逃避行二日目 夜②
アーク歴1498年 玖の月
エルトリッヒ公国 魔界との領境近く
オーブラン・リケルム将軍
「それで…犠牲者の数は?」
「先行騎馬中隊は半壊、死者15名、重傷者35名です!」
連合軍から騎馬隊を引き抜き、追撃のためにわざわざ連れて来た。
そして山中を逃げる避難民たちを追わせていたわけだが…
「指揮官は誰だったかな?」
「タラモル国、コネニ・シャウユ・カセーマ殿です」
「ああ、あの能無しの…おっと。」
コネニは今回の戦にタラモル国の将軍として兵を率いていたが、攻城戦でもその前の会戦の際にもいい所が無かった。話してみてもちょっと…まあ能力の高そうとは思えない武将だ。
何であんなのに貴重な騎兵を率いさせたのかが分からないが、そこら辺は貴族のお偉いさんが決めることだ。儂のような平民出身は粛々という事を聞いているだけよ。
「それで会議の呼び出しか…めんどくせえなあ。ああ疲れた。」
「そう仰らずに。追撃ももう明日明後日で終わりですよ」
「…だな。じゃあ行ってくらあ」
「がんばってください!」
疲れた体にメランちゃんの声がしみこむ。なんだか少し元気出たな。
副官のメランは戦闘能力は低いが他は何でもできる。
補給から治癒魔法を使った治療まで。
おまけに見た目も良いから兵たちの受けも良い。
一部で俺に対する反感が高まったりするようでそこだけが困る所だ。
「オーブラン・リゲルムだ」
「グルムレーン国、オーブラン・リゲルム将軍が来られました」
「入りたまえ」
幕僚専用のテントに入る。
テントに入るとすぐにタラモル国王の不機嫌そうな顔が目に入った。
ここ数日の間、日中は障害物だらけの山道を行軍、夜は不機嫌な親父共と会議だ。
俺だっていい加減嫌になっているが向こうもたいがいなのだろう。
俺の後に3名程の幕僚が入って来た。
これで全員だな
「揃ったようだな…偵察の結果、奴らの尻尾はもう捕まえたと思っていいだろう。内通者からの位置情報も間違いはないようだ」
「多大な犠牲を払っての偵察でしたな。」
「喧しい!」
また始まった。
タラモル国王とグラオル国王の言い争いはこのところ毎晩の事だ。
二人とも馬にまたがるだけで碌に歩いてもいない癖に機嫌が悪いこと悪いこと。
こんな事ならエルトリッヒ城でのんびりしておけばよいと思うのだが…追撃している部隊になにかあるのだろうか。
「位置が判明しているなら夜襲でもすればどうですかな?」
喧嘩があまりにうるさいので試しに一言言ってみた。
ピタリと止まる見苦しい喧嘩。
そして気まずそうに顔を見合わせ、モゴモゴと言い訳めいたことをいう。
「夜襲は悪くないが…折角の奴隷がたくさん死んでしまうのは困る」
「左様左様。若い女も男も夜には見分けがつかんのでな」
こんな時は仲がいいな。
溜息を吐きつつちらりと隣を見ると、そこに座っているゲルナルド将軍も疲れた様な顔をしている。
まあ、俺も同じ顔だろうな。
「成程…では明日の作戦を早めに決めて、今日は兵によく食わせて寝させましょう」
「そうしよう。私は別動隊を出して挟撃する策を提案する。山が得意な部隊がいるのでしょう?」
「左様。我が国の精鋭部隊であるな!」
ゲルナルド将軍がいい加減会議を進めようと発言してくれたのでそれに乗っかって反対側のベラルジオ将軍が提案する。皆、この下らん会議も戦争も嫌になってきているのだな。
二人の国王はどうか知らんが、ここに派遣されている連合国の将軍たちは俺のように詳しい事情をよく知らされていないまま来ている者が殆どのようだ。
夜襲の提案は断ったのに、挟撃には大賛成。
どうやら逃がしたくない何者かがいるか、何か大切なものがあるか…どちらにしろ碌なものではあるまい。
「ではタラモル国の精鋭部隊は山中に潜み、我らが敵の殿と交戦を始めてしばらくの所で横撃していただくと。こういう流れでよろしいですな?」
「うむうむ。我が国の猛者たちに任せたまえ!」
「期待いたします。それでは解散としましょう」
やれやれ、やっと終わった。
こんな単純な作戦を決めるのに一体どれだけの時間を無為にしたのか。
避難している民には気の毒だが、この馬鹿な戦も明日で終わりにしてしまいたいところだ。
アーク歴1498年 玖の月
エルトリッヒ公国 魔界との領境近く
カイト・リヒタール
今夜も幸いなことに夜襲はなかった。
この状況で夜襲なんてたまったもんじゃないと思うが、襲う方だって山を必死に超えてそれから友軍と軍馬の死体の山見学をした後、疲れがピークの時に夜襲を行うのだ。
まあ無理だってのも分かる。
でもだからと言って昼間に襲ってこないとは言わないだろう。
夕べ、チラッと聞いたけど魔眼を狙ってるってのもあるが、王権がどうこうというのもあるらしい。
第三騎士団長のザッハール殿が言うには玉璽を持ち出しているとかなんとか。
玉璽ってハンコじゃん?
どうでもいいじゃん?と思うけどすごく大事なものなんだと。
ほーん???
とにかく、魔眼と玉璽、それに5000の避難民は彼らにとっては大事な奴隷になる。
しかも若い男女で高く売れる奴隷になるのだ。
大事なハンコや魔眼に奴隷、夜襲しちゃったらゴダゴダで殺しすぎちゃうとかハンコがなくなるとかって理由も夜襲をためらう理由になると。なるほどなあ。
逆に言うと夜ゆっくり寝させて昼間なら疲れてないし、見間違えもないし、奴隷も逃がしにくい。
という事でまず襲ってくることは間違いないと…なるほど。
「クソみたいな奴らだな。全部金じゃねえか。」
「まあ戦争の理由なんてそんなもんですよ」
「…そうだな」
まあそうだ。
俺だってそうだ。
アシュレイを生き返らせる為にはダンジョンの攻略をしなければならない。
久遠の塔80層のソロクリアだ。
その為には実力はもちろんだが、各種耐性装備に状態異常耐性のアクセ、それに当然武器も必要だ。
それには沢山の金が…まあ人の事は言えんな。
国を富ませ、領民を集める。
それだけで済めばいいが、これから戦の季節が来る。
それらを乗り越えれば、カイト(俺)のギフトも十分に使えるレベルになるだろう。
だが、それまでに俺は何人の味方の命を犠牲にすればいいのか。
―――どれだけの敵の命を踏み潰せばいいのだろうか。
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