対ベラトリクス戦線⑤
戦闘が始まった。
正面と左翼はある程度修復していたが、残った遺体やごみの撤去、埋めなおされた塹壕の掘り直しなど、一日で出来ることは限られている。必然的に脆い。
そうなると当然あちらは我が左翼と正面に多く兵を割り振る。
新しい兵器も…
「何だあれは?」
「ガトリングガンですな…航空機の機銃と同じような作りですが、いやはやあの数は」
連発式の銃だ。
何発打てば止まるのか、さっぱりわからないほど撃っている。
そして数が多い。固定式の物も、兵が手で持って動きながら撃っている物もある。
一発一発は砲弾より軽い。
巨人兵の持つ鋼鉄の盾ならまあどうということはない。
数が多いのでトータルの衝撃はかなり有るようだし盾も削れそうだ。
盾持ちはいいが、盾を持たない兵は当たればかなり損傷している。
いかんな…
「ゴンゾ、あれを狙って打てるか?」
「厳しいですが…」
大砲の照準をあの連発銃に合わせさせる。
そしてドゴドゴと撃つが…
「あたらんな…」
「敵も土壁の向こうですからな。大砲で狙うには的が小さすぎますじゃ。精密射撃の方がまだ当たるようですが…」
スコープ?とやらの付いた狙撃銃を持つ者は壁の向こう側を覗き穴からや兵が体を出した時に狙い打っているが、何せ数が少ない。そして通常の銃は射程がきつく、おまけに土壁に防がれる。
根本的に武器の優劣は大差ない。こちらが狙える距離はあちらからも狙われる。うーむ。焦れる。
「ええい、鬱陶しい」
「姫様、もう少しお下がりを…」
ときどき私の方にも弾が飛んでくる。
障壁を張って弾いたり、そっと受け止めたりしているが…ゴンゾや技術者たちを守るのも大変だ。
「仕方ない、下がっていろ。私が…」
「姫の出番はまだまだですじゃ」
「ぬ」
私の出番はまだのようだ。
しかし昨日もそうだったが、人が戦っているところをただ見ているというのは何とも焦れる。
そうこうしているうちにあちこちで連射がやんだ。
どうやら、弾が詰まったのか。必死に直そうとしているようだ
「詰まったようですな。それとあちらは銃身が…あー、鹵獲を狙って突撃しましたな…」
「ジャム?そうだな。甘いから…罠という事か?」
「ああ、いやそういう…罠というわけでは無かったでしょうが乱戦になりましたな…」
見る間に乱戦になった。
こちらはじっと我慢していれば援軍が増えるわけだが、あれだけパンパン連発されたらイライラも溜まるのだろう。それを制御するのは一流の指揮官、熟練の兵でも難しい。
それどころか我らは急造の軍に指揮官だ。仕方ないともいえるが…
左翼、正面が乱戦になった。つられて右翼も乱戦に。
これはいかんな
「いけませんな…」
「だが止めづらい。仕方ない、私が…」
「姫、左翼が!」
私が出よう、とウキウキしながら行こうとしたところで、左翼の兵が突出したところを横から現れた軍に突かれた。見る間に崩れる。
「いかん、左翼の救援に向かうぞ!続け!」
「「おおー!」」
あんなところに道らしき道はなかった。
あるのは崖のようなところだけだった。上から打たれる可能性はあっても、騎馬が突撃してこられるような道は…
だが、現実として騎馬隊が突撃してきている。
左翼の兵たちは騎馬の圧に蹴散らされ、散り散りに。
左翼の守将であるエインは何とか粘ろうとしているが、もう持たない。
あそこが抜かれると本陣後方の砲兵隊が。
後ろから荒らされると本陣が…
そうなる前に私が出る。
「どけええええ!」
すでにこちらに雪崩れ込んできている騎馬を蹴散らす。
そこに轟音とともに現れる戦車
「なんでこんな巨大な…ええい!」
砲を受け止め、車両を薙ぎ払う。
「崖を削ったにしても…空から見てわかりそうなものだが…あれか!」
トンネルだ。
まだ2日目だというのに、トンネルを掘ってきていたのだ。
恐らくは昨夜のうちに…くそ!変に大人しいと思った!
敵も無茶苦茶なことをしてくる!
「姫様!お下がりを!」
「エイン!トンネルを掘っているぞ!」
「あれを…私がふさぎます!」
「無茶だ!」
穴はかなり大きい。何せ戦車が出てくるほどなのだ。
続々と穴から現れる兵に騎馬、戦車。
こちらは前方を押され、無防備な脇腹を破られそうになっている。
「サンダーストーム!」
バリバリと空から雷が降る。リリーだ。
何十の敵の命を奪ったが、それでもまだまだ続々と…湧き水のように現れる敵兵。
「ぬおおおお!」
エインは体をひときわ大きく変化させた。
変身できるタイプの種族だったのか。
竜人族の一部は修行により変身が可能になると聞いていたが…それがこれか。
変身前に比べ、圧倒的なほどの大きさ、力、速度…そして魔力。だが、それでもこの人数の前には…
「姫、かつての折にはとんでもないことをしでかしました。このようなことでは償いにはならぬと思いますが…」
「おい、よせ!ぐぬ…この!」
私とエインの間には敵兵がうじゃうじゃといる。
槍を、銃弾を薙ぎ払うが。とてもあそこまで一息にたどり着くことはできない。
私の率いていた本陣部隊は…だめだ、切り離されている。
「ではおさらばです。ぬぐあああああ!」
「おい、待て!」
「うおおおお!アースクェイク!!!」
地竜の姿に変身したエインはそのままトンネルへと突撃。
幾本もの槍に貫かれながらトンネル内に入るとそこで地震を起こし…自らの体ごとトンネルを封鎖した。
「クソっ…ええい、見たか者ども!エインがトンネルを封鎖したぞ!取り残された間抜け共を殲滅せよ!」
「「「うおおおお!!!」」」
「ひいい!」「や、やめ!」「ぎあああ!」
後は一方的だった。
後詰も変える道も無くした人族の兵は手薄になった右翼へ突撃しようとしたが、私がそこに回り込むと戦意を喪失したようだ。大人しく投降した者どもは捕縛して後方に送り、ゴンゾに丸投げした。
何とか…持ち直せたか。
エイン君はカイトと会うことなく退場です。