光の巨人
教皇から奪った心臓は科学者、オラベリオの中でドクン、ドクンと鼓動している。
体内に無理矢理他人の心臓を突っ込んだってどうにかなるものではない。
だが、さもそこにあるのが当然というように元気いっぱいに動いているではないか。
「私はオラベリオではないのです、カイト・リヒタールよ…我が真の名は『ベリオロス・アル・ラ・アルスハイル』。アルスハイル帝国の皇子で君と同じ転生者だよ」
「なに…を…?」
どこかにいると思っていた頭のおかしい転生者。
それがコイツ?コイツが兵器量産しまくってシナリオ書き換えまくったアホか?
「ふふ…君は親や臣下に恵まれていたようだけどね。僕は転生したからって調子に乗って色々やってたら頭のおかしな子扱いされて教会送りでさあ…でもそのおかげでこうやって復讐のチャンスを得ることが出来たってわけさ。フフフ…ハーッハッハッハ!!!」
「転生者?復讐?」
「カイトと同じ転生者??」
オラベリオ改めベリオロスの胸に沈み込んだ心臓は彼の胸の中で元気いっぱいに動いている。
圧倒的な魔力のおかげで体内の心臓2つ動いているのが見えるのだ。
そして2つはやがて同化して一つになり…
「さあ、俺のところに帰ってこい聖なる種。『狂い咲け、覇王の花よ!結実せよ、神の実よ!』」
「覇王の花…神の実…?」
俺がかつて宿したのは覇王の種。
そういえば俺の場合はもうすぐ開花がどうとかだったか。
種が花を咲かせれば次は実だ。そりゃあ分かるが神の実って…なにそれ?
「…なんだ、神の実を知らんのか?それでもお前プレイヤーか?転生者だろうが」
「俺は一周さらっとやっただけだ!」
拍子抜けしたような顔のベリオロス。
「ふむ…道理で。おかしいと思った。俺がカイトならもっと楽な攻略法があると思っていたのだがな…まあそれをやりすぎて俺はこうなったわけだが…。ハハッ。まあいい。君も日本から来たなら、人が禁断の果実を食らえばどうなるかわかるだろう?」
「どうって、楽園追い出されるんだろ?」
めちゃくちゃ有名な聖書の一節だ。
アダムとイヴが楽園ですっぽんぽんのまま頭ハッピーセットな生活をしていたら、悪魔だか蛇だかがアレ美味しいよって勧めてきて、神様に食べちゃダメだよって言われてた樹の実を食ったんだ。
そしたらなんだか全裸生活がこっぱずかしくなって、全裸マンから大事なところを木の葉で隠す葉っぱ隊に昇格したわけで、それを見た神様が破廉恥極まりないって追放した…だったっけ。
つまり神様はイヴのチラリズムに不覚にも興奮したってわけだ。
あ、ワンチャンアダムのチラリズム説もある…ウホッ!?
「そうだ。理解したようだな」
満足気にうなずくベリオロス。
なにを?何を俺は理解したんだ?
「だが…神の実を喰らえばどうなるか…それはこの体そのものを神へと作り替えることが出来るのだ。初代勇者、アルスのようにな!」
俺の理解は合っていたのか?アレでいいのか?
いや、大事なところはソレじゃない。
初代勇者アルスの…あの塔で出会った後悔ばかりしているアルスの様にとコイツは言った。
塔でアルスは言っていた。
金色に輝く巨人と化した後、魔族の軍勢を捻り潰したと。
圧倒的な力で…
何の抵抗も許さずにだ。
昔の魔族だって今の魔族と比べてそんなに極端に弱いわけじゃないだろう。
ならば俺たちは…
「やめろ!?」
「もう遅いわ!あの時俺を殺さなかったからこうなるのだよ!」
ベリオロスの中で一つになった心臓はまばゆい光を放つ。
至近距離では眼が明けていられないほどの光だ。
少し目を背けると心臓を抜き出された教皇がぼろ屑のようになって崩れ去っていくのが見えた。
「ふはははは!俺を拒絶する!挙句に利用だけはする!こんな世界など滅びてしまえ!!!」
そしてそのまま閃光に包まれ、巨大化していくベリオロス。
『死ね!』
「おわあ!?」
「きゃあ!」
「うお?」
「ぬおおおお!!!!」
何かに上から押された。蹴られたのか?
あまりの光に目を開けるのもつらいが、何とか目を開くとそこに映るのは俺たちに迫りくる巨大な足とその足を受け止めているガクさんだった。
「ガクさん!?」
「ぐぬ…儂が受け止める。何とかして奴を!」
「応!!行くぞアシュレイ!グロード!」
「おう!」「おお!」
足の下から這い出て巨大な体を駆け上る。
そして腕を、目を、胸を短剣で突く。
爪切り短剣には対神属性が付いているはず。
見えない障壁を突き破った感覚があり、各部に傷がついた。
だが致命傷を与えた感覚は無い。身体が大きいから、武器が小さいからだけではない。
明らかに手ごたえがおかしい。
アシュレイたちの方を見ると角槍が、グロードの剣が傷をつけているが、それぞれ何とも言えない表情をしている。
今まで大量に命を奪ってきた。
分かるのだ。攻撃に手ごたえが薄いことが。
「ええい、パワースラスト!ダブル!」
アシュレイが巨人の胸を大きく穿つ。それも二つだ。
今度は手ごたえがないなんて言わせない。貫通まではいかないがかなり大きな穴をあけた。普通なら致命傷だ…が。
『その程度ではどうにもならんよ』
…穴が開いた部分は少し光が陰ったような気はするが、そうこうしている内にみるみる塞がっていく。
そして数秒後には何の傷もなかったかのように塞がり、光が一層まぶしくなったように感じるほどだ。
「くそ!ムーンサルトスタンプ!」
「でええい!ライトニング・スラッシュ!」
「ペネトレイト・アロー!クワトロブル!」
上空からのぶっ叩きは肩を凹ませ、雷をまとった一撃は顔を削ぎ、全力の貫通矢は胸に4本の穴をあけた。
どの傷も生身なら致命傷だ。
だが、それもこれもすべて光を眩しくさせるだけで…治ってしまったのだ。
「くそ!またこのパターンか!」
ちゃんとダメージを与えられない。
何かが、何かがキーになるはずだ。
どうしようもないアホが開発しているならともかく、そうじゃないなら何らかの手を打てば、それでダメージを与えられる。裏ボス撃破も可能なはず。
『無駄だ!無駄無駄ァッ!』
「きゃあっ!」
「ぐおっ!」
打ち払われるアシュレイとグロード。
そして。
『潰れろ!硬いだけのザコ魔王め!』
「ぐぬぬ…ぬわあああ!」
踏み下ろされる足。
ぺしゃんこになったガクルックス
「ガクさん!」
『さあ、次は貴様の番だ』
「おのれ…引け!撤退だ!アロー・テンペスト!オクタ!」
『矢嵐』を八重に重ねる。
とんでもない矢の量に空が曇って見えるほどだ。
『ぬおお!?』
「今だ!ガクさん!」
矢にビビったのか、足の力が抜けたのが分かる。
ガクルックス魔王を助け出すため、アシュレイが奴の足を斬り、出来たスペースに俺とグロードが突っ込んでぺしゃんこにつぶれたガクさんをどうにか救出。
大丈夫だ、まだ息はある。
ヒールをかけまくり、カバンからエリクサーをぶっかけながら担いで逃げる。
謁見の間はもう完全に崩れてしまっている。
瓦礫を踏み越えて城の中庭に出て、それから一目散に逃げた。
足止めをしようとする兵は居ない。
そんなものはもうとっくに連れてきたうちの部隊がボコボコにしたからな。
『逃げるのか魔王よ…だがいい。まずはこいつらからだ。よくもこの俺を何年も閉じ込めてくれたな!死ね死ね死ね!』
「ぎゃあああ!」
「に、逃げろ!」
「おお、神よ…」
『祈れ祈れ!俺が神だ!フハハハハ!』
ベリオロスはその巨大な足を何度もスタンプさせ、教国の幹部たちを一人づつ踏み潰した。
ガクさんの時よりはるかに強い足ふみ攻撃に教国幹部たちは耐えられるはずもなく、次々とペラペラの染みになっていった。
『ふう、ふう…奴はどこだ!レミアをどこに隠した!』
「お助けをおおおお!」
誰かを探しているようだが、それが誰かは俺にも分からん。
どうせ内輪揉めだ。そうこうしている内に逃げるに限る。