ラストバトル①
ガエル枢機卿は割とまともな人物だったようだ。
洗脳が解かれた今、アレを放っておいてはいけないという認識で一致した。
というわけで彼にも手伝ってもらう。
太陽を封じるほどの厚い雲を生み出すのだ。
幸いなことに俺が師匠から受け継いだ属性は水だ。
雨雲を作り出すくらいの事は…なかなか大変だが。
「よし、ここでいいか…俺が雨雲を作りまくる。上手くいくと奴の充電を止められるだろう。異常を感じるとこっちに向かってくるかもしれん。足止めをよろしく頼む」
「任せろ」
「アシュレイは足止めを中心に…それからゴンゾ、うまくダメージが通りそうなら援護射撃も頼みたい。とはいえ銃弾じゃどうにもならんだろう。大砲を頼む。それから航空部隊かな…効果がなさそうなら止めて逃げていい」
「ハッ」
「グロードは…グロードは弱った所でその剣で頼む。恐らくその剣が一番効果的だろう」
「応」
止めを刺す役だと聞いて喜ぶグロード。
勿論、足止め役だと言われてもアシュレイも落ち込みはしない。
何なら倒してしまっても構わんのだろう?なんて言い出しそうな雰囲気である。
「よし…やるぞ、みんな!クリエイト・クラウド」
「フレア・トルネード!」
「「「エアブラスト!!!」」」
俺が上空に雲を発生させる。かわいい雲だ。このカンカン照りの中じゃ頑張ってもかわいらしい雲で精いっぱいである。だがそこに追加されるものがある。
魔法部隊全員の魔力込めて川の水流と気流を操る。
同時にアシュレイは火の竜巻を発生させる。
丘の下から上へ、出来るだけ天高く熱せられた空気が、水蒸気が届くように。
そうするとどうなるか。
丘を駆け上った竜巻は上空にまで水を持ち上げる。
空中に飛散する水分は気圧の差で冷やされる。100mで1℃ほどだ。
すると水蒸気は凝固し、水分になる。
みるみる雲は大きく、厚くなった。耐えきれずに水滴を落とそうとするが、それをさせじとコントロールしてドンドン雲を大きくするのが俺の仕事だ。
川と丘がある地形を選んだ甲斐があった。
流れる川の水が干上がりそうな勢いで水分を蒸発させ、風に乗せて空高く舞い上がらせる。
その水分を雲でキャッチ。
水分を多く厚く含ませるほど、黒く分厚くなる雲…
雲はついに帝都上空へと至った。
「リリー!どうだ!」
「魔力の流れがストップしています!」
「よし!!!」
「「いやったああああ!!!」」
大歓声だ。
火の魔法を使っていたアシュレイも、連れてきていた人魔混合の魔法部隊もヘロヘロでポーションを呷っている。そして復活したらまた風と水を操る…頑張れ。ちょーがんばれ。
魔法部隊が使えなくなったのはまあいい。
火器が充足して以来、魔法部隊の仕事は障壁を張るくらいだ。
それはそれで大変な仕事だが、あの光の巨人が放つビームはどうせ魔族の障壁じゃ防げないだろう。
元々障壁や防護魔法が得意な人族でも無理だろと思うような火力だ。魔族の障壁では…
だから、魔力を使うならここだ。
これ以上魔力が供給されないとなれば、光の巨人を電池切れに持って行けるかも知れん。
アシュレイ?アシュレイはどうせ放っておいてもMP自動回復的なスキルがあるだろ。
チート野郎はこれだから困る。
遠目に見える巨人は突然空が曇ったことはあまり気にしていなかったようだ。
だが、しばらくすると少しおかしいと気づいたようだ。
リリーが言うには、さっきまで暴れていても増える一方だった体内に貯留している魔力がだんだん減ってきていると。そこに気づいたのだろう。
よし、順調に削れているようだ。雲も順調に育っている。
ならば俺の仕事はこの雲を出来るだけ維持して、出来ればさらに大きく「いかん!カイト!」
上空を見ていた俺はアシュレイの声に反応して前を見る。
眩い閃光が俺の目の前に、と思ったところで巨人族のタンク職の者が盾を出したようだ。
大幅に減衰したビームは何とか盾をドロドロに溶かして俺がちょっと痛いくらいで済んだ。
「いたたたた」
俺は今、両手を上に挙げ、元気を分けてほしそうなポーズで雲を精密にコントロールしている。
いや、戦場で何やってんだと思うが、こうする必要があるのだ。
雲をある程度の厚さで固定するのは思ったより難しい。
少し気を緩めれば水分は雨になって落ちてこようとするし、そうなれば雲の厚みはなくなってあっという間に日が差してくる。
そうなればさっきまでの魔法部隊の努力も、まずいマナポーションをがぶ飲みしているのも、何の意味もなくなる。
だが、これじゃビームは防げない。
さっきの攻撃は明らかに俺を狙って…
「カイト!次が来るぞ!!」
「アムルタート!?」
盾が巨大化するも、姿勢が悪くて防げそうにない。腕を動かそうとすれば雲が。
…どうすれば!?
「オラが借りるだよ!」
「ベロザ!?」
ベロザは俺の盾を腕からむしり取り、構える。そこに飛んでくる閃光。
「ぐうううう!どうだべ!」
耐えた。ビームの圧に足をズリズリと後退させられながらも耐えたのだ。
さすがベロザだ。
ベロザは俺の見ていない間にシレっとダンジョンに通い、強くなっていた。
コイツは町長のくせに町を放り出してダンジョン通いするようなとんでもない奴なのだ(特大ブーメラン
だが、今はそれが効を奏したと言えよう。
「いいぞベロザ!そのまま頼む」
「任せるだ!」
なんせ俺は両手をバンザイしたまま何もできない。
俺の全身から立ち昇り続ける魔力は遠くからでも見えるだろう。しかもそれが雨雲と繋がっているのは一目瞭然、アイツが雨雲を生んでいるのだ、というのは分からない方がおかしい。
雨雲をウザったく感じていれば当然俺の方に敵意が集中する。
本体だけなあら足止めは簡単だが、雑魚でも居たら大変なことになる。
軍で来られると…いかん。この思考はイカン。
妙なフラグが『者共、あいつを蹴散らせ!』
『『『『オオオオオ!!!』』』』
ほらみろ、言わんこっちゃない。
俺が考えたことがフラグになったのか、続けて撃ったビームを防がれたからなのか。
ベリオロスは足元に小型化した光の巨人、つまり普通の人間サイズの光の兵隊を産み出した。
いや、召喚したといった方がいいか。だがこれにも魔力を使っているはず。
「今の召喚でまた魔力減ったか?リリー?」
「そうですね。全体の1%くらい減ったかと…」
「…そうか」
話している間にまだまだ増える。
1万くらいか。いやもっとか?まだ増える。ウジャウジャと増えていく。
一人一人の魔力はそれほどでもない。
だが、見る見るうちにこちらの5万の軍勢と大差ないほどの数になった。
そして雪崩のように襲い掛かってくる。畜生!
リリー・スカウターはボンッしません。