そうだ、お風呂を作ろう
アーク歴1498年 捌の月
ヴェルケーロ領 リヒタール邸
「ドロドロだ。水浴びしてくるわ」
調査結果の方は気になるが、早々簡単に分かる物ではない。
気晴らしにという訳ではないが、いつもより激しい目に農作業をして、昼飯食って土木工事をして。
帰ってきて気が付いたら、土にまみれて全身ドロドロだ。
うーん、風呂に入りたいなあ。
「なあ、風呂場を作らないか?今はまだ良いが冬場に水浴びは嫌だぞ」
「ふむ、良きお考えかと」
こうしてあっさりと大浴場の建設計画はスタートした。
夏場の作業終わりは水浴びで全く問題ないが冬はな…こっちに来たすぐは辛かった。
俺達は冬も終わりという時期にこちらに到着したが、風呂はおろか碌な暖房設備も無くて驚いたものだ。住人は隙間だらけの家で寄せ集めた薪で、ペラペラの布団で寝ていたらしい。
そりゃ子供も老人も死んでしまう。慌てて家を直し、薪を追加で調達した。布団も上げたいけど無いものは無い。毛皮を渡すだけが精一杯だったがそれでも住人は喜んでくれたものだ。
相談の結果、風呂場の予定地は領主館のすぐ近く、徒歩1分くらいのところになった。
だがちょっと待ってほしい。
俺は領主館の中にでも個人で入る用の小さなお風呂も欲しかったんだ。
そりゃ出来れば足を延ばせる程度の広さは欲しかったが…
「では、カイト様お一人で入られるのですね?領民は寒いのを我慢しろと」
「そうは言ってない」
このやり取りだけで大浴場の設置が決まった。
足を延ばせる程度の湯、と言っても俺と巨人族の人たちとではずいぶん違う。
ロッソは身長が3mくらいあるが、俺と同じ湯船に入るとどうなるか。
俺が座って肩まで漬かるくらいのお湯の量ならロッソは座ってもお腹くらいまでだろうか。
良い半身浴だね。
君は右から入るの?それとも左から?ってなっちまう。
左右はギリセーフだが、上半身浴だけは避けた方が良いと思う。
沈んだ頭に剥き出しの下半身。
変態にも程がある。
そんな訳で普通サイズと小人族、子供用の湯舟と大きな種族用の湯舟が作られた。
風呂の中には段もあり、一応一緒に入る事も出来る。
こんなお湯は総ヒノキ (っぽい木)造りである。
温泉を掘り当てるのは大変だろうと思ったが、幸いにも近くに火山もあることで水魔術師がダウジングして無事掘り当てることが出来た。
これ水魔術師関係ある?ってマークスに聞いたけど、試しにやってみては?って渡されたダウジング棒は俺じゃ何の反応もなかった。チクショウ。
でまあ、完成したのがこれだ。
石材を積み上げ、円柱石で作られた巨大な柱がある。
それはまるで古代ギリシャの神殿の様な外観。
12個これがあったら是非登らざるを得ない。
風呂になんか入ってる場合じゃねえ。
外にはついでとばかりに作られた時計台。
残念ながら火時計ではない。
普通の時計に鐘が付いているものだ。これから街の暦を知らせる大事なものになるだろう。
さて、その古代ギリシャを思わせる風呂に早速入る。
「おお!でけえ!」
巨人サイズの風呂は本当にでかいの一言に尽きる。
試しにざぶんと入ってみたら最深部の深さは俺の頭の先まである。
でも巨人族のロッソやトロル種のベロザには丁度良さそう。
「がぼぼぼ」
「坊ちゃん危ないです!」
俺はロッソの膝に座ってもまだ鼻に湯が入り、階段に座っても顎まで湯が来たので諦めて普通サイズの所へ。
「あっちはやっぱり無理だったわ」
「でしょうな。まあ坊ちゃんこちらへどうぞ」
マークスは気持ちよさそうに入っている。やっぱりジジイだからね。
年寄りが温泉大好きなのはしょうがないね。
「ぶへえええ」
「坊ちゃん…お父上のような声でございますなあ」
「マジかよ」
親父と同じとは、控えめに言って割と最悪である。
マークスは嬉しそうにしているが、俺は全く嬉しくない。
それはそうと、普通サイズの湯舟もやっぱり大きい。
こっちは正座してギリギリ鼻が浸かる。ダメだ。
段の所に座って丁度良し。仕方ない。
じゃあ、という事で小人族向けの所へ。
ゴブリンやドワーフ、後は他種族の子供向けの所だ。うむ、丁度いい。くそう。
「あら坊ちゃま、こんな所に。お背中お流しいたしますわ」
「マ、マリア!?なんで??」
「何故と申されましても。坊ちゃまのマリアですから。お背中をお流しした後は前の方も。そのまま別館の方でゆっくり致しましょう?」
「んま、ちょま!?待って……ムリー!」
体を使って体を洗う。
そんなマリアの荒業に耐えられるはずもなく。
まあ、耐えられなかったから逃げ出した。
ちゃんと男女別々にしないとな。
とってもイケない風呂屋になってしまう。
まあ別の意味ですごくイケる風呂屋になってしまうんだけど。