101層③
『うむ、中々やる。』
「そりゃどーも」
『では、そろそろ良かろう』
そう言うと小柄だったリシゾデーアはみるみる大きくなり、翼に尻尾が生え、腕が4本に。体は横に二回り、三回りほど大きくなり…最終的には身長は3mほど、そして全身が大きく爛れた醜悪な見た目になる。
「なに?」
「変身!?」
「なんだと?」
「…そう来ると思ったわ」
俺一人だけ周囲と異なる反応をしているが、大体こういうボスは変身するものだと思っていた。
ある程度のダメージを与えたら真の恐怖をなんちゃらとか言いながら変身する。
そこまでの戦いでHPやMPを上手いこと温存してないとだめなのだ。
まあこのメンバーは特に問題あるまい。
「どんとこいだ」
「なぜそんなに余裕なのだ」
「そういうパターンだと思ってればどうという事はない」
「相変わらずよくわからないことを…」
巨大化し、醜悪になったリシゾデーア。
背中からは七色に輝く触手を…持っているな。
これはつまりあれか。教皇の後ろにいたやつとほぼ同じ存在なのだろうか。
「お前と同じようなのと戦ったことがあるんだけど?」
『勝てれば大したものだがな』
「傷つけてもすぐ回復したし、触手に傷はつけられなかった」
『ふむ。攻撃力が足りていなかったのかもしれんが…対神性能のある武器を用意すべきだったな。そこの剣のように』
そうやってグロードを指す。
正確にはアルスの剣だ。
ゲームでよくある対魔や対神の特効武器なのだろう。
そういうのを用意しとけってことか…だがまあ。
「なんでヒントくれるんだ?」
『そうでもせんと面白くない。そうではないかな』
「…そうかもな…いくぞ!パワーアロー!」
魔力を大量に込めたゴン太の矢を放つ。電柱のような太さだ。
『ふん…なに?』
そしてその後ろに隠れるように接近。
電柱を弾いて隙を作ったリシソデーアに吶喊する。
「どらあああ!」
愛用の爪切り短剣にも魔力をふんだんにまとわせてぶん殴る。
ジジイの爪切りもびっくりするほど多くの魔物を狩った。
年寄りの爪切りとして生涯を終えようとしていた短剣も、まさかこんな風にメイン武器として使われる日がまた来るとは思っていなかっただろう。
果たして、爪切りはリシゾデーアの防御を貫いた。
触手をなんとか切り裂き、本体の腹部と思しきところを刺し貫いた。
『ふん!浅いわ!』
俺は爪切りを握りしめたまま横に切り裂こうとするが、そうはさせじと左腕の二本目を出してくる。
左腕の1本目は上から肘打ちをしてくるが、そいつは盾でガード。
当然のように押し負けてしまう。
「くそ!」
「ふんぬ!」
ガクさんが後ろから支えてくれる。
そしてそのまま攻撃を続ける。
左側を俺たちが。そして右側からグロードがアルスの剣で攻める。
「でええええい!」
アルスの剣は右の触手をスパっと、返す刀で右の腕も片方スパッと切ってしまった。
「「「ええ?」」」
『ぐぬ!?』
あまりの切れ味に斬った本人はもちろん、敵も味方も全員びっくりである。
とは言え隙が出来た。
俺は爪切り短剣に可視化するほどの魔力をぶち込んだ。
それでもあの触手は何とか切れる程度だった。
でもグロードの剣は、いや…アルスの剣はスパッと切ってしまったのだ。なんてこった。
『ええい!鬱陶しい!ダークネス・エクスプロージョン!』
「ぐおっ!」「うおお!」
闇を纏った爆発。
その爆発により吹っ飛ばされる俺達。だがそこに。
「アシュレイ!」
「はあああ!」
まだ残る爆炎に突っ込むアシュレイ。
左をカバーしていた触手も右側の触手ももうない。
アシュレイはガードしようとする左下腕を斬り払い、腹部に角槍を突き刺す。
グロードの剣と同じく、マンモスの槍もやたらと効果が高そうだ。
『ぐおおお!』
「まだまだあ!」
そして追撃にドカンと一発。
『ぐぬ…貴様ら…』
「まだまだ!」
「おらおら!」
「うおおおお!」
『ぐ、この…ぐお…』
触手の力によってどんどん再生する。
だが、それを黙ってみているわけにはいかない。
触手をスパスパ切断するグロード。
そして本体に円錐形の風穴を穿つアシュレイ。
残った手足の攻撃を身を挺して防ぐガクさん。
そして応援する俺。ってなんでやねん。
「ツリーアロー!パワーアロー!ヒール!ヒール!」
することがないから回復する。
このまま終わりそうかなと思ったが、当然そういうわけにはいかない。
『この…雑魚共があああ!!!』
「ぐ…お!」「きゃあ!」「ぬうう!」「うおお!」
ドガンと大きな爆発。
吹き飛ばされる3人とその後ろにいた俺。
そして吹き飛ばされた拍子にグロードの手からポロリと転がるアルスの剣。チャンスである。
「いっただきー!」
「あ、待て!」
アルスの剣を借り受け、魔力を全力で流す。
光り輝く刀身は元の何倍にも伸びたように見える。これで!
「どっせええええい!」
全力を持って振り下ろした剣はリシオデーアを縦に半分に切り分けることに成功した。
勝った!
『ふむ…なかなかやるな、当代の魔王よ』
「おうよ。まだやるのか?」
『いや…此度は我の負けでいい。なかなか良い戦いであった。僕共もなかなかよく鍛えられている。我の片割れも…貴様らなら討伐できよう』
「「シモベ!?」」
「「片割れ?」」
『うむ、ではさらばだ』
「あっ、おい!」
ボスはあっさり消えた。
そこには何もない。あるのはいいところを横取りされてむくれるアシュレイと、剣を勝手に使われて不貞腐れるグロード、それに素直に感心してくれているガクさんだけだった。
つーか、勝ったら教えるとか言ってたのに…片割れってなんだよ!
嘘つき!