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人材

アーク歴1510年 玖の月


旧タラモル王国領



「大魔王様にお会いできる日を楽しみにしておりました」

「おう…タラモルからはヴェルケーロ方面に出兵したと聞いていたが」

「教国に強要されて仕方なかったのです。兵は1000しか出さぬというと兵糧と資金を沢山貪られました」

「坊主はその辺うるさいからな…」

「おっしゃる通りでございます」


話しているのはタラモル王として即位したザン王太子…じゃない、ザン新王だ。


帝国で『僕たち悪い魔族じゃないよ!』ってな演説をした。

おっかなびっくり聞きに来ていた聴衆たちはほっとした表情だった。


その後、帝都に抑えの兵を置き、俺は北にさらに侵攻してタラモルを支配下に置いた。

タラモル国でも抵抗らしい抵抗はなかった。

国としても、在野の貴族たちとしても…魔界の脅威を叩き込まれている者たちばかりなのだ。

かつて、およそ単騎で連合軍を薙ぎ払ったのが俺らしい。ほとんど記憶にないが…

まあ、おかげで平和的に(魔族主観 併呑できたのだから言うことはない。



タラモルでも帝国と同じような演説をした。

違うのはアッチは帝国の直系がほとんど残っていなかったので魔界の一都市として組み込む形にしたが、こちらは王もいるし、その王とは今のところそれほど仲が悪いわけでもない。

なので従属関係に近い併呑…というかたちになった。

ザン王には魔界でいうところの公爵位より上の位、つまり魔王位を授けるという形になったのだ。


というわけで市政についてだ。

基本的に商人や農民はそのまま。あまりにひどい税率のところは改善するし移動も自由だ。

兵役についていた者もそのまま返すし、職業軍人は続けたいなら続けてもよし、やめたいならやめてもよいと伝えた。


勿論お互いに殺し、殺されたこともあるだろう。

汚い謀略で、というなら許せないが戦の上でのことであれば問題はない。

後ろ暗い者以外はそのまま自然にいるように。

もし過去に何かしらの悪さを魔族にしていた場合は、それなりの報復があると思うように…と伝えてある。



そして実際に捕まえた者もいる。

魔界の一般市民を捕まえて売っていた奴隷商、その後ろ盾となって金銭や奴隷を受け取っていた貴族をまず捕まえた。そのあとは当然処刑、財産没収である。

そしてその際に、過去に罪を犯した者は名乗り出れば罪一等を減ずるというと…来るわ来るわ。


魔界で窃盗をした者もいれば、魔族と喧嘩をした者もいる。

窃盗は盗んだものか同額程度の金を返すように。

素手の喧嘩くらいどうってことないだろ。

さっきまで殺しあってた仲だぞ、ってことでこっちは処分なし。


過去に魔族の奴隷を奴隷商人から購入した者もいた。

まあそういうものは一定数居るだろうと思っていたが…

どうしようか悩む。


明らかに虐待を受けていた者は当然救出するし、虐待していた者には処罰を与えるべきだ。

だが、普通に家の家事をしたり一緒に畑を耕していたり、あるいは愛し合って一緒にいるという者も当然のようにいる。そういうのは処罰できない。じゃあどこでそれを見極めるかというのが…


「申告制にしてもいいが…奴隷の方から言い出しにくい、なんてことある?」

「有るのではないでしょうか」

「思い切って行動できる者、出来ない者はやはりあるでしょうな」

「ふーむ、そうか…」


やっぱりそうなのか…


以前、俺は魔族が魔族を奴隷にしたりしないのは所詮力の強弱もあるし、寝首をかかれることもあるのだからそんな下らない事をしないんだ。たとえ奴隷になったからって行動を縛ることはできないんだからぶっ飛ばせばいいだろと思うが、そういう物でもないようだ。


相手が自分より腕力の劣る者であっても、奴隷として教育されると…いわゆる奴隷根性が沁み込んでしまうと、たとえ相手が老いて弱っても力で取って代わろうとはしなくなる。で、本人も何の疑問も抱かなくなると特に不満もなくなって…


あれ?なら別に問題ないのか?いや洗脳だから駄目なのか???

蹴る殴るの虐待を受けているわけではないなら、奴隷と言っても給料をもらって働くのと大差ないともいえる。むしろ現代のように税をたっぷりとられた後消費税でまた課税、まともに子供も育てられない状況。その一方で特権階級にある者は…おっと、誰かが来たようだ?



まあそれはそうと。

タラモル国には正直いい思い出があまりない。

ロクでもない国王が大暴れして何回も攻めてきた、ってイメージしかないのだ。


だがまあその国王も死んだことだし、恨みっこなしで…と言いたいが、殺したのはどうやら俺だ。しかも兵もいっぱい…多分常備兵じゃなく半農の兵だ。

恨まれるとしたらこっちなんだよなあ。


「貴公らは私を恨んでは居まいか。また、民はどうか」

「は…」


ザン王と貴族たち、豪商たちが集まった場で聞く。

歓迎会のような場だが、こういうことは聞けるときに聞いておくに限るのだ。


「答えにくいだろうとは思うがこの際はっきり言ってほしい。何を言われても処罰もせんし方針も変えん」

「それでは正直に申し上げますが…反対意見が多いことも事実です」

「だろうな。当然だと思う。ヒトは変わることを恐れるものだ」

「魔王様がこの後の戦いで敗れることがあれば、我らの立場も大いに揺らぐでしょう…その為何としても教国との決戦に勝利していただきたい」

「ハハ…そうだな…。それで、他の者はどうか」


水を向けると貴族も商人も口々に不安を言い始める。

多くが自分のことや家族のこと、自分の商売のことなどだ。

うんうん、せっかくのこういう機会に国の構造的欠陥を言うような奴は立派な政治家になると思うが、自分勝手に都合のいい事ばっかり言う奴は明らかにダメな奴だ。

『メモっとけよマリア?』と視線を向けると『当然でございます』と視線で帰ってくる。


だが、勿論しっかりしたやつもいる。

パーティー形式でやっているので壇上を降りた後は個別に話す機会もある。

自分を売り込み、これからの政略、軍略について参考になる意見も多い。

こういう奴は俺も顔を覚えられる。マリアに頼らずとも…まあ一応メモっといて?

ああ、やってるのか。さすがやな…



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