対ベラトリクス戦線④
リリーが戻ったことで空における戦いは俄然こちらが有利になった。
リヒタールとヴェルケーロ、それにここベラトリクス方面。
魔界に侵入するメインとなる3か所に分けた防衛網。
そのうち、どこが本命との確証がなかったのであちこちに兵は多く置いてある。
だが、我らも無策ではない。
どの戦場も時間を稼ぐ工作をし、強力な駒はおそらく本命であるこの戦場に揃えているのだ。
私とリリーが正面から、カイトが後方から。
そしてグロードは遊撃隊として…
「む、ゴンゾ、私の後ろに」
「姫様、儂など!?」
ゴンゾが何か言っているがそれを無視して私の後ろに隠す。
そして私はこちらに向かってくる敵航空機を睨み付け、
「エアスラッシュ!」
斬撃を飛ばす。
真空の刃は航空機を上下に切り裂いた。
「む…ふんっ!」
敵機のパイロットは切り裂かれる前に銃弾を放っていたようだ。
ひのふのみの…10発か。
それらを指で捕らえる。
何と言う事はない。
10連射程度、私にとってはそよ風のような物だ。
「ゴンゾ、大事ないか」
「問題ありませぬ。姫様、儂のようなものを庇わずとも…」
「お主は我が魔界の頭脳である。最も失っては困るものだとカイトが言っていたぞ」
「おお…儂のような者を…」
ゴンゾは感動して泣いている。
少しカイトが言っていたこととニュアンスが違うような気もするが、まあ概ね言っている事は間違ってはおるまい。
「敵の機体を鹵獲すればよく分かるか?」
「左様ですな。可能ならば…」
上下に分かれた機体を色々と観察しているゴンゾ。
ふむ、完成品が有ればもっとよくわかるだろう。
「よし、一つ取ってみよう」
「は?」
目を点のようにしているゴンゾだが…まあやってやれない事はないだろう。
上空に来た機体。そこに向けてジャンプ!
「あ、イカン。フレアシールド!」
タイミングがぴったり過ぎた。
シールドを構えたまま機体を下から上に突き破り、その直後に爆発した。
爆発自体は盾で防いだので大して問題ないが、燃料がかかってベトベトする。おまけに火がついて少し熱い気がする。
「参ったな…私はこういうのは苦手なのだが」
空中で火を消そうと頑張るが、魔法の火ではなく燃料の火なので思うように消えない。
だが火の温度は魔力で調節できる。
なのでまあ燃えていてもいいか、という結論になった。
「姫様、お止めを…」
「問題ない」
ゴンゾが何か言っているが気にしない。
よし、次はあれだ!
「せい!」
着地した瞬間にもう一度大ジャンプ。
いかん、地面が割れて少しバランスが崩れた。駄目、空振りだ。
「ふうむ…ゴンゾ、難しい」
「それはそうでしょう…火が消えておりますな」
「そのようだな。まあ私にはどうと言う事はないようだ。上空をちらりと見てきたが、下から見るよりウチの連中は上手く戦っているようだ。優勢になっているぞ」
「左様で…これで地上に集中できますな」
ゴンゾは感心したような驚いたような、不思議な顔だ。
地上の戦いは一進一退。
と言ってもこちらは基本的に前に進まない。
塹壕を利用して防御しつつチクチクと攻撃。
調子に乗って一気に攻めて来る相手には落とし穴や火計が待っている。
相手は思うように前に進めず、焦れているだろう。
既に地上戦が始まって半日ほどたった。
あちらとしては今日はそろそろもういいか、一度引いて休憩に、となるかと思うが…こちらもそろそろだ。
夕日が赤くなってきたところで敵は引いた。
明日に持ち越しか…
「よし、今日はここまでだ。哨戒はサボるなよ!夜襲があると思っておくように!」
「「ハッ!」」
「工兵隊は柵と堀の修繕を!飛竜隊は竜を休ませて哨戒を!後の者は飯の準備だ!」
「「ハハッ!」」
その夜、あると思った夜襲はなかった。
幹部を集めた軍議では航空機への対策が話し合われたが、まあ当然そう簡単にできるものではない。
戦が1日で終わるものではないというのはここにいる全員が思っている。問題ない。
燃料はまだあるということだし、後から応援も来るだろう。
時間をかけるほどこちらに有利になる。
事実として朝方、各方面から援軍が来た。
援軍に来た元気な者共を昨日手痛くやられた左翼と正面に多く配置。
右翼の軍は申し訳ないが今日は援軍ほとんどなしだ。
正面の軍はドレーヌが、右翼はエルナリエが、左翼はエイン・シュタークが率いている。
そしてドレーヌのやや後方、少し高い地形に私が、そのさらに後方にゴンゾ率いる大砲部隊と工兵隊がいるという状態だ。
「3軍とも、時間をかけて粘り強く持たせるように。航空機は…空戦はリリーが戻ってからは押し気味のように見えるが」
「そのようでしたな」
「我からもそう見えました」
各方面から見た様子でも少し押していたようだ。
空軍を率いていたリリーは嬉しそうにはにかんでいる。
「敵も空で押されているのは感じたはず。そして地上でも抜けない。なのに夜襲がなかった…何か隠し玉があるかもしれん。気を抜かんようにな」
「「「ハッ!」」」
「今頃はカイトが後ろから回り込んでいるだろう。何もなければ今日あたり敵の後方から騒ぎが起こるはず。そのタイミングで一気に押し出すぞ」
「「「ハッ」」」
「では、各員奮闘するように」
それぞれビシッと敬礼して天幕から出ていく。
残ったのは私とゴンゾだけだ。
「それでは姫様、わしも機体の様子を見に行きますじゃ」
「ああ…」
恐らくは何かある。
全員そう思っているだろう。
だが、それが何かはわからない。
また新しい兵器か、それとも奇襲か…
指で銃弾を…は某ガン〇ム1話のパク…オマージュです。あのシーンかっこよすぎやろ!?