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アーク歴1498年 捌の月 


アークトゥルス城




俺はアークトゥルス女王に謁見を願い、城に来ていた。

懐かしい城だ。

アシュレイと一緒に遊びまわっていた時を思い出す。


「こちらでお待ちを」

「おう」


よく知った顔の兵に連れられ、よく知った顔のメイドに謁見の間の2部屋隣にある第2応接室に案内される。今日のお供はマリアとマークスだ。


「カイト様、お茶をお持ちしました」

「置いといて。ありがとね」

「いえ。女王様は次の者の謁見が終わればこちらに来られるとの事です」

「はい…あ、これお土産。みんなで食べてね」

「ありがとうございます。…このやり取りも久しぶりですね」

「…そうだね」


3人分の茶と茶菓子が置かれ、代わりにこちらは領で取れた野菜と果物を袋ごと渡す。

メイドは両手に大荷物を抱えて出ていく。

こういうのは以前はこちらに来るたびにしていた事だ。

随分と久しぶりになってしまったか…。


思えばこの城に来たのはアシュレイが死んだ時以来だ。

もう何年も来ていないような気がするが、よく考えればまだ1年も経っていないのか。


窓からの景色は何も変わっていなようだ。

全てが懐かしく、すべてが色褪せて見える。


「お待たせ。お久しぶりね、カイトくん」

「お久しぶりです。伯母上」


扉が開き、伯母さんが入って来た。

ボンヤリと外を見ていたのですっかり油断してしまった。


「…泣いていたの?」

「ん?泣いてませんよ?」


泣いてなんかない。

涙なんて出ていない、はずだ。


「…そうね。よく来たわね。今日はどうしたの?」

「落ち着いて聞いてください。伯父上と親父を殺した首謀者に目星がつきました。まだ物証はありませんが」

「何ですって!誰よ!?」


伯母さんはいつものすまし顔をどこへ放り出したのか。

親父が見たら冒険者時代を思い出すとか言い出しそうな表情だ。



「ちょっと落ち着いて。声を小さくしてください」

「…ごめんなさい。で、誰かしら?」

「これはまだ疑いの段階です。ハッキリとした確証はありませんので…」

「それでも良いわ。早く!」

「右大臣ゲラルドです」


ズバッと名前を言う。

右大臣ゲラルドはこのアークトゥルスでも一、二を争う実力者だ。

その彼が犯人として名前を挙げられた。

自然と慎重になる伯母上は一段声を低くして俺に続きを促す。


「…ほう。それで?」

「こちらを。」


マリアはカバンから書類と小瓶を3個取り出す。

書類には事件直後からの彼の動きと、周囲の金の流れ、人の流れと…何より毒見係の流れが書いてあった。


毒見係のレンゾとアンラの二人は毒見をきちんとしていなかったのではないかと責められてクビになった。と公式的にはなっている。

だが、彼らを責めたのは右大臣。

にもかかわらずクビになった後の就職先は右大臣の配下の街の重要ポストだったのだ。


この辺りを調べたのはカラッゾたちの意地もあったらしい。

親父は死火たちとロクにかかわりを持たなかったらしいが、お袋は死の間際にかなり大量の資産を彼らに譲渡したようだ。

そして将来的に俺に仕えるようにとの遺言があったらしい。そんなん先に言えと思うが。

まあその流れで一連の事件は誰に指示されるまでも無く調べていたと。


「この辺りは俺もよく覚えていませんが、伯母上も大変だった時期でしょう。その隙をついて実行犯と疑わしい者たちも異動になっています。」


幾人かのメイド、料理人に警備担当。

彼らも右大臣ゲラルドと関係のある部署に異動している。

しかも給料アップの…いわゆる出世である。


「尤も、全員がこの件に絡んでいるかは不明です。恐らく実行犯は数名で、他の者は犯人の隠れ蓑のように使われた形になるかと。」


伯母上は一言も発さず、書類を睨んでいた。


怖い。

気というかオーラというか…魔力とはまた違った何かが伯母上から立ち上っているような、そんな感じがする。


「これを調べたのは誰か」

「伯母上、死火衆をご存知か。母が私のために残してくれた…いわゆる密偵のようなものです」

「名前は聞いたことがありますが…そうか。アンスリーネが…」


アンスリーネってのは俺の母ちゃんの名前だ。

名前と美人な肖像画だけは知っている。

俺はなーんにも覚えてないんだけど。

何であんな儚げな美人がムキムキマッチョのゴリラ親父とくっついたのか俺には理解できんわ。

ああ、俺は親父に似なくてよかったぜ。


「カラッゾ、ご挨拶を」

「ハッ、カラッゾと申します。カイト様にお仕えしている死火衆の頭領でございます」

「…アークトゥルス女王である。よろしく頼む」

「ハッ」


紹介も終わったので続きをしよう。


「…という訳で、物証もあります。」


そう言って小瓶を開ける。

3個あった小瓶の中身は赤のマラッツオ、青のリノリナ、黄のヴェロリネという3種の薬である。

それぞれ普通に使う分には特に何の問題も無い。


「伯母上はご存知かもしれませんが…ここにある赤のマラッツオは心臓の薬に、青のリノリナは主に洗剤に、黄のヴェロリネは香辛料として使われていますが。それらを組み合わせることで『黒のバダンリ』という名の…致死性の毒になります」

「黒のバダンリ…?」

「人間界の方で最近開発された毒薬のようです。…僕の推理ではワインに赤、風呂で青、風呂上がりの食事に黄色が盛られたと考えています。効果が気になるならネズミか何かで試してみればよいでしょう。」


毒を盛るタイミングはそこじゃないかも知れん。

でもまあ、似たようなものだろう。


「一応聞きますが、これはどこから?」

「もちろんこれらは右大臣ゲラルドの屋敷から盗んできたものです。またそのうち返しますが」

「返さなくて結構。これはこちらで預かります。それでは私は準備がありますので。この書類は頂いても?」

「勿論です。それと、カラッゾはしばらく伯母上に付けます。ご自由にお使いください」

「ありがとう。これで夫の仇が取れますわ。カラッゾ殿、よろしくお願いいたしますね」

「ハッ。我ら死火衆、事件解決に向け全力で尽くします」

「ではこれで。吉報をお待ちしています」


出来れば自分の手で八つ裂きにしたかった。

そういう気持ちはあるが、それは伯母上も同じだろう。


いや、夫と娘を失ったのだ。

俺よりも悲しみは、怒りは深いだろう。


「マリア、伯母上がやろうとしている事、感づかれる前に怪しい者たちは拘束しておきたい」

「ハッ。死火衆を張り付かせます」

「頼む…人は足りているのか?」

「ギリギリですね」



人員を急に増やすって訳にもいかんしな。

ロッソみたいな脳筋を張り付けるわけにもいかんし。難しい所だ。


「頑張って後進を育ててくれ」

「なかなか急には」

「まあそうだろうなあ」


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