101層②
いきなり飛んでくる光線は脅威だ。
そもそもビームや光線銃は光と同じ速度で飛んでいるはず。
目で見るのと同じ速度で飛んでくるのだから銃が光ったと見た瞬間には当たっている。はずなのだ。
アニメのロボット物の主人公はビームをひょいひょい避けていた。
光の速度で飛んでくるのを見て避けられるわけないじゃん。
…と思っていたが、まあ実際の戦いとなると避けられる。避けられるのだ。
見るべきはビームそのものではなく銃口だったのだ。
この場合は指先や掌だが。
そんなわけでリシゾデーアの手がこちらを向くと大きく避ける。あるいは防御する。
親父の残した盾はあの光線も弾くことができる。
同じようにグロードは剣で弾き、ガクさんは土をピカピカに磨いて鏡面仕上げにして弾いている。
ミラーシールドやミラーアーマーという奴だ。
一回反射したのが俺の方に飛んできてブチ切れそうになったが。
アシュレイ?アシュレイは…本当の意味での「見てから避けました。」ができる人なんだよな。
俺らが大きく飛んでよけたり必死にガードしているのを尻目に、アシュレイは見切って避けている。
道中でも雷魔法をホイホイ避けていたが、アイツはやっぱりぶっ壊れだ。
『なかなか良い。これほどの実力者が揃ったのはいつ以来だろう』
「初めてだとは言ってくれないのか?」
『そうかも知れん…ああ、その剣。その剣の持ち主が来た時もいい戦いができたと思うが…はて?何時だったかな』
グロードの剣を指さしながら言う。
これは…アルスの剣だ。初代勇者の。
そういやあいつも塔を上ったとか言ってたな…
「この剣は俺のご先祖様の剣だ」
『そうか。楽しみだ…此度は何人残れるだろうかな。ふはは』
「…どういう意味だよ?」
「アルス様は塔を制覇した戦いで戦友を2人喪ったらしい。そしてその後の戦いで…」
そういう事か。
んで仲間を喪いながら苦労して神様呼び出したらクソみたいな結果になったってことか…
全く、何のために苦労したんだアイツは。
「だが…まあ、何というか…」
『んん?』
「ある意味師匠の敵討ちみたいなモンだってことだよな。なあ?」
「ああ」
「燃えてきたな」
「…俺はとっくに燃えてるぜ!」
聖剣から炎を出し、体を雷で包み。
いろんな意味で燃え上がったグロードが突っ込む。
どうやら魔族3倍の法則は適用されているようで、いつもモンスターと戦っている時より素早く、力強い。
グロードは剣を振りかぶり、思い切って突っ込む。
そこに光線が飛んでくるが、予見していたのか躱す。
そしてがら空きの胴に一撃。
ドンッという音とともに切り裂かれるリシゾデーアの胴。
そして後方にぶっ飛んでいく敵が見えた。だが、当然終わらない。
「おらおらおら!」
雷魔法を追撃で放つグロード。
そして便乗してアシュレイは黒炎を、俺は丸太より太い木矢を、ガクさんは大きな岩を放つ。
物理と魔法が入り混じった攻撃だ。
「はあ、はあ…クソ」
『今のはなかなか良かった』
「まあこのくらいで終わるわけねえよな…!」
そうなのだ。
今のくらいで終わるならアルス一人で楽勝なんじゃないかと思う。
まあ俺ならこんなの喰らったら一発でダウンなんだけどね。
「少し落ち着けグロード。交代だ、俺g「私が相手になってやろう」…ハイ」
肩で息をするグロードに前衛を変わってやろうと声をかけるもアシュレイ様が…ハイ。
というわけで俺は大人しく後ろから支える。
強敵を見て楽しそうに突撃するアシュレイ。
あのでかい槍をどうしてあんなに軽々と振るえるのか。俺が震えるわ。
なんて思いながら後ろからチクチク。
小さな隙を見てはチクっと。
大きな隙を見せてもやっぱりチクっと。
大した隙がない時でも牽制にチクっと。
俺はアシュレイの後ろに隠れてチクチクするのが性に合っているのか。
いいコンビネーションだと言ってもらえればいいが…
『ええい!鬱陶しい!』
「む、おおお!?」
こちらに殺気が飛んでくる。
てっきり光線が来るかと思ったが違う。
尻尾だ。
いつの間にか生えていた尻尾が俺を襲う。
親父の盾を巨大化してガード。
軽い俺は例によって吹っ飛ばされるが、まあそれはいい。
追撃の気配を感じたので樹を腕から生やし、天井にびよーんと引っ張られるように張り付く。
木というかツタのような植物だ。おまけに伸縮性もある。
天井からびよんびよんしながら回避しつつチクチク攻撃。
『ええい、チクチクと…おまけになんだその避け方は』
「知らん。いつの間にかできるようになった」
樹を切り離してホイっと着地。
天井に張り付いてそのまま移動できるとはいえ、やはり地上より少し遅くなる。
意表を突くことは出来るが、使いづらい能力ではあるな。
「気持ち悪い」
「蜘蛛みたいな奴だ」
「魔王のすることとは思えん」
「かっこいいだろ!?」
なお、味方からも不評だった。
この素晴らしさが分からんとは御し難い。