旧交
101層のボス、リシゾデーアが消えた。
最後にドロップアイテムとかあるんじゃないのと思っていたが、何もなく消えたのだ。
逆に拍子抜けである。
ここは何か寄越せよ。
ドロップアイテムはまだないのか、何でないんだと考えていると、そこに現れる魔法陣。
「あそこに行けって事だろうな。なんかドロップアイテムとかないのかな?」
「まだ戦いがあるのではないか?」
「ちょっと嫌だな。もう疲れたぞ」
「俺もなんだか急に頭が頭痛が痛くなってきた。お腹も下痢で腹痛になりそうな予感が…」
「儂だって嫌だぞ」
みんなが譲り合いの視線を交わす。
暖かい、譲り合いの精神である。古き良き日本の心やね。
「アルスに良い武器貰ったんだしグロード行けよ」
「それとこれとは関係ないだろ。お前行けよ」
「しかたない、儂「カイトは私が守る。任せろ、私が見てきてやろう。この中ではぶっちぎりで最強のこの私がな!」…が?」
「「な…」」
なんだそりゃと言いたげなグロードと、アシュレイカッコ良すぎやろ。惚れてまうやんって俺と、いい所を取られてどうコメントすればいいのか困るガクさん。
まあ一番強いという所には俺には文句はない。
他の二人はややそこに引っかかっているようだが…
そうこうしている間にアシュレイは突っ込んでいった。
そしてピシュン!とどこかに転移された。
そう思ったのだが、「えええ!?」と声が聞こえて来たのだ。
なんでそうなるのか?転移したのに何故声が…
「まあ行ってみるか…」
「おう」「うむ」
取り残された男3人はフラフラとついて行った。
視界が一瞬暗転し、出たところは…
「ああ、ここ『控え室』じゃん」
以前に訪れたことのある部屋だ。
大きなモニターのようなものがあり、人が沢山いる。
死んでた時に来たことのある…部屋だな。
あの時は何故かモニターしか見えなくて気付かなかったが、後ろはかなり広い。
広い部屋、空間の後方には闘技場というか、リングまである。
アシュレイはどこいった?
「アシュレイちゃんカッコ良かったわ!でもカイトったら駄目ね、子供産んだすぐの女の子に無理させちゃって!アシュレイちゃんも、これから二人目三人目ってバンバン産まないとダメなんだから体をもっと大切にして!それから、次は女の子が良いわ。私も女の子が欲しかったんだけどね、カイトが産まれて。次にって頑張ってたら…」
「ア、アシュレイ。頑張ってたね。ぼ、僕は…「私が今喋ってるじゃないの!」ええ?ちょっと、僕にも喋らせて」
うん、母上に物理的に捕まってマシンガントークに遭っているアシュレイと、アシュレイに話しかけたいけど俺の母上の勢いが凄すぎて話しかけられない伯父上だ。
うん…まあそうなるのか。
「おう、カイト!楽しそうだったな!ガハハ!だが、もっと力を付けた方がよいぞ!力こそ全てよ!」
「申し訳ありません。しかし、坊ちゃんも頑張っておられますので」
「申し訳ありません旦那様。私の力が及ばず…」
「お主らを責めるつもりは無いのだがな、ワハハ」
「親父…ロッソ、マークス」
そんなアシュレイを見ている俺に話しかけて来たのは親父とロッソとマークスだ。
ああ…マークスも此処の住人になったのか…だが。
「酔っ払いは放っておいていいか。師匠はいないのか?」
「彼女はまだ本格的にここに来ていない。資格が有るようで無いのさ。以前の君と同じだね」
「アルス…どういう意味だよ」
「まだまだ生き返れるという事だ。励めよ」
師匠はいない。
疑問に思っているとアルスが謎かけのようなことを言い、大魔王様がアッサリと答えを言う。
それにややムッとした顔のアルスと得意気な大魔王様。
「酷いじゃないか。僕が教えようと思ったのに」
「何がだ。文句があるなら戦って示せばよかろう」
「また僕が圧勝してしまうね」
「良く言う。最近は五分以下の癖に」
「何を!」
「さあ来い!」
アルスと大魔王様で口喧嘩が始まったと思ったらあっと言う間に闘いになった。
ここは広いし闘技場もある。
好きなように暴れまくる二人を放置して俺は親父たちと話し、アシュレイはおかんに捕まっている。
グロードをチラッと見ると、アイツも人族の…たぶん祖父あたりだ。顔が似てる。
ガクさんもどうやら知り合いっぽい人に話しかけられて笑顔で答えている。
死んだ知り合いが元気そうだったらなんか嬉しいよな。分かるわ。
まあ俺も久々に親父たちと話すのは少し楽しい。
それにしても、以前に聞いた話では100層を攻略すると何度でも生き返ることが出来ると聞いたのだが…師匠は大丈夫、とはどういう意味なのだろう?
それにユグドラシルのジジイもいない。ジジイも実力的にはここにいるメンバーと大差ないと思うが。
…まあいいか。いまはそれよりも。
「マークス、先の戦ではその…助かった。すまん」
「何を仰いますやら。私としても久々に暴れられて楽しかったですぞ。…まあ正直、敵としては物足りぬ相手でございましたが」
「お前が暴れまくったおかげで聖騎士団は壊滅して教国内部もガタガタになったらしい。そのおかげか洗脳も解けて相手の動きも鈍い。いいザマだ」
「それは大変結構ですな。ホッホッホ」
「お前らは暴れまくって戦場で死んだから楽しそうで羨ましい。儂らなんて毒だぞ。アレはつまらんかった」
「あの頃はきな臭いから注意しとけって自分でも言ってたじゃん…」
きな臭かったのだ。
わざわざ王女を二人、信頼できる家臣の所に預けるくらいにはあの頃のアークトゥルス魔王城は。
今になってわかる。
自分の城が信用できない伯父上の苦労は相当なものだっただろう…
だからと言って家臣を雇わないわけにもいかず、誰が裏切りそうかなど全く見当もつかず…
ウチはマリア達をさっさと雇ってそれなりの待遇にしてるから心配なくてよかった?
心配ないよな?ないはず?
「坊ちゃま、これなる者はマリア殿らの祖先にて」
「おお、これはいつもお世話になっております。カイト・リヒタールです」
「これはご丁寧に。ヤレウと申します。我がひ孫がいつもお世話になっておりまして…」
なぜかお互いに日本風にペコペコしながら挨拶してしまう。
ちょっとおかしな構図になってるだろうけどまあ誰も気にしない。
そんなこんなで旧交を暖め、気が向いたら闘技場で戦って訓練してのんびりと過ごした。
たまにはこんな日も良い。