降臨
一度、巨大な光線で雲を打ち払われた。
大きな穴が開いて巨人に光を与えてしまったわけだが、二度はやらせはしない。
雲は水分でできている。
だから光を乱反射させ、透過させる量を制限できる。
水の分子が光を拡散させるからなんちゃらかんちゃららしいが…実はそんな事より、この世界では光の柱は絶対通さない!って意思を込めて魔法を使うと雲が光を遮るようになる。
魔法による事実の改変が行われるわけだ。すばらしいな。
そして光を遮ることが出来ると兵や将にも伝わる。
誰に教えられるまでもない。さすがにこれだけ戦場にいれば、見ればわかるのだ。
とたんに上がるこちらの士気。
あっちは…あっちはそもそも士気もクソもないか。
上がった士気は兵に力を与える。
疲労で押されていた前線が再び押し返す。
それを見てさらにアシュレイたちの攻撃に苛烈さが加わる。
「もうすぐ半分になります」
「またなんか来そうだな…ほら!」
『―――――!』
「…今度は何だってんだ?」
すると、業を煮やしたか。
ベリオロスはさらに禍々しい状態へと変化していく。
翼に尻尾が生え、腕が4本に。体は横に二回り、三回りほど大きくなり…
そして全身が大きく爛れた醜悪な見た目になる。
アレは…見たことがある。
久遠の塔101層で倒した、あのまさに魔王って感じのモンスター、リシゾデーア。
あいつにソックリになった。違うのは色と大きさだけだ。
アレは黒系のバケモンだったが、こちらは光輝く大きな金色のバケモンである。
「貴様とは一度戦ったぞ!」
アシュレイは尻尾の攻撃を見切り、斬撃をする。
だが、あまり斬れていない。ダメージになっていないのか?防御力が上がったのか?
『―――!』
「いかん、避けろ!」
見たことないモーションから光が放たれ、アシュレイの方に。
間一髪、アシュレイは躱す。だが放たれた光の帯は前線の…左翼の光の兵ごと巻き込んで俺たちの盾兵を薙ぎ払い、最後に爆発した。
連発される爆発。
何とか躱すアシュレイとグロード、そして巻き散らかされる爆炎にダメージを受ける兵たち…
「左翼が特にやばいな…リリー、援軍に行ってくれ」
「ハッ…失礼します」
特にやばいのが左翼だ。最初の爆発を盾兵がまともに食らった。その穴に光の兵が突っ込んできて前線がグチャグチャになろうとしている。
左翼の兵はガクさんの部下たちが主体になっている。
ガクさんと、そしてその後方にドレーヌの部隊だ。
右翼は魔王城周辺の、正面はアークトゥルスとヴェルケーロの部隊が主体になっているわけだが、左翼はあれだな。ガクさんが居ないから指揮系統も混乱しているようだし、抑えが効かない。
狂乱状態にはなってはいないようだが、代わりに怯んでいる。
まあ、全く怯まない兵にビームと爆発を連発する頭のおかしなラスボスが相手だとそうなっても仕方あるまい。
リリーが援軍に赴き、バッタバッタと光の兵を薙ぎ払うと少し落ち着いて持ち直したようだ。
だが、代わりに俺が相手の状況を理解する方法が無くなった。
そして定期的に襲い来る光のビーム攻撃と新しく追加された爆発する攻撃。
それを受けるのはバンザイのまま動けない俺と元気を集めている俺を頑張って守るベロザ。
自然、ベロザに蓄積するダメージ。
「おい、ベロザ大丈夫か?ヒール!ヒール!」
「お、オラは大丈夫だ。カイト様はその雲を、維持してくんろ」
「そうはいってもお前…来るぞ!盾!」
また見たことないモーションの攻撃が。
両手を前に突き出し、手の先からは冷気が押し寄せてくる。
いかん、アムルタートは爆発で温まっている。そこを急激に冷やせば…
【バリンッ!】と音を立ててアムルタートは壊れた。
粉々に砕けた。
不滅とはいったい何なのか!ふざけんな!
「ベロザ!避けろッ!」
「嫌だ!おらが守るだ!」
盾を破壊し、尚もう一発冷気を撃とうとしているベリオロス。
盾を破壊され、体で防ごうとするベロザ。
馬鹿、やめろ!腕をクロスしたってそんなので防げるわけがないだろう!
冷気攻撃を必死に止めようとするアシュレイとグロードだが…
「やめろーーー!」
「さあ、来るだよ!!!」
『――!』
両手を前に突き出すベリオロス。そこから放たれる冷凍光線。
ダメだ。間に合わない。
今から俺が手を下ろして守りに行っても間に合わない。
死ぬ。
ベロザが死ぬ。
アシュレイもグロードも間に合わない。クソ…誰か!
「誰か…ベロザを!誰か!誰か助けてくれ!」
『ふむ…仕方ない奴め』
「…あ!?」
その声とともに粉々になったアムルタートの欠片が集まり、再度盾を形成した。
そしてその盾を持つ者は大きな角を持つ、黒っぽい体の偉丈夫だ。
良く知っている後ろ姿。その姿は…
「親父!?」
「叔父上!?」
「あんた誰だべ!?」
「ぬうううん!儂が、儂がリヒタールじゃい!」
親父は冷凍光線を受けてもビクともしない。
復活したアムルタートはさらに輝きを増し、冷凍も爆発も何でも御座れと受け止めている。
「親父…なんで…?」
「ガハハ!儂だけではないぞ!見よ!」
親父が指さす先。
ベリオロスの周囲には叔父上が、ロッソが、マークスが、ジジイが。
それに大魔王様とアルスと…それに…
「師匠…」
「私を呼ぶのが遅いではないか!」
「ヒェッ!すみません!」
「…マリラエール様も待ちきれなかったと言ってな。この戦いに参加するにはと100層攻略した者でなければ生き返らせられないぞと説明されたのだが、それでも何としても参戦すると言ってきかないのだ」
「…師匠」
生き返らせようとは思っていた。
でもいろいろあって後回しになってしまっていたのだ。
戦争直前に抜けるわけにもいかず、戦いが始まればなおさら抜けるわけにいかず…
「全く。どれだけ待たせる気だ」
「すみません」
「だらしない…おっと」
突然放たれたビームを親父は防ぐ。
軽々と防いでいるように見える。こんなに上手く盾を扱えたのだろうか。
しかも初見の敵を相手に。
「儂も塔で特訓していたのだ。あそこはそもそも、この戦いに参加する者を訓練するための場でもあったのだな…」
「ふうん?」
「さあ、総攻撃が始まるぞ」
その言葉を受け、前を見ると…そこにいたのは塔で見た英雄たちだった。