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逃避行三日目 昼

敵追撃部隊のうち騎馬隊は半壊、歩兵も炎に阻まれて完全に足が止まった。

とはいえ水魔法や土魔法くらい使える奴いるだろうし、まあいつまでも足止めできるものではない。



だがまあ、もう先は短いのだ。

後はトンネルを抜ければ大魔王領である。もう問題ないだろ。

そう思っていた。

完全に油断だ。



「キャアアアア!」

「敵だ!どこから!」

「うへへ、喰い放題だぜ!」

「助け…うああああ!」

「守れ!姫を守れ!」「うおおおお!」

「ぎゃああああ!」


戦闘行動を中止した俺たちは追撃を防ぎ、時間を稼ぐために木を倒して道を塞いでいた。

後は追い付かれなきゃいいやと思って。


そうすると突然前方から悲鳴と怒号が聞こえて来たのだ。


「しまった!敵襲だ!急ぐぞ!」



後方の部隊が引いて行ったからすっかり油断していた。

どこかで俺たちを見張っていた部隊がいたはずなのだ。

でも、どうせ偵察だけだろ?と侮っていた。

険しい崖路を回り込んで強襲部隊が横撃してくるなんて思ってなかった。くそっ!



エルトリッヒ公国軍の騎士団部隊はおよそ300名が避難民を誘導しつつ敵部隊の迎撃に動いている。

そのうちのおよそ7/10を前方に、そして残りのうちの2/10を後方の守りに。


中段で王族の護衛に付いているのはさらに残り。

全体から見て1/10しかいない。


そして、それも経験の少ない新人がメインだ。その王族のいる中段の辺りに真横から襲い掛かっているものが…あれは魔物か?それとも人の部隊か?


「あれはタラモル!タラモル国の山賊兵団です!何故こんなところに!」


トルネル隊長が叫ぶ。ふむ、タラモル…記憶にない!

最近の知識にもないし、ゲームでも出てきたかどうかさっぱり分からん。


マークスが外交がどうとかで国の名前やら王族、貴族の名前。

それにそれぞれの紋章を覚えろとか、色々言っているが、俺はそういうのはさーっぱり覚えられない!

覚える気もない!


だから学校を作って頭の良さそうな子供にそういうの全部覚えさせるのだ

絶対俺は小5より頭悪いんだから!そういうのは無理なの!覚えらんないの!


と、それはいい。


「山賊兵団??ってどんな軍だ?強いのか?」

「個人の強さはかなりのものと聞きますが、それより山岳戦が得意と聞いておりました。しかし、こんなところまで!偵察は一体何をしているのか!」

「…まあ偵察部隊は素人だからな。プロの狩人みたいなのが出てくりゃ無理だろ」


それなりに訓練はしているようだが、所詮は人間の警備隊レベルである。

目はそれなりに良いが、犬獣人みたいな訳の分からん聴覚や嗅覚も無い。

奇麗に藪に潜まれたら見つけられなくても仕方ないだろう。


むしろ気の緩みを突かれたわけで、俺たちが悪いともいえる。

挟撃くらいはあると思わないといけないのに。くそ!


「通してくれ!道を開けろ!」


中々思うように加勢に行けない。

トルネルも焦っているが厳しい。


王家の馬車に敵の槍が届く。

まずい!


「そこまでだ!」


ドンッ!という音と共に爆裂する地面。

そして飛び爆ぜるタラモル兵。


何が起こったかと見れば、師匠が乗った飛竜が上空にいた。

飛竜にブレスを撃たせたんだな。


…思いっきり一方に加勢しているがいいのだろうか。

俺が言えたことじゃないと思うが…


「くっ…魔族共の飛竜か!卑怯な!」

「同族の『避難民』に無差別に攻撃しておきながら…どちらが卑怯なのだ!」


強襲部隊の部隊長と思われる兵が上空に向けて叫ぶと、師匠も大きな声で叫び返す。

なるほど、避難民を襲うとんでもない鬼畜野郎を攻撃したって事か。なるほどなるほど。

あくまで避難民。そこ重要。


「おのれ魔族どもめ…ええい、退くしかないか。しかし我らはタダでは退かん!者ども、槍を喰らわせてやれ!」

「「おお!」」


負け惜しみのように投げられる槍。

そんな、槍投げなんかしたってどうせ大したダメージになるわけ…


「うわ、すげえわ」


投げられた槍は大半が市民や騎士のいる方に飛んだが、そのうちの数本は中段の馬車へ一直線に進む。それも中々の威力だ。

さすがはレベル制MMO…じゃないけどレベル制ゲームの世界。


大したダメージになるわけないと思ってタカをくくっていたがとんでもない。

人間が投げたとは思えないほどの威力の槍。

木に当たれば木を薙ぎ払い、地面に当たれば土が爆ぜる。


だがそれを盾で防ぐ騎士たち。

ぱねえ。あの盾何でできてんだ!?


…そして残されるのは逃げ惑う民衆と身動きの取れない王妃と姫の乗ったちょっと立派な馬車。

その馬車へ直進する一本の槍。

あのコースヤバい!

そしてドガアアアンという轟音とともに馬車の木壁は砕け、馬ごと薙ぎ倒される。


「キャアアア!」

「王妃様が!王妃様が!」

「王妃様!姫!おのれ!」


俺はまだ500mくらい離れたところにいるが、ここまで王妃様がエライことになっちゃったぽい悲鳴と喧騒がここまで聞こえてくる。


「すまん、急ぐのだ!通してくれ!」


避難民を掻き分け、馬車の所へ。

襲ってきた連中はもうとっくに逃げた後だ。


「おお、カイト様!王妃様が!」

「王妃様!王妃様!」


槍は首の側面を貫き、大量にそこから血が噴き出したようだ。馬車の周囲は血の匂いでむせ返るようだ。そしてすでに王妃の目からは光が消えている。


「これはイカン」


俺は大急ぎで王妃を馬車から出し、刺さっている槍を一気に引き抜くと首にヒールをかける。

塞がる傷。

オープンになった傷からは神経、血管、筋肉と治癒されている過程がよく見える。キモイ。

そして心拍を確かめるが手首はもちろん、頸動脈からも全く触れない。


「あー。アカンアカン。えーっとどうすんだっけ」


こういう時は、そう!心臓マッサージだ!

まだ温かい死体を横に寝かせ、胸骨圧迫による心臓マッサージを開始する。


「カ、カイト様!なにを!」

「うるせえ!生き返らせるんだ!黙ってろ!1!2!3!4!…」


大丈夫、大丈夫のはずだ。

脳に血流をよみがえらせるのだ。

まだ死体は暖かい。心臓は止まっていたし呼吸も止まっていたが、問題となるのは脳虚血の時間だ。


医療マンガで読んだこともあるし、心肺蘇生の講習会に出席したこともある。

心肺蘇生に重要なのはかつて言われていたABC (Airway(気道確保)Breathing(人工呼吸)Compressions(胸骨圧迫))ではなくなった。

最も必要なのは脳への血流。


血流こそが最も重要なのだ。

というわけで人工呼吸は思い出した時にする。


心臓マッサージ15回につき人工呼吸2回だったけど心臓マッサージが30回で人工呼吸2回に変わったんだっけ?何せそのくらいでよかったはずだ。後は1分100回マッサージ!そして魔法は脳にかける。


1分100回ゲームでコントローラーのパッドを押し込むのはどうって事ないが、1分100回の心臓マッサージを何セットもするのはきつい。

TVでやってるのを見た時は鼻をほじりながら『ほーん』と思っていたが、実際にやってみるとこれはだいぶきつい作業だ。手も腰も足も痛い。


でもこれを何も知らない人にやらせるのはちょっとまずい。

心臓をちゃんと圧迫しないと意味ないし。



心臓はこれで一応動いているのと同じ状況になるはずだが、どう考えても血が足りない。

たぶん、診断名は失血による出血性ショック、あるいは心室、もしくは心房細動や心停止になるんだろう。

脳には一応少ないながらも血液が回っているはずだしそれほど時間も立ってないので脳死はまだ、まだのはずだけどなあ。


すでに元の傷はヒールで治っているから出血部の治療は必要ない。

でも、だからって失った血は戻ってこない。


ポンプを頑張って動かしても、水がそこにちゃんと入っていないと流れは起きないのだ。

脳の血流はたぶんそれほど途切れてない。

受傷からここに着くまで5分もかかってないだろうし、傷を塞ぐのも着いてすぐだったし…でも血は足りてそうな気配がない。


某マンガの吸血マージャンで2000cc抜かれたら死ぬとかやってた。

たぶんそのくらい出血したって事だ。

馬車の天井も床もとんでもないほど血だらけだし。

人間の血ってこんなに飛ぶんだってくらいに…


この状況を打破するには、どう考えても輸血が必要だ。

無ければ輸液でもいいがもっとない!


「29!30!ふう、ヒール!ヒール!ヒール!ああくそ輸血!輸血があれば!ハァ、ハァ」


輸血できるかどうかを確かめるにはどうすりゃいいんだっけ?えーと、確か血液混ぜて固まらなきゃいいはずなのだ。

そう!クロスマッチだ!クロスマッチすりゃいい!

あー、でもそのまま混ぜればいいのか?屋外だし容器も遠心分離機も当然ないし…くそ!






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