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追撃!

アーク歴1511年 漆の月 下旬



リヒタール城壁の人族側を囲むように布陣する敵軍の、その上空からビラを撒いた。

ビラを撒くためだけに来たのに天馬が防衛に来て鬱陶しいことになったが、適当に追い回されながら撒いたおかげで広範囲にバラ撒けたともいえる。


ビラのこうかはばつぐんだ!


敵軍がどんどん引いていくぞ…と思っていたがそうでもない。

なんでや?と思ったが、グロードが言うには読めないんじゃないかと。



人族の識字率は3割程度らしい。

3割もいるじゃんと思うが、貴族とその使用人たちがほとんどの割合を占めている。

一般人…いわゆる農民や兵士はほとんど読めないらしい。

商人は大丈夫。

むしろ読めないと仕事にならないだろう。


だからビラを読めるのはここにきている軍の上層部と酒保商人くらい。

後は元騎士の傭兵や訳アリの連中くらいか。

箝口令を敷けばなかなか漏れなくなるのだ。


とはいえ、読めるやつもいるし口の軽いのもいるだろう。

もしどうしても兵に見せたくないなら、字が読めそうなやつ全員しょっ引いて…まあそれでも情報は洩れるだろう。


そして案の定。

しだいに情報が広がり…何日かすると敵軍は乳歯が抜けるようにぽろぽろと逃亡者が増えるようになった。上空から見ているとそれがよくわかる。


大きく育ったアカは空の王者の風格を抱くようになった。

その姿を見ただけで地上の兵は恐慌を起こし、迎撃に上がってきた天馬があっさり撃墜される様を見るとさらに地上の動きがバタバタする。


悠然と空を飛び、時折邪魔者が出れば蹴散らす。

かと思えば気が向いたところにブレスを打ち込む。

アカが気が向くところと言えば、主に騒いでいる者がいるところだ。


おかげでアカと朝昼晩と3回も空の散歩をすると、地上の敵軍は黙り込むようになった。

おまけに翌日になるとさらに騒がしくなった。伝令が付いたのだと察しが付く。


さあ、もうそろそろいいだろう。



「頃合いだろう。軍を押し出そう」

「ハッ。ようやくですな」

「俺は好き勝手暴れてるのに、ここでずっと待たせて悪かった。退屈だったろう」

「いえ…では先陣は我が」


ガクさんが先鋒か。

ちょっともったいないような気がするが、まあ実際のところアシュレイのように魔王先頭でガンガン行った方が最終的な部隊の損耗は少ないだろう。


「ああ。頼む。蹴散らしてくれ」

「…承知!」


嬉しそうに返事をしてどんどん前へ出ていく。

城門前で今か今かと待ち構えている軍勢のところへ行き、何やら語ると周囲が沸いた。

そして城門を開けると一気に駆け出す。


後の結果は見るまでもない。

元々、岩で全身を覆われたガクルックス魔王は防御力が高かった。


少し移動速度が遅いという欠点があったような気がするが…今となっては何のことやら。

後続の部隊を置き去りに、一人でガンガン進む。

そして浴びせられる銃弾も砲撃も、彼の防御を破ることはできない。

いや、正しくは体表の岩はすり減り、砕かれているようだが…壊れる端から再生されているのだ。


そして岩の防御を抜けてもそこにあるのは頑丈極まりない皮膚。

銃が奏功するとすれば目や口といったところか。だがまあそんなことは当然わかっているので急所に対する防御は他所よりよほど厳重である。

そうそう抜けるものではないのだ。


斯くして戦端は開かれた。

そして一瞬で決着した。


元々、時間稼ぎが目的である士気も錬度も低い兵。

そしてビラと遅れて伝えられた情報により味方の敗戦を知り、さらに士気は下がっている。

そんな兵たちがあの訳の分からん岩魔人の突撃をどれだけ支えられるだろうか。

おまけにこっちは戦車も飛行機も来ない戦場だ。まあ結果は見るまでもなかった。


「よし…追撃に移るぞ」

「追撃準備!追撃準備!」


当然のように敵軍は崩れ、当然のように追撃をかけることになる。


「工兵隊は道を均しながら来いよ。測量も忘れるな」

「「ハッ!」」

「何なら線路敷きながらでもいいぞ…輜重隊はゆっくり来い。海路からの制圧も忘れるなよ…じゃあギザルム殿、後は手はず通りに。行くぞ、グロード」

「おう!」「畏まりました」


さあ、追撃だ。

今までは追い払うだけで済ませていたが…そろそろ領土を頂こう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 4割に届かなったと言われる中世イギリスよりは高いな そのイギリスの統治下になった結果一時的にインドの識字率が下がったのは秘密
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