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孫請け

「おいカイト、もう着くぞ」

「…おう」


グロードに起こされた。

どうやらいつの間にか眠っていたらしい。


外を見るとリヒタール領のすぐ手前だ。

夜のうちにリヒタールをアカに乗って出発して。

それから半日かけて海からベラトリクス領へ。

アカの上で楽をしながら施設を破壊し、ベラトリクス魔王との戦い。

それからアカに飯を食わせている間に戦後処理を。

ヴぇエルケーロに赴くアシュレイたちを見送ってまた夜に汽車に…


戦っていた時間自体は短かったが濃密な一日だった。

1泊3日の旅行か。ヒデエ日程だ。

そして疲れたところでカタンカタンと揺れる列車の旅だ。寝てもしょうがないだろう。


俺専用列車などというロマンあふれる無駄遣いはしない。

そこらにある車両と同じだ。

とはいえ、一応列車には一等車両と二等車両がある。


グリーン車と自由席みたいなもんだ。

寝台特急も作ってもいいが、とりあえずはボックス席と長椅子しかない。


どうしても横になりたければ長椅子で寝るか床だ。

ああ、それと大きなお友達用のオープンカーもある。あっちの方がよく寝れるかもしれんが、何せ排煙が酷いので一般人にはお勧めしない。



俺とアカはまあとりあえず一等車両に乗っているが、貸し切りというわけでもない。

今は戦時。

平民だ貴族だとか言って分けるような余裕はない。

だがまあ俺の乗っている車両は普通に官僚や貴族、それに諜報部の人間しかいない。

諜報部の人間とはつまりマリアのところってことだ。


「昨日は丸一日寝てたんだから仕方ないだろう。リヒタールの領主館でもう少し寝ればどうだ?」

「あー…?ああ。そうしてもいいな。戦況はどうなっているかわかるか?」

「一進一退だ。大魔王城の戦況はまだ伝わっていないようだぞ」


話しかけてきたのはグロードだ。

と言っても諜報部の者の手によって化粧をされ、特に目立たないように貴族の服を着せられ…似合わぬ眼鏡をかけている。俺も一瞬誰かと思った。

それにしても敵軍の情報伝達は遅い…いや、そんなことはないか?


汽車で5時間程度の距離だ。

兵にはまあまあいい休憩時間となる。

ナポレオンの大陸軍は毎日行軍行軍で、兵の疲労はひどいことになったがその分移動距離がものすごいことになったらしい。だが、近代設備を使えばそれより遥かに早く、比較にならないほど快適に移動ができる。半日で何百キロも簡単に移動できちゃうのだ。それも弁当昼寝付きで。


でまあ…この世界でそれを上回る速度で移動しようとしたら航空機か、あるいは天馬や飛竜か…

そう思うと手紙や連絡が届かなくてもしょうがないな。


「そうか。まだ伝わっていないか。あちらの戦いの結果が分かってからのほうが攻めやすいか、それとも攻め込んでから結果を知らせたほうがいいか…」

「そいつは難しい問題だな」

「ああ。うまく攻めてる最中に伝令がたどり着けば一番面白い展開になるがな…グロード伝令役やってくんない?」

「俺が?ウーム…できなくもないが…俺の存在は隠しておいたほうがいいんじゃないのか?」

「あー…確かに」


一回の勝利のために切っていい札じゃないってのは確かだ。

この後の戦いは恐らくだが放っておいても勝てる。

帝都まで進軍して、そして決戦の時にこそ切り札を切るべきだ、とは思う。


「じゃあ正攻法で行くか。防衛してて、あっちに変な動きがあったら追撃。もしくはビラでもまくかだな…そうだな。ビラ作戦やってみるか」

「ビラとはなんだ?」

「ビラって…あれだよ。広告を撒くんだよ。紙に印刷して」

「紙はわかるが…印刷?」

「お前見たことなかったっけ?ヴェルケーロとかアークトゥルスじゃ新聞出してるじゃん」

「あー、あれか…」


見たことはあったようだ。

暇つぶし程度で読んでるやつ多いみたいだからな。こいつも同じ使い方だろう。

というわけでリヒタールまで行こうと思っていたし、実際に着いてしまったが…


ちらりと見たがリヒタールの防衛は問題なさそうだったのでアカに乗って一度アークトゥルスに戻る。ゴンゾ(便利屋)は今、ヴェルケーロの防衛に行ったはず。俺と同じ汽車で移動してたはずだからアークトゥルス方面にはいないから…しまったな。

というわけで寝ぼけたアカに乗ってアークトゥルスまで帰り、直で印刷屋のほうに来た。


「おい、急ぎでビラ刷ってビラ」

「カ、カイト様!?」

「急ぎで頼む。文面は…ああ、これの見出しそのままでいいや。戦闘経過も…そこそこあるな。よし、じゃあこの一面だけいっぱい刷って。も少し小さい紙でいいから」

「ハッ!」

「頼んだぞ…えーとお前は…ケッタルコ?だったっけ?」

「ハハッ!ケッタルコめでございます!」


コイツは確か、あの…マリアたちと初めてまともに会った夜に話しかけてきた、そのうちの一人だ。

俺よく覚えてたな…と思う。


まあ、あれ以降もちょくちょく見かけているが…


「お前…忍者部隊の一人じゃないの?なんでこんな所にいるんだよ」

「おや、若はご存じない?印刷所関連は我等の忍び宿となっておりまするぞ。売上まで頂戴させていただいて申し訳ないやら助かりまするやらで…」

「へー??」


どうも、印刷している姿を見ながら話を聞くと。

俺が一度死ぬ前にゴンゾに丸投げした印刷業は手先の器用で口の堅いものを中心に集めた。


そうすると気が付けばマリアのところの忍者部隊の面々が主となっており、もういいかでマークスはマリアたち忍者部隊に印刷関連をポイっと丸投げしたのだそうだ。

あの頃忙しかったからな…ゴンゾもマークスも、俺が丸投げしたのをさらに下に丸投げだ。

俺が死んでた間に事業もどんどん拡大。新聞も本もほいほい作成できるようになった。

金型は魔法で彫れるのでもりもりバージョンを増やし、おしゃれな書体もたくさんできている。


下請けの孫請けの…って構図はこうやって出来上がるんだな。ってのを体感した。

まあウチは中抜きはしていないが。

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