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逃避行 三日目 昼②

心臓マッサージを続けながらヒールを使う。

いい加減疲れて来た。カウントも適当になって来たし…


「増血!造血?とにかく増えろ!血!ヒール!…ハァ」

「う…ん…お母さん…?」

「姫様、お気が付かれたのですね!」

「…お母さん!?お母さん!」

「近寄らせるな!1!2!3!」

「ハッ」



トルネルが姫を引き離そうとする。

周りの侍女たちも俺が治療をしているという事はなんとなくわかるのだろう。

姫を遠ざけようとする手助けをしてくれている。


「やめろ!はなせ!!」

「姫!どうか落ち着いてください!」


気づいちゃったか。

俺は母親の上に乗っかって数を数えながらドンドコ胸を押しまくる、まあ…変な人だ。

姫はトルネル隊長が一応抑えているが…面倒だが説明しないと。


「落ち着け。敵の投げ槍で王妃は首を貫かれた。わかるか?」

「首!?」

「落ち着けって。俺たちが着いた時には王妃の心臓は止まっていた。だから俺が今蘇生しているところだ。上手くいけば助かる。黙って見ていろ。分かったな?」

「死んだ?蘇生???」

「そうだ。襲われたの覚えてないのか?」

「襲われた。そう、馬車のすぐ近くが急に騒がしくなって、大きな声が聞こえて…それで…」

「そうだ。暴れると助からんかもしれん。大人しくしていてくれ」



そう言うと少し落ち着いたようだ。

混乱しているが暴れそうにはない。

襲撃を受けたことも思い出してきたようだ。

でも心マのカウントはさっぱり分からなくなった。まあもういいか。


「ぷふー!輸血したいな…くそ!シリンジでもいいからあればなあ」


顎先挙上からの人工呼吸を行う。

数がだいぶ滅茶苦茶になってきているがまあしないよりはだいぶいいだろ。


輸血に関しては注射器でもあればブスブスあっち(ドナー)に刺して、こっち(レシピエント)に刺せばいい。

注射針とチューブがあればそれで二人をつなぐだけでもいい。

でもなにもないんだよなあああ!


「増えろ!血!」


回復魔法はイメージだ。

明確に骨を引っ付けるイメージがあれば骨折も早く治る。


ならば血を増やすイメージを持てば、輸血のイメージをしっかりと持てば血だって増えるはず。

増えろ!増えれば!増えた時!?


駄目だ全然顔色はよくならん。

うーん、何か薬でも…薬?


「そうだ。龍の涙!」


ドラゴン種の涙は強い治癒能力をもつエリクサーの主成分だ。

それに後は…なんだっけ。あかん。わからん。


「おい、龍の涙を飲ませていいか?どうせこのままじゃ無理だ。」

「え?うん。お薬?」

「ああ。おそらく治癒は促進されるはずだ」

「師匠?」

「使うなら早く使え」

「はい」


いつの間にか師匠が横で覗いている。

師匠も言う事だし、龍の涙は効くはずだ。たぶん。

問題は子龍がくすぐられて笑いながら流した涙だって事だけど…それは大丈夫だろ、たぶん!


採取したアカの涙が入った瓶をマジックバッグから出し、中身を王妃の口に入れる。

飲み込んだかどうかは分からん。

そもそも胃から吸収することに何の意味があるのか。


粘膜から吸収すればいいなら傷口に垂らしてもケツの穴にぶち込んでも同じはずだ。

衆人環視の中で王妃を裸に剥いてのケツの穴に何かをぶち込んだら俺が周りに殺されそうだが。


下らないことを考えながらマッサージを続ける。

龍の涙を使う前より少しづつ血色が良くなってきた気がする。

そろそろ腕も限界だし…師匠は電撃魔法を使えるって言ってたな。

じゃあ頼んでみるか。

AEDだ。


「師匠、弱い電撃魔法を使えます?パリッと一瞬しびれる程度の」

「それはまあ使えるが」

「黒焦げになるようなのはダメですよ。弱いのを一瞬でいいですよ?」

「分かっておる」

「じゃあ、こことここに手を当てて間に電流を通すように…」

「こうか?」

「そうです。軽めでバリッと」


しつこく軽めと言ったが伝わっているだろうか。

不安もあるが、いい加減俺の腕も限界だし脳の虚血も限界だろう。

師匠の腕を誘導し、心臓を電気が通過するように、右胸の上と左の脇腹に手を当てさせて…


「そこです。いま!」

「いくぞ、スタンボルト!」


バリッと電気が走ったのが見えた。

同時に王妃の体がバシンとはねる。俺もうっかり師匠の腕を握ったままだったのでビリビリッと来る。



「あばばばば」

「ああ、カイト。すまん!」

「べぶびびびでぶ(べつにいいいです)…ヒール!」


凄く痛いが、まあ、やってしまったものは仕方ない。


心マを続ける。

そして人工呼吸も。だめだ。帰ってこない。


「お母さん…」

「くそっ!帰ってこい!ヒール!ヒール!」


諦めそうになるが、傍らで見ている娘を見て再度やる気を取り戻す。

戻って来い!あんたの夫はアンタを逃がすために死んだんだぞ!

キチンと逃げて、夫の分まで生きないとダメじゃないか!帰って来い!来い!


「帰って来い!ヒール!ヒール!ヒール!」


アカン。意識が朦朧としてきた。

誰かに代わってもらってマジックポーションを…


「ゴフッ!ゴホッ!カヒュー…ヒュー…」

「おお、動いた…じゃない。えーっと、そう!回復体位だ!」


マッサージしている心臓に手を当てれば確かに感じる鼓動。

諦めていたら動かなかったであろう鼓動を感じた。


体の上から手を下ろし、横を向かせる。

口から何度か血を吐いたが、これは肺にたまっていた血液を排出しているのだろう。

後はそれがちゃんと出られるように、吐いた物がまた戻らないようにするための横向きの体位だ。


念のために肺、気道を目がけて再度ヒールをかける。

何度か血を吐いたが、呼吸も安定してきた。


「う…あ、リ、リ…」

「お母さん!お母さん!」


意識が戻ったようだ。


でもすぐに昏睡状態に入った。


「一応意識戻ったな、大丈夫かなあ?」

「お母さんは?お母さん助かったの?」

「ああ、とりあえずは助かったと思っていい。」


脳の損傷具合などは良くわからんが…まあとりあえず心臓は動かせているし、呼吸も戻った。

意識も一瞬は戻ったみたいだし、大丈夫だと思うけどなあ。

でもマヒが出たり、今後意識が戻らなかったりするかもなあ…


うーん、と俺が考え込んでいると、


「やるもんだな、カイト。死人を生き返らせるとは」

「師匠のおかげですよ。へへ。」

「有難う御座います!貴方は我が国の恩人…いや、それ以上です!」

「ありがとう!ありがとうカイト様!」

「カイト様は神様の使いだったのですね!」


師匠が褒めてくれ、その後はトルネル隊長を皮切りに色んな人が褒めてくれる。


でも一部では

「…バケモンだ…」「死人を黄泉返らせたぞ」「神だ」「いや悪魔だ…」


遠巻きに見ていた避難民からはこんな声も聞こえる。


失敬な。

化け物でもなければ神でも悪魔でもない。


心臓マッサージから電気ショックまでの流れはヒトの持つ技術だ。

例外は龍の涙だが、これは俺のペットの排泄物だ。

排泄物を王妃様の口に飲ませただけで…うーん、この表現は凄く微妙。


それにしてもこの世界だと外科手術は簡単そうだ。

首の傷は動脈にまで達し、馬車の天井も地面も真っ赤になるほどだったが、ヒール一丁で血管も神経も筋肉も皮膚もつながった。メスで切った傷も縫わずにスッと治るだろう。


あー、でも例えば内臓を傷付けた場合、漏れ出したモノはどうなっているんだろうか。

表面の血はパリパリになっているだけだから拭けば取れるけど…

そのうち死刑囚とか使って中身がどうなるか実験して…

ダメだこの発想。

封印だ封印。

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