情報交換
アーク歴1498年 陸の月
ヴェルケーロ領
行商は綿花の種を置いてった。
その行商とは当然マリア達の同輩で、ウロンという男だ。
パッと見は何の種族なのかわからないが、戦うと結構強い。
一度手合わせしてもらったが俺じゃ話にならんかった。
ちなみにマリアにはボコボコに負けた。ちくしょう。
そして傷をいやし、汗を流して室内でマリアと打ち合わせ中だ。
「……以上が大魔王様から伺った内容だ」
「ハッ」
「そしてこれがそのリストの写しだ。つまりこのメンバーは今回の企みに関与していないことになる。写しはもう一枚あるからカラッゾに渡してくれ。これだ」
「預かりまする」
マリアには勿論事前に見せてある。
カラッゾに渡す方の写しはただ名前を書いてあるだけなので、もし紛失してもパッと見何のことやらわからないだろう。
偉い人と同じ名前がいっぱい並んでいるという程度である。
こちらに保管してあるリストには謁見した順番も日時も記してある。
まあこいつらが対象から外れるなら日時などどうでもよいことではある。
それにしてもさすがに大魔王様と面会しているのは錚々たるメンバーである。
大魔王領の公爵や2人の魔王、それに人間界にあるいくつかの国の国王や外相などなど。
ああ、エルフの国の王もいるな。俺とアシュレイの爺ちゃんになるはずだ…まあ会った事はないけど。
「…凄いメンバーですな。しかし、逆にこれを全員容疑者から外すとなると…」
「だろう?俺もこの辺りが怪しいと思っていた」
魔界にある3つの自治区、そのうちの一つはアークトゥルスだが、あと二つはガクルックスとベラトリクス。
俺はこの二つの魔王領を治める魔王、そのどちらかが怪しいと思っていた。
それか若しくは公爵クラス。でもそうじゃないんだな…
「じゃあ誰なんだろうな?」
「頭領も言っていましたが、魔族が計画したにしては痕跡が少なすぎるかと」
「なるほど…」
魔族は何をやらしても大雑把でパワフルだ。
それが上手く型にはまるときもある。畑を耕す時なんか魔族のジジババでもそんなに掘らなくてもいいってくらい深くまで耕してくれるしスピードも速いし持久力もすごい。
鍬も鉄製の頭に樫の柄で作っているが、生半可な木じゃすぐにブチ折ってしまう。
そこのブチ折る所が問題で、これ以上やると折れるな~って所の力加減が出来ないのだ。
そんな奴らが上手く痕跡を隠して魔王を毒殺なんてできるだろうか??うーむ。
「やはり人族の、何というかスパイのようなのがいるのだろうな」
「スパイ?とは?」
「…乱波とか素破とかって表現でどう?」
「ああ、それは分かり申す」
うんうん、と頷くウロンとマリア。
スパイが分からないのに乱波素破が分かるのか。
「まあ、カラッゾに連絡を頼む。それと一度奴もこちらに来てほしい。町を見ておいてほしいからな」
「父なら時々来ておりますよ?若にも偶にあっております」
「…うそだろ?」
「前回行商に来た私は頭領でしたな。今回は私、ウロン本人ですがね」
「…」
絶句というのはこういう事を言うのだと分かった。
ウロンが何を言っているのか頭に入って来たし、言っている意味も分かる。
だが、まるで信じられることではない。
なのにマリアは俺の戸惑いの視線を受けても、ウロンの言葉を肯定するように頷くし。
「ええ…?」
「…ですので、『敵』にも似たようなことが出来る者がいると考えた方が良いと思います」
「そう…それって大魔王様も騙せるかな?」
一瞬、虚を突かれたような反応をする二人。
だが、じっくりと考えた後で出た言葉は否だった。
「おそらく、不可能でしょう。考えが見える大魔王様に対して、姿を変える意味はありません。それなら心を読ませない魔道具の方が現実味があります。ですが大魔王様の前でわざわざそんな魔道具を使うのは疑ってくださいと言っているようなものですよ?」
「ですな。疑ったからと言って無暗に殺したりはしないでしょうが、おかしかった場合は大魔王様がこちらにその旨を伝達していただけるのではないでしょうか」
「そうだな。そう言われればそうだ。こいつ等はシロで、こいつ等はグレーだ。って教え方してくれると思う。たぶん。」
大魔王様とて配下の一人の魔王を殺されたわけで。
それに対して何も思っていないなら、わざわざ俺の裁判なんて干渉しないだろう。
「ふーむ…まあ、今夜はこれでお開きかな。また情報収集を頼む」
「ハッ!」
「ハハッ!」
翌日、ウロンは沢山の魔物の素材を荷馬車に積んで帰っていった。
ウチの領にはまだそのくらいしか採れるモノが無いのだ。
木は重いし、野菜は重い割に腐るし、酒はまだ出来てないし、衣類もまだまだ時間がかかる。
あー、手っ取り早く金になる物ないかなあ。