国境での戦い③
混戦だ。
激戦と言ってもよい。
半包囲されかかっていた俺たちが出来るのは前に進むか後ろに退くか。
突破するかあるいは後退するかだ。
だが、銃弾と空爆、列車砲が飛び交う中での突破はアシュレイの様なぶっ飛んだ奴がいないと厳しい。
仕方なく後退しながらの戦いになる。
だが、こういうのは割と俺の得意な範囲だ。
アッチコッチに樹を生やし、壁を作りながらゆっくりと後退。
調子に乗って追いかけてくるやつを遠距離から倒す。
そして…空にも支援を繰り返している内に劣勢だったアカと航空隊が空を制し、それを確認して前進した。彼方の援軍だと思った大軍は対地攻撃をメインに据えた装備だったようで、その分空対空が楽になったのだろう。
列車砲は壊しても何両も現れた。
最初はゴンゾともったいないな、なんていう余裕もあったが、途中からもうそれどころじゃなくなった。
撃ちまくるしかなくなり、当然のように撃たれまくる。
飛行機も沢山落とした。
何機が向かってきたか、何機を落としたか…さっぱりわからん。
そして戦車に通常の砲兵、当然いる歩兵にガトリングガン装備の部隊…
次から次へと来る敵軍。
少しなら弾切れまで粘ってそれから押し出せばいいが、そうもいかない。
というわけで防御を捨てた殴り合いをする羽目になった。
俺もボコボコに撃たれたし、俺自身が斬られそうになったこともあった。
別に突出していたわけではない。
本陣まで詰めてこられたのだ。
どこの勇者か分からんが、ギラギラする聖剣を持った奴に…死ぬかと思った。
当然、ウチの兵もモリモリ削られた。
途中から俺は防御よりも出来るだけ敵を倒すことに集中することになった。
狭い範囲を集中的に守ることはできる。
だが、範囲を広くすれば防御は脆くなる。
結局のところ広範囲を防ぐより殴った方が魔力も兵も損耗が少ないのだ。
俺だけじゃない。
魔界の実力者が近代兵器とのガチの殴り合いを行ったわけだ。
大暴れをすると当然目立つ。
相手には遠距離攻撃をする武器もあるので目立つ武将は当然狙われる。
精密狙撃も、適当にばら撒く攻撃も近接特攻もされた。
歩兵銃で、ガトリングガンで、大砲で、戦車で、列車砲で、そして航空機から機銃で。
剣で槍で弓で投石まで。
散々にボコボコにされるといくら頑丈な魔族の将軍でも死ぬ。
俺も一回列車砲の直撃を食らいそうになった。
盾が自動的に守ってくれなきゃ今度は右手や足が無くなっていたかも。
…そして勝った。
勝つには勝ったが、兵も将も何人喪ったか分からん。
「ゴンゾ、マリア?生きてるか?」
「なんとかのう…」
「私は問題ありません」
「酷い目にあったな…」
死屍累々である。
血と糞尿、そして炎と鉄と機械油の匂いが入り混じった死の空間。
これが近代戦の戦場だ、と言わんばかりである。
「ロクなもんじゃねえわやっぱり…」
「カイト様、ご無事で」
「シュゲイム…生きてるやつを集めてくれ。ケガ人も集めて」
「すでに手配してあります」
「よし…それにしてもひどい目にあったな」
「は…主だった犠牲者は…」
エルトリッヒ時代からの将軍と、大魔王城の門番をしていたオッサンと…報告を聞くだけで憂鬱になるくらい死んだ。兵たちの中にはヴェルケーロで一緒に畑作ったり家作ったりした奴もいた。ちくしょう…
とりあえずここでの戦いは終わった。
俺も銃弾を何発喰らったか分からんし、ガトリングガンでボコボコに撃たれた時はもうアカンかも…と思ったものだが、ダンジョンで鍛えた体は案外何とかなった。
まあ大砲喰らってもいけるんだから何とかなるもんなんだな、としか言いようがない。
だがまあ、それは俺が、いや…俺やシュゲイムのような一部がクソチート野郎だからで。
配下の魔族兵は銃弾で動けなくなり、追撃で銃剣に刺されて死んでいる者もいた。
大砲をまともに食らって片腕吹っ飛ばされた巨人族の兵もいる。
盾で受ければなんとかなるが、盾もなしでそのまま食らうとさすがに持たないのだ。
ここで出会った敵軍は士気旺盛である。
変に操られて暴走しているような軍隊とも違い、きちんと統制の取れた暴力だった。
なのに死ぬことを恐れない死兵の集まりで…おかげでえらい目にあったのだ。
「ヒール、ヒール、こっちもヒール」
アフェリスは居ないので俺が癒す。
アイツは範囲回復が使えるが、俺は初級回復魔法である『ヒール』しか使えない。
だから頑張って何回もかけるか、魔力を多めにぶち込んで無理矢理治すかしかできない。
当然浪費が多く、まあ疲れる。すごく疲れるけど兵の命には替えられん。
「あー、まだまだいるよな?ほかに回復できる奴は…」
まあ居なくもない。
ある程度の実力者は『ヒール』くらい使えるのだ。
だが、大半の者は魔力切れだ。
俺のように無駄に魔力ばかりに偏った成長をしていない者はそれほど回復魔法を使えないし、魔力に偏った成長をした者は銃弾の餌食になる。ままならん。
成長の過程で適性のあるものは『ハイヒール』やその上の『エクスヒール』を覚える。
『エリアヒール』は範囲なのでめちゃ便利そう。
この範囲回復や上級回復魔法は適性のある人がいろんな人と関わりを持って、癒していると自然に覚えるのだそうだ。
その上級の回復魔法をアフェリスは使える。
でも俺は使えない。
ふむ。
俺が使えるのは初級の、個人にしかかけられない『ヒール』のみ。
いかにボッチで脳筋かがよくわかる。
なのにステータス的には魔法型の…ギギギ
やっぱりクソボッチだったのが悪いのか。ヒールかける相手なんて自分とアカくらいだったからな…畜生!
そんなこんなを考えながら重傷者からヒールする。
やばそうなのは頑張ってヒールを重ね掛けした後、後方に送ってアフェリスに頼む。
アイツは帝国で待機してくれているはずなので、とりあえずそこまでどうにか運べば…運ぶ手段が移動手段が荷車や担架しか…やっぱ自動車ほしいなあ。工兵隊、早く線路引いてくれ。
●●が死んだ、は書いてて憂鬱になりますが誰も死なない戦いなんてないし…ウーンと思いながら書いています。門番さんは序盤に野菜を受け渡したりした門番さんです。エルトリッヒの~は最初に逃れてきた一団の中の一人、家を~はゴンゾの部下やってた人。残念ながら名無しのまま退場です。
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