敗北からの帰還
アシュレイ視点です。短めです。
アーク歴1510年 壱の月
大魔王城
アシュレイ・アークトゥルス
人間界からカイトが帰ってきた。カイトとアカだけで、二人ともかなり落ち込んだ様子で。
カイトはゴンゾの所に行って戦利品を並べた後、死んだように眠っているので詳しくは聞いていないが、カイトの強襲作戦は失敗だったようだ。
だがまあ実際の所。
私も母上も、失敗は覚悟していた。
最悪のケースなら全員死んでいただろう。
だが、カイトとアカは生きて帰って来た。それだけでも喜ぶべきことなのかもしれぬ。
泥のように眠っているカイトはダンジョンから帰ってきたように強化されて見える。
アカも同じく…二人とも大量の敵、大量の人間を倒してレベルアップしているのだろう。
あの人殺しを嫌うカイトが…覚悟を決めて戦ったのだろう。だが、それでも勝てないとは…
「困ったものだな」
大きくなってきた腹をさすりながら考える。
カイトに寝る前に聞いたが、単独で80層を攻略した強者のみで100層を攻略すると101層に入れるらしい。
そこには神をも倒す力がある…というが。
アカはその場に居なかったので全貌を把握していないようだが、アカが帰り道にカイトから聞いたところでは、奴はどんなに触手のような物でガードし、それを抜けて傷つけてもあっさり修復していたと。
一度は致命傷だと思ったがそれすら無効だったようだと…そのようなモノを相手にどうすれば…
「それにしても80層単独攻略した者、か」
カイトと私、それに…時間を掛ければおそらくはアカも攻略できるだろう。
ドラゴンを人数に数えていいのだろうか。
それと、一人で攻略…という所に引っかからないのだろうか。
後は誰がいるか。
マークスやロッソなら恐らく可能だっただろう。
ユグドラシルの爺上も可能だったとは思う。母上は…わからない。
後は…
「ガクルックス殿とかはどうだろう?」
思わず独り言ちる。
彼なら恐らくは攻略できるだろう。
攻略して1年以上たち、さらに強化されたカイトとほぼ互角だった。
暑さ寒さ対策など、やらねばならないことはあるが、そこは大した問題にはならないだろう。
「あとは…」
「リリーも大丈夫だろう。80層ボスが誰になるかは分からんがな。それに叔母上とベラさんくらいか?シュゲイムは無理だろうしベロザは未だ厳しいと思う。後の魔界の猛者と言えば…」
「…起きていたたのか」
「ぼんやりと聞こえていた。心配かけて済まなかった。ゴメンな、アシュレイ」
「全くだ。お前を送り出す時、どんな思いをしたと思っているのだ…全く!」
「…すまんな」
危うく子供を父親知らずにしてしまうところだったではないか。
そう抗議しようと思ったが沈んだ顔を見せられるとどうしようもない。
仕方ない、惚れた弱みとはこういう事なのだろう。
私も子を産めば戦線に復帰しなくては。
いや、でも二人目も欲しくなるかもしれん。難しいな。