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優雅な空の旅

『ちょっとそのドラゴンに乗って大魔王様の所連れてってよ!』(意訳 とお願いされた。

俺はそりゃ無理だろとは思うが、強く頼まれてしまうとまあ流される。

NOと言えない日本人魂は異世界に行っても染みついているのだ。

まあ俺の場合は『いいえ』を何回選んでもNPCにゴリ押されて結局『はい』を選ばされるドラクエ魂かもしれないが。



ドラゴンに乗って空を飛ぶ。いいじゃないの。ロマンの塊やな。

だが、ちょっと待ってほしい。

ウチのアカは柴犬サイズなのだ。


ちょっと乗るだけならまだしも、何百キロも犬に乗って飛ぶとか無理じゃねえの?


…まあ何事も実験あるのみかなとは思う。

諦めたらそこで試合終了なのだ。俺は諦めたいところだが。


アカと一緒に外に出て、とりあえず俺が乗ってみる。

他のやつを乗せたくないんだと。

俺と一緒ならいいかというとそれはセーフと。我儘な奴だなあ。可愛い奴め。


念のために屋敷にあった一番デカい傘を樹魔法で補強。

これを使えばパラシュート代わりになって自由落下よりはマシになる。と思いたい。


あくまで『マシ』程度だ…高度によっては死ぬかもしれん。

よし、落ちてもいいように溜め池の方に行こう。



溜め池はみんなで頑張って掘った。

魔法と人力との共同作業である。

ぶっちゃけて言うとそこそこの土属性魔法使い一人が一日当たりに掘る穴より、オーガ農民のタロさんが一日に掘る穴の方が大きい。まあそんなもんだね。


土魔法は戦っている最中に窪みを作って足をひっかけたり、つるつるにして滑らせたり。

土壁を作って攻撃を防いだり、岩盤を柔らかくしたり、逆に土で出来た壁を硬くしたりと土の性質を変化させる事に向いている。

でもただただ大きな穴を掘ってそこに水をためるような作業にはあんまり向いていない。


今回掘った溜め池は直径100mくらいある円形の池だ。

土の質量と体積があまりに膨大で、掘ることも大変だがそれを移動させるのに魔力を大量に消費するらしい。

こういうのには魔法は向いてないんだなって事が良く分かった。


だから途中からは土魔術師は岩を柔らかくすることだけやらせた。そうしたらオーガや巨人族の皆さんが特注のでかいスコップにでかいネコ車をつかってホイホイ土を運んでくれるのだ。


残る問題はごろごろ転がる大きな岩や木の根だ。

もともと水を引きやすそうというだけで適当に選んだ土地である。

大きな岩も木もどっさりだ。


木の根は俺が運び、岩は土魔術師の皆さんが分担して砕いたり柔らかくしたり。後は人数で頑張る。

このルーティーンを掴んでからは作業スピードが倍以上になった。

そして出来た溜め池は深さも5mくらいあり…お子様は絶対に近寄ってはいけない超危険ゾーンになったがまたこれは別の話だ。柵で囲って水面にロープを浮かべてあるが…だいじょうぶか?


とまあ、話がそれたが大きくって深い素晴らしい溜め池が出来た。この水を使って稲作を頑張ろう。

種籾?そりゃあこれから探すんだ。





―――などと現実逃避をしていたが俺は既に空中にいる。



まだ地上20mくらいのところだろうか?会社の4階から見た景色と同じくらいかな?

俺の背には大きな傘を縛り付けてある。

これを作動せずに済むようにと祈るのみだ。


「カイト!たのしいか!」

「お、おう。ちょっと怖いけど大丈夫だ。アカはどうだ?もう一人くらい乗せても大丈夫か?」

「おれはなんともないぞ!おれもっともてるぞ!ちからもちだろ?」

「おう、スゲーな」


もっと持てるとは言うが、スペース的な問題でもうヒトは乗れそうにない。

密着すればいけるのか?うーん?


大魔王様に謁見する。ならば連れて行くのは姫か騎士団長のどっちかだな。

ほぼ初対面の姫と二人で密着して空の旅は色々と嬉しいけどメンタル的にはきつい。

ここはイケメンと二人で『ウホッ!いい空!…やってみな?トぶぜ?』の旅にするべきだろう。


うんうん、姫と二人になったってパニックになられても困るし、もし落ちたりしたらシャレにならん。

ほら見ろ。何だか寒くなってきたし下を見れば、なんという事でしょう。

あんなに大きかった溜め池もすっかり小さく…小さく??


「ってどんだけ上昇しとるんじゃ!」


気が付いたらこっちを見上げていた人はアリより小さいし、領主館はどこだか見分けがつかないし、幅100mあるはずの溜め池が言われてみればあれか、程度にしかわからない。

高度上げすぎだろ!馬鹿!


「うおおおい!もう良いぞ!下げてくれ!早く」

「はやくさげる…?わかた!」


何を思ったかひっくり返って俺を振り下ろすアカ。

手綱や鞍なんてないからそのまま空中に放り出され…


「ぎえええええ!」

「ばはは!カイトたのしそう!」

「ひええええ!死ぬううう」


みるみる近寄る地面。大きくなる溜池。

そしてもの凄い風圧。


お、落ち着け!こんな時は!

体を大きく大の字に広げる。これで落下速度が下がる。はず。


ビュゴゴゴゴ!!!

ものすごい音が耳にブチ撒けられる。


一緒に降下していたアカがあっと言う間に俺よりはるかに下に移動した。

よし、出来た。次は傘を…クソ!取れない!誰だ背中に括りつけるなんて考えたアホは!


もたもたしながら背から取り外し、強く握りしめる。

大丈夫かこれ?ええい!ままよ!


背中の傘を取り出して開く。

ばさっ!と一気に開く傘。持っていかれる手。ひっくり返る傘。

ぎゅっと握ろうとするも、圧に耐えかねて命綱の傘をあっさりと離してしまう俺の馬鹿な手。


そして無慈悲に上空へと舞い上がる傘。


「…ぎゃあああああ!」

「かいと!たのしいか!たのしいな!」

「楽しくない!乗せろ!死ぬ!たすけてええ!」


情けない悲鳴を発し、隣に来たアカに必死になってしがみつく。

気が付けば地面はすぐそこまで来ていた。

地上スレスレで一度ぎゅんと上空へ舞い上がり、その後はゆっくりと降ろしてもらった。


「しょうがないなあ、カイトは。おれがいないととべないのか」

「ふえ。たすかった…」


ふええ…もう二度と乗りたくないナリ…



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