表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/391

魔王の証

アーク歴1498年 壱の月


リヒタール領 領主館




「…さま、カイト様」

「んあ?ふえ?」

「もし…起きてください…」


目を開けるが何も見えない。

なんじゃい、まだ夜中やんけ!


日本だとよほどの田舎じゃなければ夜でも外は街頭で明るいが、こっちの世界は考えられないほど夜が暗い。暗いというより闇が濃いといった風情で…月の出てない夜は真っ暗になる。

幸いにも今日は大月と小月の2つとも出ていてそこそこ明るい日だ。


「…うーん?まだ夜だぞ?」

「カイト様、我ら身命を賭して魔王様にお仕えする所存であります」

「魔王様…?アシュレイは死んじまったぞ…」


ボンヤリとした頭のままベッドの上に身を起こす。

ああ、そう言えばアシュレイは死んでしまったのだ。

なんと言うか…最初は『こいつにコバンザメしよーっと』なんて思っていたが、あいつは本当にいい奴だった。おかげで自然と俺も惹かれていったのだ。

あいつとなら一緒に暮らすことも共に天下を目指すことも楽しかっただろうに…


「はあ…何で死んでしもうたんや…」

「カイト様…お労しや…」


そっと差し出してくれるハンカチで目から出る汗をぬぐう。

あれ、このハンカチの匂いって…



「んん?マリア??」

「はい。先ほどぶりですね、若様」

「若はやめろって…つーかそうか。ふむふむ」


マリアは俺の生まれた時からそばにいるメイドで、ある意味育ての母のようなものだ。

そしてマリアの後ろには人の気配がある。


昼の事を思い出す。


俺は酒場に言ってここリヒタールに昔から居る忍びの者たちに繋ぎをとったのだ。

甲賀とか伊賀とか風魔とか?戸隠とか黒脛巾組…はまたちょっと違うか。

まあそういう奴らの所謂忍び宿の一つに真正面から乗り込んだわけだ。


「若様が自ら『酒場』を尋ねられたと聞いた時は驚きました」

「うん。まあな。ところで親父はマリアがそっちの人間だと知って雇っていたのか?」

「いえ、私を雇ったのは若様のお母さまのアンスリーネ様で御座います。アンスリーネ様が今際の際に私に若様の事を頼むと…」

「そうか…母上が…」


俺はまーったく覚えてないが、俺の母は俺を生んですぐに亡くなった。

母は元々エルフの国の王族の生まれだった。

アシュレイの母ちゃんとは姉妹になるのだが…美人だったみたいだが全く記憶にない。

なんと言うかもったいない。


いや、今それはいいか。


「マリアが頭領か?」

「そうではありません。頭領はこちらに」

「そうか。すまんが俺はよく見えない。マリア、灯りを」

「はい」


燭台の灯りに照らされたところには一人の男が。

気配がなかったから全く分からなかった。

手引きがあったとはいえ、マークスやロッソといった武人たちにも気取られた様子もない。

もし不審者がいたらまさに鬼のように大暴れをしているだろう。

見事な手前である。


「お初にお目にかかる。死火衆の頭領、カラッゾと申す」

「カイト・リヒタールだ。よろしく頼む」

「私の父ですの。うふふ」

「そうなのか、それは…いつもマリアさんにはお世話になってます?」

「こちらこそ、娘が迷惑をかけていないか心配で」


二人して苦笑いだ。


「もう、お父さんも坊ちゃんもそんな話をしに来たわけではないでしょう?」

「そうだったな…すまん」

「いえ、こちらこそ申し訳ない」

「仕事の話にしよう。今回の件だ」

「はい、お父上の事はまことにお気のどくで御座いました」

「その事だ。お前らの情報網には犯人が誰か入って来たか?」

「いえ。実際に毒を入れた者は兎も角、毒殺を指示したものはよほど巧妙に隠してあるようで…もしやすると魔族ですらないかもしれません」


そうか。

魔族の出世争いから起こるべくして起こったことかと思っていたが、そうじゃない可能性もあるか。


考えてみりゃそうか。

今は平和だが、ここは最前線の街だ。

そこに武闘派の領主がいて、魔王の一人と親戚なわけで。

まー、攻めようとするものがいれば邪魔なことこの上ない。

内輪の争いとは限らんわけだな。


「そうか…ところで俺の状況は何か聞いたか?」

「いえ、まだ何も。大魔王様には気にいられたようですな。それとその痣」

「これか?」



アシュレイを看取ったとき、右手には新しい痣が出来た。

元々左手にあったものと同じような痣だ。


「ご存知かは分かりませぬが、それは魔王の証ですな。今代で証を2つもつ者はカイト様だけでしょう」

「…そうか」


無機質なアナウンスを思い出す。

種が何やらと言っていた、アレだ。


「お前たちはこれが何か知っているか」

「我々の間でも伝承で伝わるだけですが…およそ1500年前、大魔王様が立志なされた際にも同じような痣を持つ者はいたようです。勿論大魔王様もその一人ですが。我々は正統なる王位の資格だと伝わっています」

「ふむ」

「アンスリーネ様はカイト様を産み落とされた時に気付かれたようです。それで我らに声をかけて頂きました」

「母上は痣の事を知っていたのか…」


エルフの間では伝承が残っていたのかも知れない。

あいつら無駄に長寿だからな。

1500年くらい生きてるクソババアがいてもおかしく…はあるか。

さすがにいくら長生きでも孫世代くらいだろう。


「まあそれはいい。今は直近の話をしたい」

「ハッ」


こいつらは暗殺者であり情報屋でもある。

中には危険度の高い暗殺や、城への夜襲や火付けを行う場合もあるが…今はそれを望んでいない。

各地の偵察や行商ついでに珍しいものを持ってきてほしいってくらいだ。


「俺はヴェルケーロに移されることになった。下手をすれば帰ってこれないかも…などとは思っていない。必ずここを取り戻す」

「はい」

「お前らの所で使えそうな奴はよこさなくていい。引退したやつでいいから何人かくれ。あっちで後進を育てる教師役にしたい」

「なかなか我らの後進は難しいと思いますが」

「分かっている。こちらが集めた子供に物を教える役割だ。文字や算術を教えるついでに向いている奴に諜報を覚えさせるという程度でいい」


何も即席で凄腕のスパイを育成しろって訳じゃない。

たくさん育てて、その中で見込みの有る奴だけちゃんと育成する。

普通の子供たちは普通に育てればいいし、腕っぷしが良い奴はロッソの下に付けてもいい。

頭が良い奴は研究開発でも良いし、軍師になってくれるとすごく助かる。

その下地を作る…まあ小学校のようなものを作りたいのだ。


「まあそれくらいなら出来るでしょう。後日、紹介に連れて参ります」

「頼んだ。それでは人選を頼む。それと…親父と叔父上を毒殺し、アシュレイが死ぬ原因を作った奴は突き止めたい。調査を頼む」

「「ハッ」」


二人声をそろえて返事する。

それにしても長年仕えていた乳母のようなマリアが実は忍者だった、か。


―――まるで仕組まれた物語のようだ。




評価・感想・レビュー・いいね などいただけると大変励みになります。

誤字報告もよろしくお願いします。助かります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ