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ヴェルケーロ戦線異状なし!

ヴェルケーロ郊外


シュゲイム・エルトリッヒ


「やはり外れのようですな」

「本命はリヒタールか大魔王城か…」


前回、カイト様が亡くなられた際侵攻ではこちらに大攻勢があった。

その時は雑兵の数もとんでもない事になっており、また士気もおかしかった。

味方が撃たれようが潰されようが、地雷を踏もうが…雪崩のように攻めて来ていたものだが、今回はそうはならなそうだ。

昔の人族より士気は高いしどうやら強さも増しているようだが…それだけだ。


今回の敵軍に狂気まみれの攻めは無い。

常識の範囲で狂っている。その程度だ。


トンネルのあちら側、エルトリッヒ領内の山中に築いた砦ではウルグエアル殿が十分すぎるほど時間を稼いだ。その際の報告を聞いたが、やはり敵は精鋭とは言い難いと感じた。

その舞台も今ではヴェルケーロにまで引き、外壁での防備を固めている。


勿論トンネルは既に崩落させた。

新型火薬を天井に埋め込み、起爆すると大爆発とともに敵を巻き込んで崩落したのだ。

作戦通りである。


「それでは手筈通りに…リリー殿、頼みます」

「ハッ!それでは第3、第4騎士団は総員大魔王城へと向かいます!失礼します!」


義妹のリリーを大魔王城方面への援軍に送り出す。

事前に軍議で話し合われていた事だ。

鉄道により大量の兵の移動は極めて容易となった。

足の速い飛竜やケンタウロスだけではない。

足の遅い重装兵や巨人族の長距離移動も容易となったのだ。


今回は大魔王領全体で軍を管理する。

敵軍が少ない場合は遊兵を作らず、本命と思われるルートに多くの兵を送り込む。

逆に敵軍が多い場合は砦や防壁で防御し、援軍の到来を待つという方針だ。


待つと言っても大魔王城からここまで…以前なら歩兵は20日ほどはかかったと思うが、今や専用列車で半日もかからない。食料や武具などの支援物資も同等だ。


戦争はいかに適切な兵を適切な時間、適切な場所に送り込むかで勝敗が決まる。

かつてそう言ってカイト様は講義されていた。


今では元居た世界の話だと分かるが…適切な軍を送り込めず、各個撃破されて敗北した例をいくつか教えてくださった。それを防ぐため、あるいは敵の穴をつくために移動こそが重要なのだと言っておられた。


そしてそれが現実となった。

カイト様は戦争そのものを変えてしまったのだ。


…とはいえ、カイト様の世界での移動はもっと早かったらしい。

戦場の上を航空機が飛び交い、特に急ぐ場合人員は巨大な航空機やヘリコプターと言う羽がアタマの上でグルグル回る空飛ぶ機械で輸送するのだとか。

我等でいうとアカ殿が100人乗れる箱を持って、その中で運ばれるような感じらしい。


…私が以前に死ぬかという思いをした奴だ。

まだ幼いカイト様と二人、ろくに身動きの取れない狭い籠でブルブル寒さに震えていた。

揺れるし、落ちれば間違いなく死ぬ高さだった。

後で聞くと命綱だと思っていたパラシュートは欠陥品で落ちれば恐らく死んでいただろうと…。

今となってはいい笑い話だが、もう二度とやりたくない。


「第三騎士団乗員開始!第四騎士団は4両目から乗員しはじめろ!」


荒くれものの多い騎士団員が大人しく並んで列車に乗る。

賢く並んでまるで子供のようだが、勿論理由があるのだ。


蒸気機関車たちはどれも皆カイト様が大切にしている車両だと皆が知っている。

あそこの中ではどんな酒好きも飲まないし、喧嘩など絶対に起こらない。


第三と第四が居なくなって少し隙間が空いた。

ササッと再編して敵を待つ。


「さて、これからですな」

「まあ前回の戦い程苦戦はしないでしょう。あちらの士気もかなり下がっているようです。それに…」

「我らの、力ですな」

「そうです。カイト様が復活され、ますます力が増している。そう感じませんか?」

「感じますぞ。全能感すらあります…まあ、アシュレイ様に挑んで目が覚め申したが。ワハハ」

「あれはどうにも成りませんでしたな。ハハハ」


ウルグエアル殿と雑談する余裕すらある。

カイト様が復活されてから以前よりはるかに力が増した。

リリーが言うには流れ込む力の質が変わったと。


よくは分からないがそうなのだろう。

だが、そのまま模擬戦をしている際、通りがかったアシュレイ様と手合わせをさせていただいたが…

まあ結果は語るまでもない。


カイト様が昔よくアシュレイは最強だと仰られていた意味がよく分かった。

強さの次元が違う。

もう少しで届きそう、当たるかも、当たれば勝てる。

どんな相手と戦ってもそう感じた。


少年時代の師匠も、騎士団長になってから挑んだどんな達人も、こちらに来て戦ったロッソ殿やマークス殿のような格上でも。

だが、アシュレイ様だけは倒せそうなビジョンが全く見えない。

遥か高みを感じる事だけは辛うじて出来る。だが…


「だが、人の身はあれほどになれるのだ。そう思えば愉しいではありませんか」

「左様。我もいずれ…と思わせてもらえます。何時になるやら分かりませんが」

「私などそろそろ衰えを感じております。これより力が上がることはないでしょうな…長命の方が羨ましいような寂しいような」

「それは…ですが、子や孫につなぐ楽しみはあります。シュゲイム殿の子孫ならいずれ名の知れた勇者も現れるでしょう。いずれはアシュレイ様やカイト様と並ぶ強者も現れるやも」

「そうなればいいですがな…さあ、ようやく敵が見えましたね。では、我らが子らの未来を守るために戦いましょうか」

「応!」


ようやく敵が見えた。

未来に思いを馳せる時間は終わり。

これよりは刹那にのみ生きるのだ。

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