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謁見


お城の建物に入り、ロビーっぽいところから階段を上ってドアをくぐったところで待たされる。

そこらの会社の会議室くらいあるんじゃないかってスペースの…ここは待合室みたいな感じなのかな?それとも応接室なのかな?ちょっとわからん。


まあこういうので待たされるのは定番だ。

大魔王様のお城でもちょびっと待たされたしね。


大魔王様のお城は質実剛健という感じで…まあ華美だとか、豪華だとか、そういう感じじゃなかった。

このエルトリッヒのお城は大魔王城に比べりゃだいぶマシだろうけど、どう見てもそこまで金掛けて飾ろうとはしてないっぽい。まあ逆にそこが好感を持てるとも言える。


その中でも装飾品としてとして多く飾ってあるのは絵だ。

風景画に女性の絵、なんとなくアリシャ姫に似ているからこれは何代か前の姫とかだろうか?

風景画の方は何となく懐かしい雰囲気の…ああ、これ田んぼか。

そりゃ懐かしい感じするわ。


でもまあ全体に、それほど飾り気がないというのは良い。

金がないだけかもしれんが、俺だって良く分かんねえ壺とか花瓶とか絵とか?見せられても困るもん。

日本にいた時に鑑定する番組が好きでよく見てたが、さっぱり分からん。

茶碗はまだなーんとなく分かるような気がするけど特に絵と書はダメだ。


落書きじゃんwwwと思ったら安い。

でもその次のやつがこれも落書きじゃんwwwと思ったらクソ高い。どうしろと。


「はらへった」

「ん、わかった。」


ボンヤリと絵を見ていたらアカが催促する。

まずい魔猿は品切れだから、まだ食える魔狼を出す。

こっちは毛皮に利用価値があるから毛皮を剥いで、肉はそこそこ食べられるけどアカにあげるのだ。

俺はあんまり個人的に好きじゃない味なんだよね。全体に肉の味は濃いけど筋張ってるし…大体がアカのためにわざわざ血抜きしてないヤツだ。血生臭くってどうにも。


「もぐもぐ」

「…うまいか?」

「うまいー!」


その血生臭い肉をアカはいっぱい食べる。

可愛い生き物がいっぱい食べるところはとても可愛いものだ。

ついナデナデしてしまう。たとえ口周りを血で真っ赤にしていても。


食事について気になることはある。

トカゲやヘビみたいな爬虫類はエサを丸呑みするイメージだが、アカは割とちぎって食う。

カメはどうだったっけ?


昔飼ってたカメは米粒より小さいような丸いエサをぱくっと一口で食べていた。

大きい食べ物なら噛んで食うのだろうか?うーむ。


アカは犬や猫の食べ方に近い。

手で押さえつけて噛み千切り、ほとんど噛まずに食べているのだ。

ガブッ!ブチッ!ゴクン!って感じ。

骨もバリバリーっと元気に食べる。うん、犬だな。


食べる量は柴犬サイズの体の、その倍くらいの体積は最低でも食べるが…まあそのくらいで済むだけマシか。明らかに自分の胃袋よりはたくさん食べているわけだが、その辺の仕組みを聞いてみてもコイツがまともな答えを返せるとは思わない。


「お腹いっぱいになったか?」

「まだはいるぞ」

「そうか…ああ、でももう時間切れだな」


お皿代わりの板を袋に片付ける。

そしてほぼ同時に部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します!謁見の準備が整いましたので、お呼びに参りました!」

「はいよっと。アカいくぞー」

「おー!」


アカの口周りをぬぐって立ち上がる。

呼びに来たのはさっきの隊長さんだ。


それほど立場的には偉い人じゃなくて、王都の衛兵隊の隊長らしい。

つまりは王都署の警察署長!…かな?まあ大体そんなものだ。


十分偉いじゃんと思うが、俺は今国賓と同じようなものだ。それよりもっと上の警視総監が来てもいいはずなのだけれど、知らない顔より知ってる顔の方が良いだろうって事らしい。

ってな事を歩きながら聞いた。

ホントは歩きながら話をするのはあんまりよくないらしいが知ったこっちゃないのだ。


「失礼します!カイト・リヒタール卿をお連れしました!」


通されたのはいわゆる謁見の間だ。

でもそれほど大きな部屋ではないし、王様の椅子も階段いっぱい登らないとダメって程でもない。

ほんの一段上くらいの可愛い段差があるだけだ。この辺も変に取り繕ってなくて好感触だ。


「うむ。ようこそリヒタール伯爵。私がエルトリッヒの王、アゴニア・エルトリッヒです。この度は救援誠にありがとうございました。」

「大魔王様麾下のカイト・リヒタール伯爵です。アリシャ・エルトリッヒ姫の救援要請を受け、急ぎ参りました。ここにいるのは我がペッ…騎龍のアカです」

「あかだぞー!」


アリシャ姫からの救援要請を受け…って所で周囲がどよめく。

挨拶は立って行う。

他国の、それも人族の王に魔族の貴族である俺が膝をついたりはしない。

…って事でいいと思う。マークスが突貫で教えてくれた礼儀作法だとこれで合ってるはず。

マークス曰くホンの200年ほど前の知識らしいから合ってるかどうかわからんが。


「おお、姫…ご無事で!」「さすが姫様と騎士団長殿!」「うおおお!姫様あああ!」


誰も問題視してない。

OKだ。


姫で盛り上がっているが、彼女と騎士団長はいつの間にやらくっ付いてしまったわけだが。

山越えしてるうちに生まれるロマンス的な?いや、それよりもっと前からか?

まあしょうがないよね。


それにしても、アカが大暴れして誤射しまくったのは大した問題になってないみたいで助かったわ。

ぶっちゃけると、狙いもクソもなかったから今居るこの城が燃えててここの人たち全員消し炭になってても全くおかしくなかったからな。さすがにそれは言わないけど。


「アリシャ姫とシュゲイム殿、他50名ほどは元気ですよ。救援要請を受け、大魔王様に相談してそして私が先行偵察に来ました。正直間に合わないかと思っていましたが…」

「あと1日遅かったらどうか、というところでしょうな…ところでこれからの事ですが」

「はい、ご存知のように『盟約』により我々は人族同士の戦いに積極的に介入することはできません。」

「しかし、先ほどは大暴れしていたようですが…?」


王様の隣のおじさんが宰相ですと名乗ってから発言する。

うーん、俺もこんなに大暴れする気はなかったんだけどな。


「今回のはその、なんというか不可抗力でして。このアカはまだまだ子供のドラゴンです。鞍も手綱もまだ着けられません。それが空中で大暴れして、鬣にしがみついたらさらに大暴れして…それが先ほどの火球です。」

「なんと…」


そもそも『盟約』とは、大魔王様が即位した際に各国の王やその当時の勇者たちと結んだものだ。

簡単に言うと。当時の情勢として、人族と魔族の泥沼の戦争により双方の人口は激減した。

開戦前の1/10以下になったそうだ。


このままでは種の存続すら危ういと見た大魔王様が主導して、まずは停戦し対話を呼びかけた。

これに応じた各国代表との話し合いで双方の神の前で停戦の誓いを行った。

そして、『大魔王様の存命中は』人魔間での戦争は無くなったのだ。


『人魔間での』というところがミソであり、人間同士は何でもやりたい放題。勿論魔族同士でもだ。

あと細かいところでは盗賊やテロみたいなのはぼちぼちある。

そこまで細かくはどうしようもない。

盗賊はいちいち魔族の行商か人族の行商かなんて見ないで襲うしな…


というわけで、俺たちはまともに手伝う事はできない。

流れ弾を装ってついドカンとやる程度にはセーフっぽいんだけど。


「コイツと私は戦力としては考えないようにして下さい。盟約もありますが、それ以前に我々は戦闘力としては皆さんが期待されるほどではありません。アカもまだまだ子供、並のドラゴンよりはかなり戦力は低いでしょう。そもそもが偵察だけのつもりでした。」

「うむむ…そうですか、分かりました。」


やや苦い表情の宰相殿。

過去の『盟約』によって人と魔族は大っぴらに戦争はできない。

今回の俺とアカが大暴れしたことだって、「野良ドラゴンが戦場に紛れ込んで暴れた。」って体にしないとまずいのだ。上手く誤魔化さないと大魔王様に叱られちゃう。

大魔王様に怒られるくらいならマシだが、神様に怒られると塩の柱になったり体がだんだん崩れたり。軽くても1年くらい昏睡状態になったりした例があるらしい。神様怖い。


「では。魔族の土地へ向けて脱出する者達の援助をしていただく、と言うのはどうかな?」

「…それは問題ないと思います。避難民を助けるということであれば、『盟約』に何も反してはおりません」


反していない。

『盟約』とは、人族と魔族が大っぴらに戦争することを禁止しているのであって、助け合いはむしろ推奨している。

まあ今回みたいなケースは避難した後で住むところが必要になってまた揉めたりするのだが…大丈夫!ヴェルケーロ地方はいま絶賛住民募集中だ!10人でも100人でもドンと来いなのだ!


「脱出するのは何名くらいになりますか?」

「そうさな、およそ3000名程になろうか」

「…はい。3000…」


ドンと来いとは言ったが、想定していた数の30倍だとは思っていなかった。

3000を超える人間に山を越えさせ、旅をさせるのだ。ドラゴンで飛んだら半日くらいの距離だったが、山越えをするとなると…うーん。


「難しいとは思うが何卒お願いしたい。なに、民間人ばかりではない。騎士や兵も若い者は逃がすつもりだ。酷いようだが年寄りは置いて行ってもらう。次代を担う若者たちに滅びに付き合わせるつもりはない」

「…はい」

「あちらでの暮らしについては領主殿に従うように厳命しよう。」

「こんな子供では従いづらいかと思いますがね」

「おお、何とカイト殿が領主か。これもまた縁であるな。…今日はドラゴンの件もあるからこのままだと思うが、明日にも総攻撃は再開されると予想されておる。そこで、退避する者は今晩中か明日の早朝に裏門から出てもらおう。カイト殿、どうか我らが子らを、民をよろしくお願い申し上げる」

「はい…微力を尽くします」


王は頭を下げて俺にお願いする。

勿論近くにいた爺さんたちもだ。


命に代えても守るとは言えないが、これから死ぬって人のお願いを断れるほど俺も鬼じゃない。


このあと、別室に移動して俺自身の事や領地の事、それからエルトリッヒ公国の事情についてを色々と話した。アリシャ姫と騎士団長の関係についてはみんな知ってたみたいで別に問題ないんだと。

というか援軍は来ないだろうし、来ても間に合わないと思ってたみたい。

やっぱりあの二人が無事生き延びて添い遂げられればそれでもいいし、道半ばで一緒に死ぬならそれもそれで良いかという所だったようで…まあその辺は何とも言えないな。


それにしても。アカに乗って飛べば一人で帰るくらいどうにでもなるだろうとは思うが、3000からの避難民を連れて山越えをするとなると…はぁ。





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