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目を逸らすな

朝が来てしまった。

夕べは悶々として眠れなかった。


アシュレイにはまだ寝てないのかと怒られるし、アカは腹を枕にしてグーグー寝て重くて邪魔だし。

オマケに眠れないからアシュレイに襲い掛かろうとしたら今そんなことをする場面ではないと怒られた。


そこは優しく抱擁してくれるところなんじゃないのか。

全く…


「よし…では行くか」

「ハッ」

「ちょっと軽く演説するか…よし、皆ちょっと聞け!」


兵の方に向いて大きな声を出す。後ろの方が見えないなと思ったらアカが大きくなって背中に乗せてくれた。うん、よく見える。


「皆の奮闘のおかげで残すは教城のみとなった。あそこには…あそこには人間界の神を降臨させた者がいる。その者を自由にさせていると、リヒタールやヴェルケーロを襲ったような…狂人共がまた襲いに来るだろう。この教城の中にはまだ民間人が残っていると思う。だが、もはや慈悲をかけるな」


慈悲をかけるな、という言葉に少しざわつく。

俺にしては珍しい言葉だからな。全滅させろと言っているのだ。

いわゆる戦争での全滅ではない。本当に皆殺しにしろと…


「これまで何日もかけてゆっくりと城攻めをした。それは、逃げる意思のある者にさっさと逃げてほしかったからだ。なのに残った。残ったものは敵として扱う以外ない。俺は知らん民間人より、諸君らに生き残ってほしい。命乞いをする者を殺すのはつらいとは思うが…それでも、許すな。剣と槍の時代なら何という事はなかった。だが、火薬の時代になったなら、子供が歴戦の戦士を殺すことだってできる。ここまでやって逃げない者は戦う気があると見做されても仕方がない、そう思え。以上だ…進むぞ!」

「「「おおおー!」」」


元日本人の俺としたことが、全滅させろとかとんでもないことを言う羽目になった。

こうなるのが嫌だから少数精鋭での突貫なんてことをやったんだが、それじゃどうにもできなかった。中途半端な数だと追い返されるか、それか逆に包囲されてどうにもならなくなる。

…となれば蹂躙するしかないではないか。


なんちゃらの虐殺とかって教科書に載るんだろうな…まあ、大した問題ではないか。

何と言っても『魔王』なのだ。

魔王を舐めれば殺されるくらい…仕方ないだろう。



城壁内部へと進軍した俺たちが見たのはすっかり焼け野原になった教都の街だ。


昨日、持っている爆薬や焼夷弾をいくつ撒いたか分からんほどばら撒いた。

幸いなことに教都の街は石造りの建物が多いから日本のように酷いことにはならなかった…なんて夢みたいなことは起こらない。


町に入って俺たちが見た物は、倒壊する建物と無残に殺された遺骸、そして目を爛々と輝かせて襲い来る亡者たちだ。

既に門や城壁の上にある防衛設備は遠距離攻撃で殆ど潰れている。

新しく生産すしたり修理したりする工場もまだ動いているようだが、とても追いつくものではないだろう。防衛設備どころか、門も城壁も崩してあるので入り放題の出放題になっているところに踏み込んだ。


念入りにこれから攻めるから逃げるなら今が最後のチャンスだと告知して、1時間くらい時間を置いてから攻め込んだ。その時間に抜け出た者もいるようだが…やはりというべきか、この状況で残っている者たちは士気が高い。いや、高いのは信仰か?


惨状というのも生易しい、そんな光景を目にしながら進んだ。

心の弱い者たちはトラウマになるだろう。まあ俺もアカンかもしれん。

子供の遺体がある。勿論赤子もある。子を抱いたままの母の遺体も…

アシェルと同じくらいかもしれん。そう思うと俺は…俺は…


「気をしっかり持て」

「ガクさん…」

「こうしなければ、我らが同じ目にあっていただろう。我が子を惨たらしく殺される目に会っていたのだ。もともと、戦を仕掛けてきているのはあちらなのだ。報復を受けても仕方あるまいて」

「分かってるさ」


分かっている。

この世界に来た時から、いつかこうなると思っていた。


ああ、日本はなんて平和だったんだ。

テレビで悲惨なニュースをやっていても所詮は他人事だった。

どこで内戦が起きても、どう見ても戦争としか言えないような争いが起きても、テロが起きても…

ずっと日本は蚊帳の外でいられたのだ。

何時までもこのまま、揺り籠の中で暮らしていけると思っていた。


だが、この世界に来た。

その日からこうなると分かっていた。

この光景を侵略する側か、それとも侵略される側のどちらかで見る側になると…


だからまあ、城から領地や領民が襤褸切れの様になる様をじっと見るよりはマシだと、そう思うしかない。

どんなに悲惨な死に方をしても…


「目を逸らすな」

「…カイト様?」

「諸君、我々が攻めなければ…これは諸君らの夫や妻や子や、或いは父母友人の姿だ。リヒタールが、ヴェルケーロが陥とされたとき、何人くらい死んだと思う?あれが魔界全土に及んでいたら…」


ゴクリ、と息をのむ音が聞こえそうだ。

兵たちは普段は気のいい奴らだ。

もちろん将も同じ。


後ろを見れば一緒に畑を耕した奴もいるし、ブドウをつまみ食いしながら収穫したやつもいる。

搾りたてのジュースを飲んだやつもいるし、食堂で肉の取り合いをしたやつもいる。


皆、死骸の山や燃える街を見てどんよりとした顔をしていた。

だがこうしなければ同じ目にあっていたのは俺たちの方だ。

…なんて言ってもあんまりひどい光景をみるとPTSDになるだろうな。

俺だって何回も夢に見るだろう。そのくらい…酷い光景を作り出してしまった。

この話を書いたのはしばらく前ですが、ウクライナじゃ今もこういう光景があるだろうなという事は予想できます。

それに引き換え日本では、先日の総理襲撃の際に抑えられる容疑者をスマホで撮影している人が沢山いて…やっぱり平和ボケなんだなあと改めて痛感しました

だからって自分があの場所に居たらすぐにしゃがむボタンを押したり、あるいは避難したかというと微妙ですが

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