逃避行 二日目朝
食事も終わり、代表者も解散してそれぞれの寝床に戻った。
おれも王妃と姫の二人に別れを告げてアカとともに自分のテントへ。
俺の分のテントはすでに用意してくれてあった。助かるわ。
外にいた兵に礼を言った後で追加の伝言を頼み、テントの中に入って茶を一服。
すると待ち人が現れた。
「「失礼いたします!」」
「声が大きいですよ。早く中へ」
「「はっ!」」
だから声が大きいっつってんの。
呼んだのは第三騎士団の団長殿とトルネル警護隊長だ。
「さて、これからが本当の作戦会議だ。姫様たちの前ではあんまり突っ込んで言えなかったが、今の行軍速度だと常識的に考えて追い付かれる。そう思わないか?」
「…思います」
「だよな。となると、敵を発見し、食い止めなければならない。俺は明日からも最後尾付近に行くよ。木を切り倒して道を塞いだり、罠も仕掛けていく。罠にかかる奴がいれば誰か来たってすぐわかるからな…」
「はい」
「そこで問題なんだけど、これから追い付いて避難してくる味方はいないだろうか?」
二人は顔を見合わせる。
「いるかもしれませぬ」
「無いとは言い切れません…」
「だよなあ」
そーなんだよね。
そこが一番問題なんだ。
道を思い切り塞ぎまくれば足止めはできるけど、もし味方が来る可能性があるなら…その味方は俺が道を塞いだせいで追撃してくる敵に追い付かれてボコボコにされるだろう。
じゃあ死なない程度の罠を仕掛ければいいかって言えばやっぱりそれで足止めにはなっちゃうからなあ。
まいったな。
「アカが起きれば見に行くのも簡単なんだけどな」
「良く寝ておられますね」
「困ったもんだよ」
寝る子は育つと言うが、大丈夫だろうか?
ハッスルして火を噴きまくったから疲れたんだろうか?飛んだから?
つーか前にも心配になったけど寝ぼけて俺丸焼きにされたり潰されたりしないかな??
「まあいいや。次だけど、この避難民はできれば全員移送したい。そう思うよな?」
「当然です」
ザッハールが当然と言う。トルネルも大きくうなずく。そりゃそうだ。
「で、その中で特に優先するべきは王妃と王女だ。だな?」
「もちろんです!」
「声が大きいよ…」
トルネルが大きな声を出す。
だめだよ、みんな寝るんだから。
「前は魔物が、後ろは追撃があると思う。というわけで中段からやや前に王族のお二人は居てもらおう。騎士団の中心もそこに頼む。周辺警戒しつつ魔物の排除がメインの役割だ。いいな?」
「ハッ」
という事は後方は俺と警備隊だ…避難民と一緒に逃げている警備隊員はおよそ100名。不安しかない。
「つーわけでトルネル、警備隊は俺と後方で訓練しつつ進むぞ。どうせ進行は遅いんだ。」
「はい」
「弓矢をいっぱい作りながら進もう。警備隊は弓は使えるか?」
「あまり得意ではありません」
「まあそうだろうな…飛べば何でもいい。軍団相手の弓は一撃の威力や命中力なんかより面制圧を中心に考えた方が良い。難しく考えなくてもいい、適当に数撃ちゃ当たるんだ。その程度でいいよ」
そもそもが『警備隊』なのだ。
普通に考えて、もしそいつの剣や弓の腕が良ければ騎士団に入るだろう。
って事で腕をあまり期待しない方法でいこうとおもう。
いわゆる曲射で、敵部隊の頭上から雨のように矢を降らせる…ことが出来たらいいなって戦法である。
この戦法は打つタイミングだけ合わせられれば後は大して狙いを付けられなくても良いという利点もある。同時に、敵側に盾を掲げられればそれだけで攻撃がほぼ無効化されるという欠点もあるが…どうせ弓一撃の攻撃力なんて一部の例外を除けばたかが知れているのだ。数で勝負するしかない。
それに、素人に毛が生えたような警備隊員を歩兵として運用するよりは弓隊として運用する方が損耗しにくいしマシだろう。
つーかアカが起きてくれれば、睨みを効かせてくれればそれだけで逃げ切れそうだが…
大魔王領に入ってしまえば追撃は止まるはず。
大魔王様に喧嘩売るなんてことはさすがにしないだろ。しないよね?
とりあえずは明日からのシフトを決めただけで終わった。
ちなみにここまでは速度しか考えずに斥候も何もなしで全員が一丸となって逃げたのだ。
夜寝ている間に弓と矢を作る。
クソだクソだと思っていたが、樹魔法はこういう時に本当に便利だ。
適度にしなる木も矢になる棒も作り放題だ。
弓の本体は木で、弦は麻で作れる。幸いにも布用にと思っていた麻がカバンに入りっぱなしだったのでこれで弦を作ろう。
問題は矢の方にある。
作っているの矢には矢尻と矢羽は無い。だって材料ないんだもん。
うーん、その辺の石でいいかな?羽はどうしようもないなア…
矢羽はまっすぐ飛ばすために必要だし、矢尻はもちろん鉄が良いけどなければ銅でも石でも何でもいい。
要はある程度尖ってて、重ければいい。勿論硬くて重い方が殺傷力が増すので鉄が一番いいが。
要するに、硬くて太くて大きいのが凄くイイ…かも
暗くなり始めてから夜中を通り過ぎ、朝方までひたすら矢を作り続けた。
正しくは『矢』ではなく、矢の棒部分、『箆』と呼ばれる部分だ。
おかげで一晩でカバンに入っている矢の素は何千本になった。いや、万を超えたかもしれん。
まあどっちにしろ今はただの大きいお箸である。
ここから矢羽はともかく矢尻を付けないことには武器にはならない。
ただのまっすぐ飛ばない棒を飛ばすだけだ。
矢尻については道中に尖った石を拾ってヒモで結ぶ、と思ったけどいい感じの石があれば俺の樹魔法で箆の方に石を持たせればいいのだ。でもこれは魔力の消費がおかしな事になりそうだが…まあやらんよりはいいだろ。
「…というわけでとがってそれなりの大きさの石を拾ってほしい。幸い山道だから石くらいいっぱいあるだろ。無かったら適当に割ってくれ。」
朝、警備隊員の前で矢づくりを実演しながら言う。
矢羽は諦めた。鳥を今から捕まえないと羽がないんだもん。
元々矢羽はまっすぐ飛ばすために必要なものなので、狙えないし射程も短い矢が出来上がりそうだが…まあ仕方ない。無いよりマシだ。
木を加工して作った箆部分に魔力を通し、とがった石を咥えさせる。
それだけであっと言う間に矢の出来上がりである。
まあこれ位なら魔力の消費も少ない。
アカを乗せたワゴンはいつの間にやら俺とアカを乗せたまま動き出し、矢を作る作業場になった。
そして警備隊長殿直々に引いてもらっている。いやあすまんね。
警備隊の面々は偵察にあちこち散らばり、帰りに尖った石を持って帰ってくる。そして俺のいるワゴンにホイホイ乗せる。ノルマは一人10個。
するとあっと言う間に1000本の矢が出来た。
まだ移動し始めて1時間ほど。なかなか良いペースである。
「いい感じだな。このままなら今日中に5000本はかたいぞ」
「そうですなあ。矢を作るのは大変な作業のはずなのですが…」
「楽でいいだろ?ただまあ、矢羽がないからまっすぐ飛ばないし飛距離も悪いだろな。道中で鳥を見かけたら落としてくんないかな。食料にもなるし羽が欲しい」
「ハッ」
捕まえられたらラッキー程度でいいだろ。
それにしても行軍はやはり遅い。
本格的に山に入ったという事もあるが、先頭の方はまさに道なき道を切り開きながら進む状況のようだ。
直前に第一騎士団と姫が通った痕跡はあるが、彼らは追い付かれないように偽装しつつ進んだようで同じところを通ろうとしてもそれが難しい。
馬車の轍も所々で解体しての進行だったようで、アテにならない。
というわけで先行する騎士団はかなり苦労している。こういう時こそ冒険者の斥候みたいなのを使えばいいんじゃないかと思うがそういう鼻の利く奴は真っ先に逃げ出してる。
うん、まあそりゃそうだ。
「た、大変です!追手が!」
「来たか。どのくらいだ?」
「何千といます!騎馬もいっぱいいます!」
「そうか…お前らはそのまま前の騎士団に見たことを伝達してくれ。残りのやつはこっちへ。」
偵察隊の一部が帰ってくるなり泣きそうな声で報告してきた。
コイツは俺たちが通ったルートをまっすぐ戻りながら見ていたはず。
他の偵察部隊に聞いてみたけど、まだ見かけてないらしい。
だが、安心してはいけない。
こいつらの監視網はどう考えてもザルだ。
こないだまで町のおまわりさんやってたやつが対軍隊の偵察で100点取れるわけないのだ。
まあ、敵が何千と来ている、という情報を民間人が避難してきているのとは間違えないだろう。
騎馬もいるとなるとなおさらだ。
さあ、戦いの時間だ。




