さあ、戦争の時間だ。
アーク歴1510年 陸の月
大魔王城
収穫もまあまあ。
人心も落ち着いた。
ということで…さあ、戦争の時間だ。
「ホント戦争ばっかりだな」
「今回も2正面でしょうか」
「…どうかな」
師匠にマークスにロッソ…おまけにユグドラシル王である爺さんが居なくなって。
俺が頼りに出来る人たちはどんどんと先に逝ってしまった。
2正面で攻めて来るかと予想しているのはシュゲイムやザイールたち。
だが、俺はもっと厳しい状況を予想していた。
「シュゲイムにはヴェルケーロ方面の防衛を任せる。撃破しようと思わず時間稼ぎを主体と考えるように」
「ハッ」
「最悪、再生中の町は放棄しても良いが、以前と同じ仕掛けは使うな。相手も何か対策しているかもしれん。闇雲に突っ込んでこなくなっている分、時間は稼ぎやすいとも言えるがな」
「畏まりました」
シュゲイムは今回もヴェルケーロ方面を任せる。
町長はベロザだが、軍を率いるのはシュゲイムの方が慣れているし知識もある。
さて、ヴェルケーロ方面はこれでいいとして。
「ラム爺、ユグドラシルは問題ないか?」
「問題ありませぬ。我等の領域に只人は入れませぬ。神人とてそこは同じですじゃ」
「ふむ…ならいいが。今回の本命はアークトゥルス方面だと思うがな。伯母上を主将に、ガクさんは…ガクルックス領は大丈夫か?」
「橋を事前に2つ3つ落としておけばまず問題はない。もし攻めてきたとしても鉄道のおかげで援軍も早かろう」
「じゃあガクさんもアークトゥルス方面を頼む」
「承知」
橋を落とすと後で復興が大変なんじゃないかと思うが、まあそれどころじゃないか。
ガクさんの言う事を補足すると、あそこは酷い山道だから敵が来ることさえ分かってれば対策はそれほど難しくないという事だ。
行軍できそうなところには山道しかないから、その上の崖から岩を落とすだとか、一列になるしかないところに砦を作ってあるので、そこで防いでから砲撃すればいいだとか。
…そして監視役は飛竜を適時巡回させている。少数の奇襲は確かに発見が難しいが少数では砦を抜くことが出来ない。大軍だとすぐにばれて道を塞がれる…まあ、よほどの一騎当千の武将でも居なかれば攻める側はかなり厳しいという事だ。
「ヴェルケーロももう少し山の方に砦を作ったりするべきかなあ」
「もともとドラゴンの領域として踏み入れるのは難しい土地でしたからな…」
「ふーん…?」
ドレーヌが言うにはヴェルケーロ領はほぼ全てがドラゴンの領域で、それも火属性のドラゴンが住んでいたので鉱山はあったが採掘は難しく、火の加護のおかげで作物は育ちにくい環境だったのだとか。
それをえらい人がテイムしたからいい土地に変わったんだな。うんうん。
いやあ、そんなえらい人が居るなんて。
すごいもんだ。会ってみたいもんだな~。
「…というかあれか?もしかしてアカを俺がテイムしたから敵が攻めて来るって事か?」
「それもなくもないと言ったところですな…実際のところどうなのですか?グロード殿」
「人族の間では、あそこにで通行の邪魔をするドラゴンが居なくなったから今がチャンスだと…シュゲイム殿はどうだった?」
「我らが避難する際はその情報はまだでしたので、決死の覚悟でした」
恐ろしい火竜に襲われる覚悟を決め、姫と決死の逃避行。
そこで芽生えた愛の…ってか。
これに対してクソが、と毒づいていたのは魔法使いを目指していたころの俺。
今の俺は琵琶湖のように広い心を持っている。
そういうロマンスもあるじゃないの、って感じである。
「…で、実際来てみたら犬みたいな大きさのトカゲだったと?ハハハ」
「いえ…カイト様はあの頃からあまり気にしておられないようでしたが、我々からすれば大きさは兎も角…その存在自体が魔力の塊のようでとても…その、とても恐ろしかったです」
「その割に一緒に空飛んだりしたじゃないか」
避難してきたシュゲイムを連れて大魔王様に謁見に行った。
未だ人を乗せられないアカにカゴを持たせて無理矢理…あれは怖かったなあ
「そうですな。あの頃は若かったですな。使命感と言いますやら何と言いますやら」
「まだ二十歳になるやならずやといったところだっただろう?」
「そうです。大魔王様との謁見ともまた違う恐ろしさが有りました」
「そうだなあ…あれは酷かった」
苦笑いするシュゲイムと俺。
アレはもう10年以上前の話になるのか。お互い若かった。
シュゲイムは高校出たかどうかって年だろうし、俺なんてクソガキだっただろう。
あの時は実際かなり危なかったみたいだしな。
もうあんなの絶対したくない。
興味深そうにしているラム爺たちにその時の話をすると羨ましがられるやら呆れられるやらだった。
しかし、アカが居なくなったせいで攻めてこられるというのは困ったな。
何かいい感じで番人になってくれるモンスターでもいればいいが、そう上手くはいかない。
やはり砦を作るか。それとも…
「いっそトンネルの向こう側に見張り砦でも作るか。普段はなんだかんだとトンネルを使うが、いざとなれば軍は引いてトンネルを崩壊させればいい時間稼ぎになる」
「成程」
交易も細々と行っているし、偵察に向かうにもある方が便利だ。
全部潰してしまうのももったいないんだよなあ。
出来るだけ時間を稼いで防衛してもらってる間に一方を片付けて支援に向かう。
もしくは防衛でぶっ叩いて逃げるところを追撃、教皇のいる教都まで軍勢で攻め上がる。
追撃で一気に攻めたいが、そう上手くいくかなあ?
出来ればもう前回の夜襲のようなバクチはしたくない。
聖騎士団を滅ぼし、最新の武器を得た。
得たものは多いが、ジジイとマークスを喪った。
俺はもうこいつらを失いたくないのだ。
やはり。
…やるからには必勝を期したい。
「防衛をメインに考えよう。奥深くまで敵を入れて、奇麗にぱっくり全部殲滅して…そしてそのまま反転攻勢を、と考える。リヒタールも取り戻すし、旧帝国領も得よう。教国がグズグズに破れたらあちらの支配下の国たちも裏切りやすくなるはずだ。」
「ハッ」
「その為には上手く負けて引き込む、或いは攻めてきた軍の後ろを取る必要がある。」
「負けるのですか?」
「負けろとは言わんが…」
脳内で地図を確認する。
アークトゥルス魔王領は守るにあまり適していない。
平野が多く、大軍が展開しやすいのだ。
いっそリヒタールの方がいい。うーん。ここは…
「いっそこっちからリヒタール攻めるか」
「良いですな」
「やっと我らの出番ですな!」
ウルグエアルたち武闘派がやんややんやと盛り上がる。だが俺は勿論まともに戦う気はない。
正面切った城攻めなんてするやつはアホだ。そう思っている。
「じゃあ…盾をいっぱい用意して。大砲でも抜けなさそうなの」
「はあ」
「巨人族の皆さんにそれを持ってもらって…」
「砲を防いで、突撃ですな!?」
「盾が壊れたふりして逃げてもらおう」
「「「…はあ?」」」