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一時撤退

アーク歴1510年 什の月


教都郊外


今日は快晴。

冬だが気候は温暖なエラキス地方。まさに絶好の戦日和だ。


その眩い太陽の元、太陽と競い合うように眩く輝く光の巨人が暴れまわっている。

そして俺はそれを横目に、教城を包囲している軍の元に。


魔王軍はさすがに訓練が行き届いているのか、士気が高いのか。

兵が散り散りになって逃げるなんてことはない。

まだ統制が取れているのだとは思うが、どう見ても将も兵も及び腰だ。


無理もない。

俺達だって絶望感に包まれているのだ。


「ああ…」

「…あんな奴どうすればいいんだ…」


兵たちから絶望の声が聞こえてくる。

無理もない。

伝承にあった、勇者アルスが光の巨人となった姿を目の前にしているのだ。


俺たちの攻撃で巨人をかなりボコボコにした。

風穴も開けたし、肩だって普通の人間なら鎖骨を折って肺まで届くほどの一撃をアシュレイが喰らわせたはずだ。無駄に大きな体なので目立つ。そこら辺の一部始終が遠くからも見えていたはず。


でも教皇と同じように何事もなく治った。

いや、何の痛みも感じていなさそうだった分アレより酷いか。

触手の時は酷いバケモンが出て来ると思ったらどこぞの星雲から来たのかと思うような眩い巨人だ。

随分イメージが違うのが出てきて困る。



それはそうと、あの不死性には恐らく何らかのギミックがある。

それを解除するまではまともに戦えない。


光のタマを使うとか、特定の部位を殴らないと駄目だとか、それからマップの何かを処理してからじゃないと駄目だとか…ゲームでよくありそうな何かがあるんじゃないか。

それが分かるまで戦いにすらならないだろう。


俺たちは教城から少し距離を置いた街道脇のスペースまで下がった。

軍が移動するのでそれなりに時間がかかる。


5万近く率いてきた軍はまだそのほとんどが健在だ。

あんまり戦いらしい戦いはなかったからな…


だが、よいこともある。

恐らく教皇が死んだからだと思うが、一般民衆の洗脳状態は解除されているようなのだ。

撤退してくるまで街を通った。

何百、何千という人族と遭遇したが、皆戦場の酷さに呆けているだけでこちらに積極的に襲い掛かろうとはしなかった。まあそれはいいことなんだが…


「解決策は浮かばんか」

「ああ…ガクさんは大丈夫か?」

「うむ、世話をかけた」


ガクルックス魔王は復活した。

と言っても、勿論死んでいたわけでもない。

体にまとった岩が上手く隙間になったおかげで何とかぺしゃんこにならずに済んだのだ。

ペラペラの紙にならずに済んだ、というだけで上半身も下半身も厚みが半分くらいになっていた。

肋骨も頭蓋骨もバキバキに骨折していたのだ。


内臓もかなり損傷していたようだが、ヒールの後にぶっかけたノーブルエリクサーが効いたらしく、今は自力で歩けている。

貴重な一本をホイっと使ってしまったが、その甲斐があってよかった。

やっぱり俺の腕なんかに使わなくてよかった。



あの巨人がどこへ向かうか、何をしようとしているのかは誰にもわからない。

帝国の皇子だったって事だから、帝国を大事に思っているだろうか。

いや、たしか廃嫡されたのだったな。第二皇子にその地位を取られたんだったか。


なら帝国の皇帝や帝国貴族連中、あるいは一般国民にも恨みがあるかもしれん。

…帝都も危ないだろう。

じゃあ魔界は?

個人的な恨みはないかもしれんが、だからって安心できるわけがない。

人族の地に恨みを果たした後、やることが無くなったからじゃああっちに行って暇つぶしに暴れよう、ってことになるかも。

それを踏まえてどうするか。


玉砕覚悟に決戦か、それとも何かの案が出て来るまで一時撤退か、完全に退くか。


だが、一時撤退、完全に退くといってもどこまで…魔界に逃げ込んでも、だからどうだという話だ。

壁や堀に囲まれた城に籠城してもタカが知れている。

アレに対抗する兵器を作れるかと言えば、核でも作らん限り無理だろう。


核の作り方?さっぱりわからん。じゃあ気化爆弾でいけるか?うーん…何を気化するんだ…?

ゴンゾの調査だとあの暴れてるベリオロスこそ核の基本を知っているようだが…

アイツに今から聞くのか?


ベリオロスは嬉々として教会幹部をプチプチしている。ようにみえる。

偶に大きな笑い声も聞こえてくる。うーん、イカれてやがる。

アイツに今から『お前を倒すために核爆弾作りたいから、作り方教えて』って聞くの?

どう考えても無理でしょ


うーむ、どうすれば良いのか…



「…様、カイト様」

「ん?リリーか」

「畏れながら具申申し上げます」

「なんだ?」

「先ほど、カイト様が矢の嵐を作られたときの事です。その際に一瞬だけ空が曇りました」

「ああ。そうだったか」


そういえば曇った。どうせダメージにはならないだろうけど目眩しのつもりでかなり大規模に嵐を作ったからな。それで、ちょっと怯んだところでガクさんを救い出したんだ。


「その際に分かったのですが、太陽からあの巨人へと魔力が流れています。今も流れ込み続けています。」

「ほう…?」


遠目に巨人を見る。

俺の目では元気に大暴れしている姿しか見えないが、恐らく今現在も魔力が流れ込み続けているのだろう。


「どんどんと魔力をため込んでいるようです。そのたびに強くなっています。このままでは…」

「…引いて態勢を整えるより、今戦った方がマシか?」

「そう見えます」

「…そうか」


成程。

リリーの眼でそう見えるならそうなのだろう。

俺の鑑定では弾かれる。こんなことならもっと鍛えておけばよかったと思うが、格上は弾かれるんだよな。


だってアシュレイ見えねえんだもん。

どういう意味かって?

お察しください。

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