそういう描写を入れろよ!って自分でも思ったので次回に幕間として挟みます。

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