転戦②
ベラトリクス領方面、つまり大魔王城方面の防衛は終わった。
…終わったと思っていいだろう。
後始末はドレーヌとエルナリエ、それとザイールに任せる。
おかしなカリスマ性のあるドレーヌと、知略、戦略性に富んだエルナリエはいい組み合わせになるだろうか。飛行場も復旧させる必要がある。鹵獲した兵器はゴンゾとその弟子たちに解析させなければならない。そしてパイロットの訓練も兼ねて飛行場を活用して防衛に移ってもらう。
しかしまあ、その辺はこの戦いが少し落ち着いてからになるだろうな…
どうも、ベラトリクス自身は今回の戦いに勝てるとは思っていなかったようだ。
まあそれはそうだろう。
正直な話、航空機や戦車はかなりの脅威だと思う。
だが、それは人族や魔族の一般兵、部隊長と…低位の将軍クラスまでの話だ。
魔王の力は一般的な兵とは隔絶している。
だからベラトリクス魔王とて航空機の機銃や大砲を何発か食らっても屁とも思わない…ってほどじゃないだろうけど、あれで俺とアシュレイとガクさんと…魔界の強者たちを次々倒せるとは思えなかっただろう。
だから、戦わなければならなかった理由があるはずだ。その動機を知りたいものだが。
最後の言葉が気になるところだが…まあそれはおいおい調査していけば分かるかもしれん。
ベラトリクス魔王は幹部連中には敗れた場合は素直に俺に従うようにと言っていたようで、後の統治はそれほど苦労しそうにない。もともと魔族は強い者に従うように教育されているという事もある。
俺としても占領地が従順なら言う事ない。
というわけで後始末を終えた俺たちは再び汽車に乗る。
次の戦場はリヒタールだ。
ヴェルケーロ方面も攻められているらしいが、あちらにはアシュレイに行ってもらう。
今回、敵の本命はベラトリクスのいる大魔王城方面だったようだ。
ヴェルケーロは我等の軍をひきつけ、時間稼ぎを主目的とした軍だった。
見た感じでもそうだし、飛竜と汽車と二通りの定期連絡でも戦線は膠着しているらしい。
航空隊もほとんどいないようだし…士気の低い旧世代の軍だ。軽く蹴散らせばよかろう。
というわけで当面の大魔王城の守りを伯母上とザイールに丸投げした。
手が空くようなら前線に来いと無茶振りも忘れない。
「じゃあアシュレイ、あっちはよろしく。ザーッとやっちゃってくれていいから」
「おう。任せておけ」
「リリーもよろしく。蹴散らしたら思いっきり追撃かけていいから。…何なら教皇領で会おう」
「ハッ!」
そうやって二人と兵たちをヴェルケーロ方面に送り出し、俺はアカとグロードを連れてリヒタール方面へ。
グロードは今回全く出番がなかった。
まあその方がいい。こいつは隠し玉だ。
存在がばれないうちにうまく近寄り、後ろから刺す。そうやって温存できればいうことがない。
ヴェルケーロ方面はシュゲイムやリリーなど旧エルトリッヒの騎士団員がかなりメインとなっている。
リリーが言うには彼らは『神』による魔族弱体化のデバフを受けず、俺の強化のバフだけもらうという状態で…いまや魔族兵と比べても遜色ないどころか上回ってしまうほどの強さらしい。
シュゲイムはベロザやウルグエアルなど魔界の将と比べても一段上の力になっているし、勇者であるリリーは倍々ゲームがひどいことになって彼らより遥か上の存在となってしまっている。
まあ、はっきり言って普通の火縄銃なんぞは話にならない。
アシュレイには火縄銃が直撃しても効果がないが、リリーには流れ弾すら当たらない。
魔眼の力は魔法だけかと思っていたが、殺意や殺気はもちろんとして自分に傷を与えるコースに飛んでいる流れ弾まで認識できるらしい。もちろん後ろからもだ。
そんなわけで…まあ、いろんなチートを重ねがけされたアイツも俺より強いんじゃないかな。
ベラさんを軽々と倒せるようになった俺だが、いくら強くなっても周りが強い奴ばっかりで嫌になる。
だが、そのくらいじゃないとおそらく本当の敵には敵わないだろう。
俺は…俺は銃弾を食らうと普通に痛い。
試しに打ってもらったが、正面から飛んできた弾は普通によけられた。
アレなら少年野球の時に食らったデッドボールのほうが避けにくかった。
野球は打ちに行った結果当たるのだから、初めから避けると思っているのと随分違うとは思うが。
試しに手に食らってみた時も少しめり込んだ程度だった。すげー痛かったけどこの世界に来て痛い事に対してずいぶん耐性がついているので、まあ何とかなったというところだ。
「アカは銃弾食らった時どうだった?」
「てっぽーの弾か?ビックリした。バーンって言ってたぞ!」
「そうだな。音でまずビビるんだよな」
ドン!とかズドン!って音は戦いでもよくある。
でもそこに魔力の流れを感じるので、何か来るぞ!と思ってからの雷や爆発であるのだ。
だから驚くというよりは「あ、やっぱり来た」って感じ。
だが、火薬の爆発は全然予想していないところでいきなりドーンってするからマジでびっくりするのだ。
で、それ以上に分かったのはアカにとって弾が当たったことはほとんど気にならないと。
俺もその場で見ていたが、銃弾は鱗に弾かれて後方に飛んで行った。
まともに受け止める形になれば衝撃も違ったとは思うが、流線型のボディは前から打つといい感じで受け流すことができる。羨ましい。
人型なんて立って歩いてたら急所はむき出しだし、戦いにおいてのメリットはほとんどないからな…。まあその分…その分足は遅いし防御力は低いしついでに言うと武器を持たなければ攻撃力も低い。
武器が本体なんじゃないかというくらい人型である事にメリットがないな。
うーむ。