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逃避行 一日目

逃避行は続く。

恋人と駆け落ち的な逃避行なら悲壮感の中に楽しさもあるだろうが、こちとら他人がいっぱい、後ろには軍隊が押し寄せてくるという条件の逃避行である。

もう悲壮感しかないわ




夕方までひたすら歩いたところで、来る時に一度寄った観測所に先頭が着いたようだ。

ここで休憩してご飯にする流れになるな。

というか朝から出て夕方でやっとここか。

ドラゴンで飛ぶのと、避難民を抱えて歩く速度の違いに戦慄する。


…まあ夜になるし、今日はここまでだろうか?

本来ならもっと進みたかった。

いくら若い人中心とはいえ歩みは非常に遅い。

子供もいれば赤ん坊もいるからなあ。

小学校に行ってないような子は出来るだけワゴンに乗せたり大人が運んだりしているが、道がガタガタでワゴンは使えないところもいっぱいだし、もう体力的にも厳しいだろう。


まあ一日歩きっぱなしで移動できただけ御の字だ。

現代日本人なら1時間歩いただけで泣き言を言いまくるだろうに。

やはり昔の人は健脚なのか。




この観測所のある土地は、魔界から山を越えて侵攻を受けた時に防衛するための拠点にしようと思っていたが何も起こらず終戦、そのまま放置されたと言う由来らしい。

それで、何もないのもアレだから観測所だけ作ったんだと。

たまに山から大型モンスターが下りてきたりするので…まあそこそこ役には立つらしい。


1000年以上そこを維持しているわけだ。

大変だなと思うが兵からすれば偶に草刈りするだけでいいから割と楽なのかもしれない。



最後尾にいた俺は観測所の近くに行くと、昨日会った二人とこの隊の隊長であるザッハール殿が話し合っていた。

暗い顔をしているので何かと思ったが、どうも王都の方には炎が上がっているようだ。


「ちょっと見てきます」


アカを起こして見に行こうと思ったが起きない。

飛んでいければ楽なのに。


仕方ないから物資を置いて飯の用意をお願いし、昨日も登った木から見てみる。

なるほど、確かに城壁の内側から火の手が上がっているのが確認できる。

火の手は…城壁のこちら側、つまり俺たちが脱出した方に重点的に上がっている。


つまり残った者が自ら火をつけたのだ。

脱出した民を逃がすために。


「追撃を防ぐために自分たちで火を放ったようですね。都市内もあちこちから火が上がっていますので…難しいでしょう」

「そうですか…王よ…」

「どうしますか。内緒に出来る話でもありませんよ」

「皆には告げましょう。カイト殿の言うように、隠して隠しきれるものでもありません。それに急いでもらう口実にもなります」

「そうですね…観測所のお二人はどうしますか?一緒に避難しますか?」

「俺は…お願いします」

「そうですね。私もお願いします。」


こうして避難民が二人増えた。

5000人もいたら2人くらい増えても大した問題じゃない。

それより荷物持ちにもなるしいざとなれば戦える男手が増えただけいいとしよう。





目視で確認してみた結果、追撃の心配は今のところはない。

だがあくまで『今のところは』である。


何と言ってもこちらの進むスピードは遅い。

いくら若い人に限ったとはいえ、子供もいれば赤ん坊もいる。

ある程度の年の子はワゴンに入れて押して運んできたが、本当に小さな赤ん坊はそうもいかん。

母親かあるいは父親が抱っこして運び、定期的に乳を飲ませなければならない。

抱っこひもを作ってやるのが精一杯だ。


保育園から小学校の低学年くらいの子供たちも困る。

ワゴンに乗せるには大きく、歩かせるには体力が足りない。

しょうがなく大人が抱いたりおぶったりしながら進むが…まあその分速度は落ちる。


そもそも人数が多いし、徒歩なのだ。ある程度は仕方ないことだがやはり遅い。



夕食の用意を広場で行う。

なにせ5000人もいるのだ。

食料の調達も大変だが、今日の所はお城に残っていたもの、各自の家庭からの持ち込みなどでとりあえずは賄える。


そして用意だが、当然食事の用意も大変である。

大きな鍋に水を入れて具材を適当に放り込んで煮込む。

味は塩だけ…だって味噌も醤油もないからな。

カレー粉でもあれば無敵だが、そんなモンあるわけない。


ただ、魔法のある世界はやはり便利だ。

竈は土魔法で盛り上げ、その辺の木を切って魔法で乾燥させて魔法で火をつければもうバッチリ。

後は鍋に具材と水魔法で水を入れたら放っておくだけでそこそこの煮込み料理が出来るのだ。



煮込む間にみんなで寝床の確保をする。

広場にテントをできるだけ張るが、広場に入りきらない人たちはその辺の空き地に適当に分散して寝てもらうしかない。

幸いにも各自でテントや寝袋のようなものは用意してあるようで…といっても一部を除くと畳1畳のスペースに2人づつくらいのせまーい空間しかないが。




皆が夕飯と寝床の準備をしている間に首脳陣は会議の時間だ。


参加者は王妃と第二王女、それに各隊の隊長と民間人の代表。

総勢15名程で車座になって話をする。


「追撃はして来ると思うか?」

「はい」

「必ずあります」


ザッハール第三騎士団長もトルネル隊長も二人ともが100%追撃はあると言う。


王妃様と第二王女は無ければいいと思うが恐らくあるだろうと。

何でよ?と思うけどこれだけあると言い切るのだから追撃はあると見た方が良いのかな?


「何故追撃が必ずあると思うのですか?このくらいの人数なら見逃してもいいかなと俺なら思うのですが…所属不明のドラゴンのこともありますしね」


足元で寝ているアカを見ながら言う。

コイツは本当に起きない。どうしたんだろ。風邪ひいたか?腹でも痛いのか?


「私がいるから、追撃はある」

「リリー殿が?…なぜでしょう」


第二王女であるリリー姫は金髪に紫の目をしたお姫様だ。

まだ12歳という事もあり、可愛いい娘だなとは思うが…正直なところ軍を使って必死になって追いかけて奴隷にする、あるいは高く売るほど絶世の美女というわけではない。

まだまだ子供だし、将来はかなり期待できると思うが。



「娘の目は魔眼なのです。」

「魔眼ですか…」

「魔眼ですと!?あ、いえ失礼しました」


大きな声を出したのは民間人の商人だ。

このオッサンは荷車に山積みの荷物をいっぱい積んできて、おかげで移動が遅くて程よくいい迷惑なのだ。


そんな民間人たちは魔眼と聞いて少しザワザワとしている。

兵たちの間にも知らなかったものと知っている者がいたようで、驚いたり頷いたりしている者もいる。



ゲームでは『魔眼』と一口に言っても色々いたし、結構いろんなキャラが持っていた。


石化に麻痺、睡眠などの状態異常を引き起こす魔眼もあれば、戦闘意欲を向上させたりあるいは性欲を高めたり、その反対に低下させたりすることもできる。

割と便利だが無くても何ともないし、武将としては魔眼持ちなんかよりもっと優秀なユニットはたくさんいた。だからいなければ困るようなイメージではなかったが…


魔眼はアイテムにもなっていた。気持ち悪い話だが眼球だけでも効果はあるのだ。

装備すると『○○の魔眼 攻撃力+50、回避率+20』って感じである。

もしかすると狙いはこちらなのかもしれない。


「ちなみにどういう魔眼ですか?」

「それは…分かりません。鑑定をお願いしても我が国の鑑定士では難しいとの事でした。」


俺もそういえば鑑定能力あった。全然使ってないけどダメもとで試そう


「ちょっと視てみますよ」

「どうぞ」


リリーさんの瞳を覗き込んでみる。

鑑定を意識した俺の目には『魔眼:詳細不明』と出た。


「私の鑑定では『魔眼:詳細不明』と出ていますね。まあこれは鑑定レベルが低いからでしょうけど。でも、国の鑑定士がよくわからないのに何故それほど求めるのでしょうかね…?それと、直接見つめてみても俺には何の影響もないようですが…皆さんは何か変わったことがありますか?」

「無いのですよ。私も、この子の姉も…勿論王である父親も家臣も、何の影響もないのです。このような魔眼が本当にあるのでしょうか。そしてこの魔眼をそこまで求める意味が分かりません。でも開戦の時もこの子を差し出せば戦争は起こさないと言われましたが…」

「まあそりゃ断りますよね。」

「はい。」

「でも何の魔眼なのかは分からないと…とりあえず魔眼の事は置いておきましょう。どうしても困れば…そうですね、これを」


取り出したのはただの白い布。


「魔眼は直接見ないと効果がないものがほとんどです。何かあったらこれをかけてください。」

「これをですか?ただの布のように見えますが…」

「ただの布ですよ。白いので周囲は少し透けて見えると思います。まあ歩くくらいはできるでしょう。」

「はあ。」

「周囲の人におかしな影響が出た時用ですよ。問題なければそのままでいればいいじゃないですか。」


もし石化や麻痺の魔眼ならもう俺に何らかの影響はあるはず。

そう思うと少し恐ろしいが、今まで普通に過ごして特に周囲に影響はないのだから大丈夫のはず。


「分かりました。お預かりいたします」

「いえいえ、ただの布ですから…いずれもっと良いものを渡せるでしょう。」

「はい、楽しみにしております」

「あんまり期待しないでくださいね。…ああ、ご飯ができたようだ。召し上がりましょう」


そのうちサングラスでも作ろう。

なんて思ってたら食事が出来た

出てきたのは色んな野菜や穀物をぶち込んだ雑炊だ。

まあ思った通りだな。


姫様や王妃様にこんなもん食わせて文句言わないかなと思うけど、二人とも何も言わずに食べている。

それどころか意外においしいって顔だ。

適当に狩ってあった魔獣の肉や骨なんかもぶち込んであるからいいダシも出てるしな。


一部のオッサンたちが微妙な顔をしているが、まあ贅沢言ってられる場合じゃないし。

それにこれならごく小さい子でも食べられるだろう。悪くはないはずだ。


夕食の時間にもいろいろと話した。

一日歩いたが、今のところ怪我人や病人はいない事、季節柄寒くなってきている。

おまけに夜の山なので低体温に気を付けることなど。


山小屋も使わせてもらって、テントも張れるだけ張って…それでも入りきらないので一部野宿になってしまう者もいる。

そいつらは火の周りを優先して使わせること。


それから、夜間も騎士団と警備隊で交代で見回りをすることなどを決めた。

体力的に大丈夫なんだろうか。


「…では我々も早めに休みましょう。寝ないと明日動けませんよ」

「はい。ありがとうございます、カイト様」

「いえ。ではサンスエール様、リリー様、失礼します。」


さて、こっちはもう一働きだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔眼の「装備」ってホルマリン浸けにしたビンを持つ程度かな 自分の眼球と入れ替える、とかだと
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