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対ベラトリクス戦線①

大魔王城


アシュレイ・アークトゥルス




「それで…敵の動きは」

「おおよそ予想通りです。南大陸からの援軍を乗せた船はベラトリクス領で錨を降ろし、兵を次から次へを陸にあげているようです」

「許せぬ…!ベラトリクスめ!」

「ドレーヌ殿、落ち着いて。」

「む…王妃様、申し訳ない」


会議室に居るのは私、アシュレイと母にドレーヌ公爵。

それからエルナリエとグロード殿…そしてかつて私を殺めた騎士、エイン・シュタークだ。

リヒタール戦線はガクルックス殿一人に押し付けてこちらに合流したわけだ。

まあここにいるうち、グロード殿はこちらの隠し玉だ。

教皇が出て来なければそのまま隠しておくことになっているので戦力として数えてはいないが。


エインは私を殺めた後、後悔に耐え切れずに騎士団を止めて修行の道に入ったらしい。

80層を単独で攻略し、私を復活させようとしていたのだ。

残念ながら75層で躓いて、80層を攻略を攻略した時にはもう私は生き返っていたという事だ。



そして、今回の人族の侵攻の前に改めて仕官してきた。

母上はやや複雑な心境のようだが、私としては特に遺恨は無い。

私を殺した、とは言え…あれはむしろ私が急に飛び出したのだ。

それに実力を見たが、申し分ない。

ウルグエアルやギザルムと同等かそれ以上の強さだ。

本人の強い希望により、此度の先鋒を任せることになった。

ベラトリクスを討ち獲りますと言っているが果たしてどうなるやら。


そして王妃様とは…私の事だ。

ドレーヌ殿は私を王妃様と呼ぶのだ。止めろと言っているのに。


「では…当方の行動は作戦通りに。エラン峠に向けて出陣します」

「「「ハッ!」」」


エラン峠は大魔王領とベラトリクス領の間にある山道だ。

左右を山に囲まれた道である。

そこまで細い道ではないが、大軍が通るにはどうか。というところだ。

そのエラン峠の出口で受け止める。


その為の野戦築城、付け城の作成は以前より続けていた。

割と大きな空堀に塀、そして兵たちが休むための建物、風呂に食料庫。当然井戸も溜め池もある。


勿論、大魔王城から繋がるように線路も敷設した。

アレが無いと資材を運ぶのにも一苦労だからな…


「では出陣!」

「「「おおおー!」」」


威勢のいい掛け声を上げ、兵たちは大人しく蒸気機関車に乗り込む。

この出陣の様子は…もう一つ決まらんな。

まあ最後尾で何時間も馬に乗って待つだとか、椅子に座って見ているだけなんてことを考えればはるかに良いが。







エラン峠に着いた。

味方は既に到着している。

資材も既に送り、峠の出口、隘路になっている部分を半円形に封鎖する形をとってある。


半円形に溝を掘り、柵を立て、そしてその後方には砦…まあ既に城だな。城を構築している。

こうすることでキルゾーンを作り十字砲火を浴びせることが出来るのだ。

…とカイトが言っていた。


十字砲火がよくわからなかったが、実際に喰らってみるとなかなか大した威力だ。

大砲は兎も角、銃弾の一発や二発撃たれたところで私の防護壁を破ることは出来ない。

だが、それが左右から間断なく打たれるとどうか。


命を奪われることはないが、前に進むことが極めて難しくなる。

それ程の圧だった。


魔界の強者と色々戦ってみたが、私より強い者は既にいなかった。

コッソリ誰もいない修練場で母上やカイトと戦ってみたが、母上には楽々勝ててしまったしカイトは相変わらず姑息な手を使うので苦労したが、やはり勝ててしまった。


『まあこうなると思った』というような事を二人とも言っていた。

10年のブランクがあり、さらに母親になるため1年ほど休んだ。

ハッキリ言って何年も修行をサボっていたわけだが、鍛え続けたどの武将にも勝ってしまう。

私はそのくらい…異常なのだ。



その私が、何百という銃を前にすれば…一人一人は大したことの無い武力の、それも人族や半魔族のような魔力に乏しい人間たちからの攻撃を受けて進めなくなる。

銃弾は見えるし弾ける。

一発だと回避も防御も余裕だが、数が多ければさすがに痛い。

防御に徹すればダメージはそれほどでも無いが、衝撃は馬鹿にならない。


成程、これはすごい戦術だ。

おまけに侵攻側の攻撃は堀や塀、塹壕に阻まれてまともに当てることは出来ない。

だが、防御側は筒先だけ出して打てばよい。


こんな戦い方があるのかと感心と同時に恐怖を抱く。

カイトの来た世界の泥沼の戦場は、今のこの武器よりはるかに高性能の武器を使う。

その一方で防御力は常人に毛が生えた程度だという。

その為まともに向き合うとすぐに死ぬ。死んでしまうのだ。



結果として塹壕をお互いが掘りあい、兵は泥沼のようになった中を這いまわりながら進む、或いはこそこそと建物の陰から陰に移動して、離れた所から狙撃する。

戦士としての栄光とはかけ離れた戦ばかりになっているようだ。


さらに時代が進むと塹壕や建物に隠れている者を上空から爆撃して蒸し焼きにするという戦になるようだが…


「飛竜部隊はどうか」

「順調です。すでに先着、偵察行動に移っています」


今回は敵も航空兵器を用いるかもしれない。

以前にカイトたちが教国に忍び込んだとき、飛行機が有ったそうだ。

航空機に対する備えが必要になるのだ。


その為の一つが飛竜隊だ。

大魔王城の飛竜部隊を率いるのは何と人族の勇者だ。

援軍に来たリリー殿はヴェルケーロ領で育った優秀な飛竜を手足のように操る。

さらに、地上での戦いも強い。

母やカイトを楽々倒す私が模擬戦で負ける時もあるほどの武人だ。


もうピークは過ぎつつあると本人は言っているが、その技の冴えは1手先どころか10手でも20手でも読まれているように感じる。


リリー殿の魔眼を使い、敵を発見する。

あるいは新型の航空機で飛竜のはるか上空に居るかもしれん。

空に居る者を倒すのは大変だが、空から地面を攻撃するのは簡単だ。

どう考えても同程度の高さまで上がれないとこちらが不利になる。ううむ…


飛竜で高高度を飛ぶと何がきついかと言えば気温が下がることで竜の体温が下がる事らしい。

カイトの実験ではアカよりはるかに低い高度で動きが悪くなったようだ。

まあ多少弱っても操縦者が魔力を注ぐことで回復するようだが…さて。


「偵察部隊には敵の飛行基地を発見するようにと伝えろ」

「飛行基地…ですか?」

「私にはよくわからんが、カイトが言うにはまっすぐな地面があるはずだと言っていた。そこでないと『航空機』は空に上がったり降りたりが出来ないらしい」

「…了解しました」


敵はまだ出陣していない。

飛行隊が出てくる前に叩く、あるいは出て来たところで叩く。

さらに可能なら基地を破壊して帰れなくする。


一番良いのは空に上がる前に叩いてしまうことだが、あまりに早く対応して勝算が無くなると敵の出陣が無いかもしれん。変に守られても困る。

こちらが優位な戦場で守り、崩した所で一気に押し返すというのが今回の作戦だ。

城に籠った敵を攻めるのは時間がかかるし難しいものだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現実では塹壕戦もまあ過去の代物になりつつあるけどね 燃料気化爆弾と戦車にドーザーブレードつけて兵もろともに埋める戦術で 長い滑走路が必要と言うことはまだVTOLやSTOLには至ってないのか …
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